睡眠・覚醒障害は、不眠や日中の過度な眠気など、睡眠と覚醒のサイクルに問題が生じる病気の総称です。生活の質に大きく影響しますが、適切な治療で改善が期待できます。
眠りと覚醒のリズムが乱れる病気
- 寝つきが悪い
- 夜中に何度も目が覚める
- 朝早くに目が覚めてしまう
- 日中に耐え難い眠気がある
- ぐっすり眠った感じがしない
- 睡眠のリズムがずれている
- 脚がむずむずして眠れない
- 睡眠中に呼吸が止まる
はじめに:健康の土台となる「正常な睡眠」
人生の約3分の1を占める睡眠は、単なる休息ではなく、心と身体の健康を維持し日中の活動を支える不可欠な生命活動です。睡眠・覚醒障害の解説に入る前に、まず私たちの健康の土台である「正常な睡眠」の仕組みを見ていきましょう。
睡眠の仕組みや快眠のコツについては、こちらの記事もご参考ください。
>>精神科医が解説する睡眠の仕組みと快眠のコツ
睡眠の2つの顔:レム睡眠とノンレム睡眠
私たちの睡眠は、性質の異なる2つの状態で構成されています。
- ノンレム睡眠:脳の休息を主な目的とする睡眠。入眠直後に出現し、深さによって3段階(N1・N2・N3)に分けられます。このうちN3は「徐波睡眠」とも呼ばれる深い眠りの段階です。
- レム睡眠:身体の休息を主な目的とする睡眠。脳は活発に活動し、鮮明な夢を見るのは主にこの時期です。急速な眼球運動(Rapid Eye Movement)が特徴で、身体の筋肉は弛緩しています。
健康な成人では、入眠後まずノンレム睡眠に入り、約90分後に最初のレム睡眠が出現します。その後約90〜120分の周期でノンレム睡眠とレム睡眠が一晩に4〜5回繰り返され、前半は深いノンレム睡眠が多く、後半はレム睡眠の割合が増えていきます。

睡眠を操る2つのメカニズム
- 睡眠恒常性維持機構(疲労回復システム):「疲れたら眠くなる」という仕組み。起きている時間が長いほど、脳内にプロスタグランジンD2やアデノシンといった睡眠物質が蓄積して睡眠欲求が高まり、睡眠によってこれらが減少し脳の疲労が回復します。
- 体内時計機構(覚醒維持システム):「夜になったら眠くなる」という約24時間周期のリズム。中枢は脳の視交叉上核にあり、日中は覚醒信号が強く、夜になると弱まって眠りにつきます。このリズムは光でリセットされ、メラトニンというホルモンも深く関わっています。
この2つのシステムがバランスよく連携することで、健康的な睡眠・覚醒サイクルが保たれています。
加齢による睡眠の変化
睡眠パターンは一生を通じて変化します。高齢期には、深いノンレム睡眠が減って浅い眠りが増える、夜中に目が覚めやすくなる(中途覚醒の増加)、就寝・起床時刻が早まる(早寝早起き)といった変化がみられます。
これらの変化は生理的なもので、必ずしも病的ではありません。大切なのは、日中の眠気に困らず、睡眠によって休養感が得られているかどうかです。この精巧なバランスが崩れると、さまざまな「睡眠・覚醒障害」が生じます。次の章から、患者さん・ご家族の方向けに具体的に解説します。
ここから先は、睡眠の異常(睡眠・覚醒障害)についてお話しします。
1. 睡眠・覚醒障害とは?
