発達障害は生まれつきの脳機能の偏りによる特性です。ご自身の特性を理解し、あなたらしく過ごせるよう、具体的な症状や周りの接し方をわかりやすく解説します。
生まれ持った脳の個性が輝くために
- 対人関係の難しさ
- 強いこだわり
- 不注意・忘れっぽさ
- 落ち着きのなさ
- 特定の感覚の過敏さ・鈍感さ
- 物事の段取りの苦手さ
「うちの子、ちょっと変わってる?」「仕事のミスが多くて、人間関係がうまくいかない…」——そんなふうに感じたことはありませんか。それは、生まれ持った脳の働きの個性による「発達障害(神経発達症)」かもしれません。このページでは、特に相談の多い自閉スペクトラム症(ASD)と注意欠如・多動症(ADHD)を中心に解説します。
1. 発達障害とは?(ASDとADHD)
発達障害は、けっして育て方や本人の努力不足が原因ではありません。生まれつきの脳機能の発達に偏りがあるために、行動や感情のコントロール、対人関係、学習などに困難さが生じる状態です。この特性は一人ひとり異なり、虹の色がなだらかに変化するように様々なグラデーションがあるため「スペクトラム」と呼ばれます。
特に代表的なのが、「自閉スペクトラム症(ASD)」と「注意欠如・多動症(ADHD)」です。以前はこの二つが同時に診断されることはありませんでしたが、現在では併存することが広く知られています。大切なのは、「〇〇障害」という診断名にこだわることよりも、ご自身やお子さんがどのような特性を持っているのかを正しく理解し、その個性に合わせて環境を整えていくことです。
最近相談が多いADHDについては、深掘りしたブログ記事もあります。あわせてご覧ください。
>> 大人のADHD(注意欠如多動症)の診断と治療|ADHDを疑ったら読む記事
大人の発達障害
子どもの頃は目立たなかった特性が、就職や結婚など環境が大きく変わり、より複雑な対人関係や臨機応変な対応が求められて初めて表面化することがあります。これが「大人の発達障害」です。周囲に理解されず「変わった人」「仕事ができない人」と誤解されたり、ご自身でも「なぜ自分だけうまくいかないんだろう」と悩み、うつ病や不安症などの二次障害につながることも少なくありません。

2. 主な症状
ASDとADHDの主な症状を解説します。どちらか一方だけが当てはまることもあれば、両方の特性を併せ持つこともあります。
自閉スペクトラム症(ASD)の主な特性
大きく分けて「対人関係・コミュニケーションの難しさ」と「特定の物事への強いこだわり・感覚の特性」の2つです。

注意欠如・多動症(ADHD)の主な特性
「不注意」と「多動性・衝動性」の2つに分けられます。
大人になると多動性は目立たなくなり、不注意の特性が残りやすいと言われています。
なお、知的発達に遅れはないものの「読む」「書く」「計算する」など特定の能力に著しい困難を示す限局性学習症(SLD/LD)も発達障害の一つです。ASD・ADHDと併存することもあります。

3. 原因やきっかけ
発達障害は生まれつきの脳機能の発達の偏りが背景にあり、親の育て方やしつけ、愛情不足が原因ではありません。脳の中でも、行動のコントロールやコミュニケーション、集中力などをつかさどる前頭前野の働きが、定型発達の人とは異なると考えられています。遺伝的な要因も関与しますが、特定の遺伝子だけで決まるわけではなく、様々な要因が複雑に絡み合って特性として現れるとされています。
子どもの頃に特性が目立たなくても、大人になってから「気づく」きっかけとして、次のような環境の変化があります。
- 就職:自分のペースで進められた学生時代と違い、チームワークやマルチタスク、臨機応変な対応、時間管理などが求められ、困難を感じやすくなる。
- 結婚・育児:パートナーとの密なコミュニケーションや子どもの世話など、自分のペースだけでは進められない場面が増え、ストレスを感じやすくなる。
こうした変化が、それまで無意識の努力でカバーしてきた特性を表面化させ、「発達障害かもしれない」と気づくきっかけになります。

