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精神科医が解説する睡眠の仕組みと快眠のコツ

「なかなか寝付けない」「夜中に何度も目が覚める」「朝すっきり起きられない」——そんな悩みを感じたことはありませんか。

令和8年6月より、睡眠障害は精神科・心療内科の標榜疾患として正式に追加されました。神楽坂メンタルクリニックでも睡眠外来として対応しています。

眠れない悩みを解消するためには、まず「睡眠がどのように成り立っているか」を知ることが大切です。この記事では、睡眠の仕組みと、快眠のための生活習慣(睡眠衛生)について、精神科専門医の立場からわかりやすく解説します。


睡眠とは、外からの刺激で目を覚ますことができる、意識水準が一時的に低下した状態です。気を失っている状態や麻酔とは異なり、呼びかけや光などの刺激で覚醒できる点が特徴です。

睡眠は脳や身体が正しく機能するために欠かせないプロセスです。睡眠不足が続くと、注意力・記憶力・免疫機能が低下するだけでなく、気分の落ち込みや体調不良など、さまざまな支障が生じます。

睡眠中に何が起きているの?

睡眠中は「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」が約90〜120分周期で交互に繰り返されています。入眠直後は深いノンレム睡眠が多く出現し、夜が明けるにつれてレム睡眠の割合が増えていきます。

種類特徴全睡眠に占める割合(成人)
ノンレム睡眠脳が深く休む眠り。浅い眠り(N1・N2)から深い眠り(N3・徐波睡眠)まで3段階ある約75〜85%
レム睡眠身体は休んでいるが脳は活発。鮮明な夢を見ることが多い。急速眼球運動が特徴約15〜25%

ノンレム睡眠は「脳の休息」、レム睡眠は「記憶の整理や感情の調整」に関わると考えられています。


睡眠と覚醒は、次の3つのしくみが連動することでシーソーのようにコントロールされています。

しくみ別名役割
① 睡眠恒常性維持機構睡眠圧のしくみ起きている時間が長くなるほど「眠りたい気持ち(睡眠欲求)」が高まり、十分眠ると解消される
② 体内時計機構サーカディアンリズム朝になると目覚め、夜になると眠くなるよう、約24時間周期で睡眠・覚醒リズムをつくる
③ 覚醒調節機構覚醒システム起きている必要があるとき、覚醒状態を積極的に維持するしくみ
① 睡眠恒常性維持機構(睡眠圧のしくみ)

起きている時間が長くなるにつれ、脳内に「睡眠物質(アデノシンなど)」が蓄積し、眠りたい気持ちが強まっていきます。これが**「疲れたから眠るしくみ」**です。十分に眠ると睡眠物質が消費され、眠気が解消されます。

② 体内時計機構(サーカディアンリズム)

人間の体内時計は、脳の「視交叉上核」という部分に存在し、約24時間周期でリズムを刻んでいます。朝の光を浴びることでリセットされ、「朝になると目覚め、夜になると眠くなる」という自然なリズムが整います。

体内時計は、深部体温やメラトニン(睡眠ホルモン)の分泌を調節しており、夜になるとメラトニンが増えることで眠気が促されます。

③ 覚醒調節機構(オレキシンのしくみ)

脳内の「オレキシン」という神経伝達物質が、覚醒状態を積極的に維持する役割を担っています。最近の睡眠薬(オレキシン受容体拮抗薬)は、このオレキシンの働きを抑えることで自然な眠りを促すしくみを利用しています。

睡眠覚醒リズムの図

比較項目レム睡眠ノンレム睡眠
脳の状態活発(起きているときに近い)深く休んでいる
身体の状態筋肉の緊張が消失(完全な弛緩)筋緊張は残存
眼球運動急速眼球運動ありほとんどなし
鮮明な夢を見やすいほとんど見ない
役割記憶の整理・感情の調整身体と脳の修復・回復

夢を見ているときはレム睡眠、「ぐっすり深く眠っている」ときはノンレム睡眠(特に深い徐波睡眠)にあたります。


睡眠のリズムや質は、年齢によって大きく変化します。

年代睡眠のリズム睡眠時間の目安レム睡眠の割合
新生児・乳幼児期多相性睡眠(1日に何度も眠る)。レム睡眠が全体の約50%以上16時間以上多い(50%以上)
学齢期・青年期単相性睡眠(夜1回まとめて眠る)が確立8〜10時間約25〜30%
成人期単相性睡眠が定着7〜8時間約15〜25%
高齢期多相性睡眠に戻りやすい。眠りが浅くなる6時間前後(短縮)少ない(20%以下)

高齢になると深いノンレム睡眠(徐波睡眠)が減少し、眠りが浅くなります。「加齢とともに眠りが浅くなった」と感じる方が多いのは、このような生理的な変化によるものです。ただし、日中の活動に支障が出るほどの睡眠の変化は、病的な睡眠障害として対処が必要です。


