精神科医が解説する睡眠の仕組みと快眠のコツ
「なかなか寝付けない」「夜中に何度も目が覚める」「朝すっきり起きられない」——そんな悩みを感じたことはありませんか。
令和8年(2026年)6月1日に施行された医療法施行令の改正により、内科や精神科などの診療科名と組み合わせて睡眠障害を標榜できるようになりました。神楽坂メンタルクリニックでも睡眠外来として対応しています。
眠れない悩みを解消するためには、まず「睡眠がどのように成り立っているか」を知ることが大切です。この記事では、睡眠の仕組みと、快眠のための生活習慣(睡眠衛生)について、精神科専門医の立場からわかりやすく解説します。
目次
1. 睡眠とはどんな状態?正常な睡眠の基本
ポイント:睡眠は、刺激で目を覚ませる「意識水準が一時的に下がった状態」です。眠っている間はノンレム睡眠とレム睡眠が約90〜120分周期で繰り返されています。
睡眠とは、外からの刺激で目を覚ますことができる、意識水準が一時的に低下した状態です。気を失っている状態や麻酔とは異なり、呼びかけや光などの刺激で覚醒できる点が特徴です。
睡眠は脳や身体が正しく機能するために欠かせないプロセスです。睡眠不足が続くと、注意力・記憶力・免疫機能が低下するだけでなく、気分の落ち込みや体調不良など、さまざまな支障が生じます。
睡眠中に何が起きているの?
睡眠中は「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」が約90〜120分周期で交互に繰り返されています。入眠直後は深いノンレム睡眠が多く出現し、夜が明けるにつれてレム睡眠の割合が増えていきます。
| 種類 | 特徴 | 成人での割合 |
|---|---|---|
| ノンレム睡眠 | 脳が深く休む眠り。浅い眠り(N1・N2)から深い眠り(N3・徐波睡眠)まで3段階ある | 約75〜85% |
| レム睡眠 | 身体は休んでいるが脳は活発。鮮明な夢を見ることが多い。急速眼球運動が特徴 | 約15〜25% |
ノンレム睡眠は「脳の休息」、レム睡眠は「記憶の整理や感情の調整」に関わると考えられています。

2. 睡眠と覚醒を調節する3つのしくみ
ポイント:睡眠と覚醒は、①睡眠圧(疲れたから眠る)・②体内時計(夜になると眠くなる)・③覚醒システム(起きていたいとき起きていられる)の3つが連動して、シーソーのように調節されています。
| しくみ | 別名 | 役割 |
|---|---|---|
| ① 睡眠恒常性維持機構 | 睡眠圧のしくみ | 起きている時間が長いほど「眠りたい気持ち(睡眠欲求)」が高まり、十分眠ると解消される |
| ② 体内時計機構 | サーカディアンリズム | 朝に目覚め、夜に眠くなるよう、約24時間周期で睡眠・覚醒リズムをつくる |
| ③ 覚醒調節機構 | 覚醒システム | 起きている必要があるとき、覚醒状態を積極的に維持する |
① 睡眠恒常性維持機構(睡眠圧のしくみ)
起きている時間が長くなるにつれ、脳内に「睡眠物質(アデノシンなど)」が蓄積し、眠りたい気持ちが強まっていきます。これが「疲れたから眠るしくみ」です。十分に眠ると睡眠物質が消費され、眠気が解消されます。
② 体内時計機構(サーカディアンリズム)
人間の体内時計は、脳の「視交叉上核(しこうさじょうかく)」という部分に存在し、約24時間周期でリズムを刻んでいます。朝の光を浴びることでリセットされ、「朝になると目覚め、夜になると眠くなる」という自然なリズムが整います。体内時計は、深部体温やメラトニン(睡眠ホルモン)の分泌を調節しており、夜になるとメラトニンが増えることで眠気が促されます。
③ 覚醒調節機構(オレキシンのしくみ)
脳内の「オレキシン」という神経伝達物質が、覚醒状態を積極的に維持する役割を担っています。近年の睡眠薬(オレキシン受容体拮抗薬)は、このオレキシンの働きを抑えることで自然な眠りを促すしくみを利用しています。
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3. レム睡眠とノンレム睡眠の違い
ポイント:夢を見ているのは主にレム睡眠(脳は活発・身体は弛緩)、ぐっすり深く眠っているのはノンレム睡眠(脳も身体も休息)です。
| 比較項目 | レム睡眠 | ノンレム睡眠 |
|---|---|---|
| 脳の状態 | 活発(起きているときに近い) | 深く休んでいる |
| 身体の状態 | 筋肉の緊張が消失(完全な弛緩) | 筋緊張は残存 |
| 眼球運動 | 急速眼球運動あり | ほとんどなし |
| 夢 | 鮮明な夢を見やすい | ほとんど見ない |
| 役割 | 記憶の整理・感情の調整 | 身体と脳の修復・回復 |