4. 診断の流れ(診断はどうやってつけるのか)
「発達障害かもしれない」と思ったら、まずは専門の医療機関に相談することが第一歩です。ここでは、発達障害の診断が実際にどのようにつけられるのかを、よくある誤解を解きながら詳しく説明します。
診断の根幹は「生育歴の聴取」と「診断基準への照合」です
発達障害の診断は、①子どもの頃からの育ちや特性のていねいな聴き取り(生育歴・発達歴)と、②現在の状態が国際的な診断基準(DSM-5-TRなど)を満たすかどうかの医師による臨床的な判断によって行われます。何か一つの検査の数値で機械的に決まるものではありません。
ステップ1 問診(診断の核となる情報)
医師がご本人やご家族から、現在困っていること、子どもの頃の様子、学校生活や職場での様子などを詳しくお伺いします。成人の診断であっても、幼少期からの情報が非常に重要です。母子手帳や通知表、当時を知るご家族からの情報なども、大切な手がかりになります。
ご本人の視点だけでは気づきにくいこともあるため、ご家族や職場の同僚など、客観的に見ている方からの情報も診断の助けになります。
ステップ2 心理検査・知能検査(あくまで「補助」)
診断の補助や、その後のサポートの参考にするため、心理士による検査を行うことがあります。代表的なものに、得意・不得意の差(認知の凸凹)を評価する知能検査(WAIS-IVなど)や、特性の程度を評価する質問紙検査(AQ、CAARSなど)があります。知能検査は知能の高低を測るためのものではなく、認知の特性を知り支援に活かすためのものです。
重要:心理検査・知能検査は診断に「必須」ではありません
これらの検査は診断を補助する参考情報であり、検査の点数だけで発達障害の診断がつくわけではありません。診断はあくまでも、生育歴と現在の症状を診断基準に照らして医師が判断します。「テストで〇点だったから発達障害」という決まり方はしません。
ステップ3 画像検査・血液検査について(診断はできません)
脳波・MRI・血液検査で発達障害を「診断」することはできません
現時点で、ASDやADHDを確定診断できる脳波・脳画像(MRI・CT)・血液検査は存在しません。これらの検査は、てんかんなどの別の病気が隠れていないかを確認・除外する目的で必要に応じて行うことはありますが、検査そのもので発達障害の有無が分かるわけではありません。「特別な脳の検査で発達障害が分かります」とうたう、エビデンスの乏しい高額な検査には十分ご注意ください。
ステップ4 総合的な診断
問診・心理検査の結果・生育歴などを総合的に検討し、国際的な診断基準(DSM-5-TRなど)に基づいて医師が診断します。
診断は、ご自身を責めたり悲観したりするためのものではなく、ご自身の特性を理解し、具体的な対策を立てやすくするための「ツール」です。苦手さの背景が分かることで、対処や周囲への配慮の求め方が見えてきます。診断名そのものより、「どの特性が、どの場面で困りごとになっているか」を理解することが大切です。

5. 主な治療法
発達障害の特性そのものをなくす「根本治療」の薬は、現在のところASDにはありません。ADHDには症状を緩和する治療薬があります。治療の目標は、症状を完全になくすことではなく、ご自身の特性と上手につきあいながら、日常生活や社会生活での困難を減らしていくことです。
① 心理社会的治療(治療の中心)
ご自身の特性を理解し、具体的な対処法を学ぶことで、生きづらさを軽減していきます。
- 心理教育:特性や対処法を学ぶことで、なぜ今まで困難を感じていたのかが理解でき、自己肯定感を取り戻すことにつながります。
- 環境調整:刺激の少ない環境を整えたり、指示を視覚的に分かりやすく伝えたりして困難を減らします(例:口頭が苦手ならメモや図で伝える、雑音が苦手ならパーテーションやイヤーマフを使う)。
- ソーシャル・スキルズ・トレーニング(SST):対人関係を円滑にする技術を、ロールプレイなどを通じて具体的に学びます。
- 認知行動療法:物事の捉え方や考え方の癖に気づき、柔軟な考え方を練習します。二次障害のうつ病・不安症にも有効です。