「夜、眠れない」「日中、眠くて仕方がない」といった睡眠の悩みは、多くの方が経験します。日本の成人のうち、実に5人に1人が何らかの睡眠の問題を抱えているといわれています。
睡眠・覚醒障害とは、単なる「寝不足」や「夜更かし」とは異なり、睡眠の量・質・タイミングに異常が生じ、その結果、日中の活動に支障をきたしている状態の総称です。眠るための適切な環境や時間があるにもかかわらず睡眠に困難を感じ、日常生活に影響が及んでいる場合に「障害」と診断されます。
大きく分けると、以下のタイプがあります。
- 不眠障害:眠れないことが主な問題
- 過眠障害:日中に過剰な眠気があることが主な問題
- 概日リズム睡眠・覚醒障害:睡眠のリズムがずれてしまう
- 睡眠関連呼吸障害:睡眠中に呼吸が止まったり浅くなったりする
- 睡眠時随伴症・睡眠関連運動障害:睡眠中に異常な行動や体の動きが現れる
これらは生活の質(QOL)を大きく下げるだけでなく、高血圧や糖尿病といった身体疾患のリスクを高めることもあります。一方で、適切な治療や工夫によって改善できる病気でもありますので、一人で悩まず専門医に相談することが大切です。
2. 主な症状
症状は多岐にわたりますが、代表的なものをご紹介します。ご自身の状態と照らし合わせてみてください。
これらの症状が週に3回以上あり、かつ3か月以上続いている場合は、不眠障害などの可能性があります。気になる症状があれば、ぜひ一度ご相談ください。
3. 原因やきっかけ
原因は一つではなく、さまざまな要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています(生物・心理・社会モデル)。
これらの要因は、一つだけが原因となることもあれば、複数が重なってきっかけとなることもあります。
4. 診断の流れ
「眠れない」というご相談では、まずその悩みの背景にある原因を丁寧に見極めることから始めます。
- ステップ1:問診 いつから・どのような状況で・どのくらいの頻度で眠れないのか、日中の生活への影響、睡眠時間や就寝・起床時間などの睡眠習慣を詳しく伺います。ご家族から、いびきや睡眠中の呼吸の状態、異常な行動などの情報をいただくことも重要です。
- ステップ2:他の原因の除外 身体疾患・精神疾患の有無、服用中の薬(お薬手帳で確認)、他の睡眠障害(睡眠時無呼吸・むずむず脚症候群・概日リズム睡眠覚醒障害など)が隠れていないかを鑑別します。
- ステップ3:検査 必要に応じて、睡眠日誌(就寝・起床時間や中途覚醒の記録)、心理検査(エプワース眠気尺度など)を行います。終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)は睡眠時無呼吸やレム睡眠行動障害などの確定診断に必要で、当院では実施していませんが、必要な場合は専門の医療機関にご紹介します。
これらのプロセスを経て総合的に診断を行い、お一人おひとりに適した治療方針を決定します。

5. 主な治療法(睡眠衛生・認知行動療法CBT-I)
睡眠・覚醒障害の治療は、薬物療法だけでなく、生活習慣の見直しや考え方の工夫など、多角的なアプローチが重要です。当院では、お一人おひとりの状態に合わせてこれらを組み合わせて行います。
不眠症の認知行動療法(CBT-I)とは
慢性的な不眠症に対しては、不眠症の認知行動療法(CBT-I:Cognitive Behavioral Therapy for Insomnia)が、薬を使わずに改善を目指せる中核的な治療法です。睡眠薬と同等以上の効果があり、しかも治療をやめた後も効果が長続きしやすいことが多くの研究で示されており、欧米のガイドラインでは慢性不眠症治療の「第一選択」として国際的に確立しています。
近年は、後述する「睡眠衛生指導」だけを単独で行うのでは効果が不十分とされ、下記の刺激制御法・睡眠制限法・認知再構成法などを組み合わせることが重視されています。当院ではこうした認知行動療法の考え方に基づき、医師が継続的に助言・指導を行います。CBT-Iの考え方の詳細は>>認知行動療法のページもご参考ください。
CBT-Iの主な構成要素
最近の動向:CBT-Iはスマートフォンアプリなどを用いたデジタル形式(dCBT-I)でも対面と同等の効果が示され、欧州の不眠症ガイドライン(2023年)でもデジタル提供が推奨されています。国内では不眠障害用の治療アプリがプログラム医療機器として承認され、関連学会からは対面のCBT-Iについても診療報酬上の評価を求める共同声明(2024年12月)が出されるなど、普及に向けた環境整備が進んでいます。
良い睡眠のための具体的な工夫(睡眠衛生)

6. 睡眠薬について(種類と特徴)
睡眠衛生指導やCBT-Iだけでは改善が難しい場合や、症状が重い場合には、睡眠薬の使用を検討します。現在の睡眠薬は、作用の仕組みによって大きく次の4つのグループに分けられます。近年は、ふらつきや依存性のリスクが比較的少ないオレキシン受容体拮抗薬やメラトニン受容体作動薬が使われることが増えています。