夢を見ているときはレム睡眠、「ぐっすり深く眠っている」ときはノンレム睡眠(特に深い徐波睡眠)にあたります。
4. 年代によって変わる睡眠のパターン
ポイント:睡眠のリズムや質は年齢で変化します。高齢になると深い眠りが減り、眠りが浅く・短くなるのは生理的な変化です。ただし日中に支障が出るほどなら対処が必要です。
| 年代 | 睡眠のリズム | 睡眠時間の目安 | レム睡眠の割合 |
|---|---|---|---|
| 新生児・乳幼児期 | 多相性睡眠(1日に何度も眠る)。レム睡眠が全体の約50%以上 | 16時間以上 | 多い(50%以上) |
| 学齢期・青年期 | 単相性睡眠(夜1回まとめて眠る)が確立 | 8〜10時間 | 約25〜30% |
| 成人期 | 単相性睡眠が定着 | 7〜8時間 | 約15〜25% |
| 高齢期 | 多相性睡眠に戻りやすい。眠りが浅くなる | 6時間前後(短縮) | 少ない(20%以下) |
高齢になると深いノンレム睡眠(徐波睡眠)が減少し、眠りが浅くなります。「加齢とともに眠りが浅くなった」と感じる方が多いのは、このような生理的な変化によるものです。ただし、日中の活動に支障が出るほどの睡眠の変化は、病的な睡眠障害として対処が必要です。
5. 快眠のための1日の過ごし方(睡眠衛生)
ポイント:睡眠衛生とは、よい睡眠を得るための生活習慣全般のこと。朝の光・朝食・日中の運動で体内時計を整え、夕方以降のカフェイン回避・寝酒をしない・就寝前のリラックスが快眠の鍵です。
睡眠衛生(スリープ・ハイジーン)とは、よい睡眠を得るための生活習慣全般のことを指します。厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、1日の時間帯ごとに次のような工夫が推奨されています。
朝〜昼の過ごし方
| 行動 | ポイント |
|---|---|
| 朝日を浴びる | 起床後すぐにカーテンを開け、光を目に入れる。体内時計がリセットされ、夜の入眠がスムーズになる |
| 朝食をとる | 朝食にも体内時計を調整する役割がある。朝食を抜くと体内時計がずれやすくなる |
| 身体を動かす | 成人は「息が弾み、汗をかく程度」の運動をできるだけ長く。ひと駅歩く、階段を使うだけでも効果的 |
| 昼寝は短時間に | 高齢者は昼寝を30分以内に。長い昼寝は夜間の睡眠を妨げる |
午後〜夕方の過ごし方
カフェインは夕方(15〜16時)以降は摂取しないことが大切です。カフェインはコーヒー・紅茶・緑茶のほか、エナジードリンク・コーラ・ほうじ茶にも含まれています。大人の1日の目安はコーヒー約3杯分(400mg程度)ですが、夕方以降は避けるようにしましょう。
また、アルコールは「寝酒」として使わないことが重要です。アルコールは一時的に寝つきをよくするように感じますが、睡眠を浅くし、中途覚醒の原因になります。
夜・就寝前の過ごし方
| 行動 | ポイント |
|---|---|
| 就寝1〜2時間前にぬるめのお風呂 | 入浴後に深部体温が下がることで寝つきがよくなる。熱いお湯は逆に交感神経を刺激してしまう |
| 寝る1時間前からリラックスタイム | アロマ・音楽・腹式呼吸・軽いストレッチなどで脳の興奮を鎮める |
| スマートフォン・タブレットを寝室に持ち込まない | ブルーライトは体内時計に影響する。寝室では電源を切り、別の部屋に置くのが理想的 |
| 眠くなってから寝床に入る | 眠くないのに布団に入ると、脳が「寝床=眠れない場所」と学習してしまう。眠れないときは一度布団から出て、暗い部屋でゆっくり過ごし眠気を待つ |
| 就寝・起床時刻を一定に保つ | 休日も含め、同じ時刻に起きることが体内時計を整える基本 |
寝室の環境づくり
快眠のための寝室環境は「光・温度・音・寝具」の4点が重要です。光は就寝前から暗めに、温度は暑すぎず寒すぎない快適な室温を維持し、防音環境を整えましょう。LEDの暖色系照明にもブルーライトが含まれているため、就寝前はできるだけ消灯するか暗くすることをおすすめします。

6. 眠れないのはどのタイプ?不眠の種類
ポイント:不眠には入眠困難・中途覚醒・早朝覚醒の3タイプがあり、重なって現れることも多くあります。とくに早朝覚醒が続く場合は、うつ病が背景にあることもあります。
「眠れない」といっても、その症状にはいくつかのタイプがあります。3つの症状が重なって現れることも多いです。
| タイプ | 特徴 | よくある原因 |
|---|---|---|
| 入眠困難 | 布団に入っても30分以上寝付けない | ストレス・不安・寝床でのスマートフォン使用・カフェイン摂取など |