睡眠衛生(スリープ・ハイジーン)とは、よい睡眠を得るための生活習慣全般のことを指します。厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、1日の時間帯ごとに以下のような指導が推奨されています。

朝〜昼の過ごし方
行動ポイント
朝日を浴びる起床後すぐにカーテンを開け、光を目に入れる。体内時計がリセットされ、夜の入眠がスムーズになる
朝食をとる朝食にも体内時計を調整する役割がある。朝食を抜くと体内時計がずれやすくなる
身体を動かす成人は「息が弾み、汗をかく程度」の運動をできるだけ長く。ひと駅歩く、階段を使うだけでも効果的
昼寝は短時間に高齢者は昼寝を30分以内に。長い昼寝は夜間の睡眠を妨げる
午後〜夕方の過ごし方

カフェインは夕方(15〜16時)以降は摂取しないことが大切です。カフェインはコーヒー・紅茶・緑茶のほか、エナジードリンク・コーラ・ほうじ茶にも含まれています。大人の1日の目安はコーヒー約3杯分(400mg程度)ですが、夕方以降は避けるようにしましょう。

また、アルコールは「寝酒」として使わないことが重要です。アルコールは一時的に寝つきをよくするように感じますが、睡眠を浅くし、中途覚醒の原因になります。

夜・就寝前の過ごし方
行動ポイント
就寝1〜2時間前にぬるめのお風呂入浴後に深部体温が下がることで、寝つきがよくなる。熱いお湯は逆に交感神経を刺激してしまう
寝る1時間前からリラックスタイムアロマ・音楽・腹式呼吸・軽いストレッチなどで脳の興奮を鎮める
スマートフォン・タブレットを寝室に持ち込まないブルーライトは体内時計に影響する。寝室では電源を切って別の部屋に置くのが理想的
眠くなってから寝床に入る眠くないのに布団に入ると、脳が「寝床=眠れない場所」と学習してしまう。眠れないときは一度布団から出て暗い部屋でゆっくり過ごし、眠気が来るのを待つ
就寝・起床時刻を一定に保つ休日も含め、同じ時刻に起きることが体内時計を整える基本
寝室の環境づくり

快眠のための寝室環境は「光・温度・音・寝具」の4点が重要です。光は就寝前から暗めに、温度は暑すぎず寒すぎない快適な室温を維持し、防音環境を整えましょう。LEDの暖色系照明にもブルーライトが含まれているため、就寝前はできるだけ消灯するか暗くすることをおすすめします。

睡眠衛生の図

「眠れない」といっても、その症状にはいくつかのタイプがあります。3つの症状が重なって現れることも多いです。

タイプ特徴よくある原因
入眠困難布団に入っても30分以上寝付けないストレス・不安・寝床でのスマートフォン使用・カフェイン摂取など
中途覚醒夜中に何度も目が覚める、目が覚めると再入眠が難しい加齢・アルコール・夜間頻尿・睡眠時無呼吸症候群など
早朝覚醒予定の起床時刻より2時間以上早く目が覚め、その後眠れない加齢・うつ病・睡眠相前進型の概日リズム障害など

「ただの眠れない」だけでなく、日中の活動に支障が出ている場合は、睡眠障害として適切な治療が必要です。特に早朝覚醒が続く場合はうつ病が背景にあることも多く、精神科・心療内科の受診をおすすめします。


睡眠の問題に対する治療の基本は、**薬に頼る前にまず生活習慣を整える「睡眠衛生指導」**です。

やること(DO)の例

毎日同じ時刻に起きる、朝日を浴びる、適度に身体を動かす、寝る前にリラックスタイムをとる、ぬるめのお風呂に入る——これらを習慣にするだけで、多くの方の睡眠は改善します。

避けること(DON’T)の例

寝床でのスマートフォン使用、カフェインの夕方以降の摂取、飲酒による寝つき改善(寝酒)、眠れないのに長時間寝床で過ごすこと、昼寝のしすぎ——これらは不眠を悪化させる原因になります。

それでも改善しない場合は、認知行動療法(CBT-I)や薬物療法(睡眠薬)を組み合わせた専門的な治療が有効です。


神楽坂メンタルクリニックでは、睡眠専門外来を開設しています。

精神科・心療内科専門医として、「眠れない」「眠りが浅い」「日中の眠気がひどい」などの睡眠のお悩みを、生活指導から薬物療法まで包括的にサポートします。

当クリニックでは、問診・睡眠日誌の確認・必要に応じた検査紹介を通じて、お一人おひとりの睡眠パターンに合わせた治療を行います。「睡眠薬は飲み続けなければならないのでは?」「依存が心配」——そんな不安をお持ちの方も、ぜひお気軽にご相談ください。睡眠薬は正しく使えば改善後に減薬・休薬が可能であり、当院でも段階的な減薬サポートを行っています。

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睡眠専門外来


【参考資料】

永井 常高

永井 常高

熊本大学卒 慶應義塾大学医学部精神神経科教室 精神保健指定医(第21030号) 精神科専門医・指導医

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