① オレキシン受容体拮抗薬
脳の覚醒を維持する物質(オレキシン)の働きを抑えることで、覚醒から睡眠へ自然に移行させます。従来の薬で問題となりやすかったふらつきや依存性のリスクが比較的低いとされ、近年の不眠症治療で中心的な選択肢の一つです。国内では現在3種類が使われています。
② メラトニン受容体作動薬
体内時計を調節するホルモン(メラトニン)と同じように作用し、眠りやすい状態に体を導きます。作用は穏やかですが、依存性が少なく安全性が高いのが特徴で、特に体内時計の乱れや高齢の方に向いています。
③ 非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(Z-drug)
脳の活動を鎮める神経(GABA神経)の働きを強めて眠りを促します。次のベンゾジアゼピン系より作用が睡眠に絞られているとされますが、ふらつきや依存性には注意が必要です。主に寝つきの悪さ(入眠困難)に用いられます。
④ ベンゾジアゼピン系睡眠薬
同じくGABA神経の働きを強めて催眠作用を発揮します。確実な効果が期待できますが、ふらつき・転倒、日中の眠気、長期使用による依存性に注意が必要で、特に高齢者では慎重に用います。作用時間によって、超短時間型・短時間型・中間型・長時間型に分けられ、不眠のタイプ(入眠困難か、中途覚醒・早朝覚醒か)に応じて使い分けます。

睡眠薬を服用するうえでの注意点
- 医師の指示通りに服用する:自己判断で量を増やしたり、急にやめたりしないでください。急な中止で不眠が一時的に悪化すること(反跳性不眠)があります。
- アルコールとの併用は避ける:作用が強く出すぎたり、記憶障害などの副作用が起こりやすくなります。
- 服用後はすぐ就寝する:服用後に活動を続けると、ふらつきや、まれに記憶があいまいになることがあります。
- 出口を見据えた治療:漫然と長期間使うのではなく、症状が改善したら、医師と相談しながら少しずつ減量・中止を目指します。
当院では、不眠のタイプ・年齢・生活スタイル・合併している病気などを総合的に判断し、できる限り適した薬を必要最小限の量から処方することを心がけています。

さらに詳しく知りたい方はこちら 精神科の薬物療法について >>
7. 回復や再発予防について
治療のゴールは、「薬なしで理想的な時間眠れるようになること」だけではありません。大切なのは、「日中の生活の質(QOL)が保たれ、睡眠で十分に休養がとれている」と実感できることです。
睡眠薬を減らしていく過程で、睡眠時間が少し短くなったり、以前ほどの熟睡感が得られなくなったりすることがあります。しかし、それで日中の眠気やだるさがなく元気に活動できているのであれば、それはご自身にとって必要な睡眠がとれている証拠です。
再発を予防するためには、改善した後も睡眠衛生を継続することが重要です。ストレスが溜まった時や生活リズムが乱れた時に再び不眠の症状が出やすくなることがあります。そのような時は、早めに睡眠衛生やCBT-Iの内容を思い出して生活を立て直しましょう。それでも改善しない場合は、一人で抱え込まず早めにご相談ください。早期に対応することで、症状の悪化を防ぐことができます。
8. 患者さんへの接し方(ご家族・同僚へ)
周りの方のサポートは、患者さんの回復にとって大きな力となります。睡眠の問題は外からは見えにくいため、「怠けている」「やる気がない」と誤解されがちですが、ご本人は非常につらい思いをされています。温かく見守り、適切なサポートをお願いします。
ご家族ができるサポート
- 病気への理解を深める:睡眠・覚醒障害が気持ちの問題だけではない「病気」であることを理解し、症状や治療を一緒に学び、つらさに共感する姿勢が大切です。
- 安心できる環境を作る:静かで快適な睡眠環境を整える手助けをし、日中の過度な干渉は避けて本人のペースを尊重しましょう。
- 睡眠衛生の実践をサポートする:朝、一緒にカーテンを開けて光を浴びる、夕方に散歩に誘うなど、実践しやすくなる働きかけが有効です。
- 「眠れた?」と聞きすぎない:毎朝の「昨日は眠れた?」はプレッシャーになり、眠りへのこだわりを強めることがあります。睡眠より、日中の体調や気分を気遣う言葉を。
- 受診を勧める・付き添う:つらそうなときは専門医への受診を優しく勧め、必要なら一緒に受診して家庭での様子を医師に伝えることが、正確な診断と治療につながります。
職場の同僚・上司ができるサポート
- 症状への理解:日中の眠気や集中力の低下は病気の症状であり、「怠慢」「意欲の欠如」と決めつけないでください。
- 柔軟な勤務体制の検討:可能であれば時差出勤や休憩時間の調整などの配慮を。特に交代勤務の方は、勤務スケジュールの調整が症状改善に大きく寄与することがあります。