| 中途覚醒 | 夜中に何度も目が覚める、目が覚めると再入眠が難しい | 加齢・アルコール・夜間頻尿・睡眠時無呼吸症候群など |
| 早朝覚醒 | 予定の起床時刻より2時間以上早く目が覚め、その後眠れない | 加齢・うつ病・睡眠相前進型の概日リズム障害など |
「ただ眠れない」だけでなく、日中の活動に支障が出ている場合は、睡眠障害として適切な治療が必要です。特に早朝覚醒が続く場合はうつ病が背景にあることも多く、精神科・心療内科の受診をおすすめします。
7. 睡眠の改善はまず「睡眠衛生指導」から
ポイント:治療の基本は、薬に頼る前にまず生活習慣を整える「睡眠衛生指導」です。それでも改善しない場合に、認知行動療法(CBT-I)や薬物療法を組み合わせます。
やること(DO)
毎日同じ時刻に起きる、朝日を浴びる、適度に身体を動かす、寝る前にリラックスタイムをとる、ぬるめのお風呂に入る——これらを習慣にするだけで、多くの方で睡眠の改善が期待できます。
避けること(DON’T)
寝床でのスマートフォン使用、カフェインの夕方以降の摂取、飲酒による寝つき改善(寝酒)、眠れないのに長時間寝床で過ごすこと、昼寝のしすぎ——これらは不眠を悪化させる原因になります。
それでも改善しない場合は、認知行動療法(CBT-I)や薬物療法(睡眠薬)を組み合わせた専門的な治療が有効です。
8. よくあるご質問(FAQ)
Q. 何時間眠れば十分ですか?
A. 成人では一般的に7〜8時間が目安ですが、必要な睡眠時間には個人差があります。時間の長さよりも、「日中に強い眠気がない」「起きたときにすっきりしている」かどうかが大切です。
Q. 寝つきが悪いとき、お酒を飲むのは効果的ですか?
A. おすすめできません。アルコールは一時的に寝つきをよくするように感じますが、睡眠を浅くし、夜中に目が覚める(中途覚醒)原因になります。習慣化すると量が増えやすく、依存のリスクもあります。
Q. 昼寝はしてもよいですか?
A. 短い昼寝は日中のパフォーマンス改善に役立ちます。ただし長すぎる昼寝や夕方以降の昼寝は夜の睡眠を妨げるため、午後早い時間帯に短時間(高齢の方は30分以内)にとどめるのがコツです。
Q. 睡眠薬は癖になったり、依存しませんか?
A. 心配される方は多いですが、医師の指示のもとで正しく使えば、改善後に減薬・休薬を目指せます。近年はオレキシン受容体拮抗薬など、依存リスクの少ない選択肢も増えています。自己判断での増量・中断は反動(反跳性不眠)の原因になるため、調整は必ず医師と一緒に行いましょう。
Q. 眠れないとき、何科を受診すればよいですか?
A. 令和8年(2026年)6月1日施行の医療法施行令の改正により、診療科名と組み合わせて「睡眠障害」を標榜できるようになりました。睡眠の問題は背景に精神疾患や心理的要因があることも多く、精神科・心療内科の睡眠外来での相談が適しています。当院でもご相談いただけます。
9. 当院の睡眠外来について
神楽坂メンタルクリニックでは、睡眠専門外来を開設しています。精神科・心療内科専門医として、「眠れない」「眠りが浅い」「日中の眠気がひどい」などの睡眠のお悩みを、生活指導から薬物療法まで包括的にサポートします。
問診・睡眠日誌の確認・必要に応じた検査の紹介を通じて、お一人おひとりの睡眠パターンに合わせた治療を行います。「睡眠薬は飲み続けなければならないのでは?」「依存が心配」——そんな不安をお持ちの方も、どうぞお気軽にご相談ください。睡眠薬は正しく使えば改善後に減薬・休薬を目指すことができ、当院でも段階的な減薬サポートを行っています。
神楽坂駅 1b出口より徒歩1分以内/精神科・心療内科
参考資料
- 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」
- 医療情報科学研究所(編)薬がみえる vol.1 第2版. メディックメディア.
- Kaplan & Sadock’s Comprehensive Textbook of Psychiatry, 9th ed.
- 内山真(編)睡眠障害の対応と治療ガイドライン 第3版. じほう/新興医学出版社.
【監修・執筆】永井常高(神楽坂メンタルクリニック院長・精神保健指定医・精神科専門医/指導医)
本ページは一般的な医療情報の提供を目的としたものであり、特定の診断を行うものではありません。必要な睡眠時間や治療の効果・経過には個人差があります。睡眠薬は医師の指示に従って正しくご使用ください。気になる症状がある場合は、ご自身で判断せず医療機関にご相談ください。
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