- 過度な配慮は避ける:必要以上の特別扱いはかえって孤立感を深めることがあります。自然に接しつつ、困っている様子があれば「何か手伝うことはありますか?」と声をかけましょう。
- プライバシーの保護:睡眠の問題はデリケートな個人情報です。本人の許可なく他の社員に病状を話すことは避けてください。
- 産業医や相談窓口の利用を促す:会社に産業医や相談窓口がある場合は、その利用を勧めてみるのも良いでしょう。
9. 当院でできること
神楽坂メンタルクリニックでは、睡眠・覚醒障害でお悩みのお一人おひとりに寄り添い、専門的な立場から回復のお手伝いをいたします。
- 丁寧な診断:詳細な問診を通して症状の背景にある原因を見極め、的確な診断を行います。
- 個別の治療計画:症状・ライフスタイル・価値観を尊重し、睡眠衛生指導や認知行動療法(CBT-I)の考え方と薬物療法を組み合わせた治療計画をご提案します。
- 薬だけに頼らない治療:治療の基本は生活習慣の改善と睡眠に関する正しい知識です。安易に薬に頼るのではなく睡眠衛生指導を重視し、薬の使用は必要最小限にとどめることを目指します。
- 医師による助言と指導:睡眠に関する悩みや不安、治療を進めるうえでの疑問について、医師が親身にお話を伺い、専門的な助言や指導を行います(心理士によるカウンセリングは現在準備中です)。
- ご家族へのサポート:ご家族からのご相談にも応じ、適切な接し方やサポートの方法について助言いたします。
睡眠時無呼吸やレム睡眠行動障害などで終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)が必要な場合は、当院では実施していないため、検査可能な専門医療機関にご紹介します。診断後の経過観察や、合併する不眠・うつ・不安などの治療で連携することも可能です。
睡眠の問題は、決して特別なことではありません。一人で悩まず、どうぞお気軽に神楽坂メンタルクリニックにご相談ください。

10. よくあるご質問(FAQ)
Q. 1日何時間眠れば「正常」ですか?
必要な睡眠時間には個人差があり、「8時間」など決まった正解はありません。大切なのは時間の長さそのものより、日中に強い眠気やだるさがなく、休養感が得られているかどうかです。「8時間眠らなければ」という思い込みが、かえって不眠の悪循環を生むこともあります。
Q. 睡眠薬は「クセになる」「ボケる」と聞いて心配です。
近年よく使われるオレキシン受容体拮抗薬やメラトニン受容体作動薬は、従来のベンゾジアゼピン系に比べて依存性のリスクが比較的少ないとされています。ベンゾジアゼピン系も、医師の指示のもとで適切に使い、出口(減薬・中止)を見据えて使えば過度に恐れる必要はありません。自己判断で急にやめると不眠が一時的に悪化することがあるため、減薬は必ず医師と相談しながら進めます。
Q. 薬を使わずに不眠を治す方法はありますか?
あります。慢性的な不眠症に対しては、薬を使わない認知行動療法(CBT-I)が世界的に第一選択とされ、睡眠薬と同等以上の効果があり、やめた後も効果が続きやすいことが示されています。刺激制御法・睡眠制限法・認知再構成法などを組み合わせ、当院では医師がその考え方に基づいて継続的に助言・指導します。
Q. お酒を飲むとよく眠れる気がします。寝酒は問題ありますか?
寝酒は寝つきを良くするように感じられますが、睡眠の質を下げ、夜中に目が覚める(中途覚醒)原因になります。また、だんだん量が増えやすく、睡眠薬とアルコールの併用は副作用を強めるため避けてください。眠るためのお酒は、かえって睡眠の問題を悪化させることが多いものです。
Q. いびきがひどく、日中も強い眠気があります。何科に相談すればよいですか?
大きないびきと日中の強い眠気は、睡眠時無呼吸の可能性があります。確定診断には終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)が必要です。当院では検査は実施していませんが、問診で可能性を評価し、検査可能な専門医療機関にご紹介します。不眠やうつ・不安を合併している場合は、その治療で連携することもできます。
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※このページの内容は、睡眠・覚醒障害について理解を深めていただくための一般的な情報です。診断・治療は個々の状態によって異なり、効果や経過には個人差があります。睡眠薬の減量・中止は自己判断せず医師にご相談ください。
※気分の落ち込みやつらい気持ちが強いときは、一人で抱え込まず下記にもご相談いただけます。
こころの健康相談統一ダイヤル:0570-064-556(お住まいの地域の公的な相談窓口につながります)
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