② 薬物療法
ADHDの不注意や多動性・衝動性といった中核症状に対しては、薬物療法が有効な場合があります。薬によって脳内の神経伝達物質(ドパミンやノルアドレナリン)のバランスが整い、集中しやすくなったり落ち着いて行動しやすくなったりします。日本では4種類の治療薬(メチルフェニデート徐放錠、アトモキセチン、グアンファシン、リスデキサンフェタミン)が使われています。
ASDの特性そのものを改善する薬はありませんが、イライラや攻撃性、気分の落ち込み、強い不安など、二次的に現れる症状に対して薬を使うことで、気持ちが安定し穏やかに過ごせるようになることがあります。
薬物療法はあくまで治療の選択肢の一つで、心理社会的治療と補助的に組み合わせることが効果的です。医師とよく相談し、ご自身に合った方法を見つけていきましょう。

さらに詳しく知りたい方はこちら 精神科の薬物療法について >>
6. 特性とのつきあい方・二次障害の予防
発達障害は「治す」というより「特性と上手につきあっていく」という視点が大切です。ご自身の得意・苦手を理解し(自己理解)、周囲にも特性を伝えて協力を求め(合理的配慮)、自分に合った環境を整えることで、困難は大きく軽減できます。
「意志の力」ではなく「仕組み」で解決する(ADHDの工夫例)
ADHDの困りごとの多くは、「気をつける」という意志だけに頼らず、道具や仕組みで外側から補うことで軽くなります。脳の特性を前提に環境を整える発想です。
当院では、これらの工夫をまとめた患者さん向けの資料「ADHDのある方のための日常生活ライフハック」もご用意しています。PDFはこちらからご覧いただけます。
二次障害(うつ病・不安症)の予防
中核症状そのもの以上に、二次障害を防ぐことが長期的な安定の鍵になります。ストレス管理のポイントは次のとおりです。
- ストレスサインに気づく:イライラ・不眠・食欲不振など、自分なりのサインを知り早めに対処する。
- 休息を意識する:過集中や頑張りすぎの後は、意識的に休む。
- 完璧を目指さない:「まあ、いいか」を心がけ、完璧主義を手放す。
- 相談先を持つ:家族・友人・主治医・カウンセラーなど、困った時に相談できる人や場所を確保しておく。
発達障害の特性は、裏を返せば個性や強みにもなり得ます。強いこだわりは探究心や専門性に、多動性は行動力や好奇心に。特性を活かす視点を持つことが、あなたらしい人生につながります。
7. 患者さんへの接し方(家庭・学校・職場)
ご本人だけでなく、周りの人が特性を理解して適切に関わることで、ご本人の安心感が高まり、能力を発揮しやすくなります。家庭・学校・職場それぞれの場面ごとに、接し方のポイントと理由を解説します。
ご家族の方へ
学校の先生方へ
職場の上司・同僚の方へ
職場で能力を発揮するには、本人の努力だけでなく職場の理解と「合理的配慮」が欠かせません。働きやすい環境づくりは、産業保健の観点からも職場全体の生産性向上につながります。

8. 当院でできること
神楽坂メンタルクリニックでは、発達障害の特性でお悩みの方が、安心して自分らしい生活を送れるよう、一人ひとりに寄り添ったサポートを提供します。
- 専門医による丁寧な診断と治療:国際的な診断基準に基づき、問診や心理検査をていねいに行って総合的に診断します(エビデンスのない高額な検査は行いません)。そのうえで、特性やご希望に合わせ、薬物療法と心理社会的治療を組み合わせた治療プランをご提案します。
- 医師による助言と指導:特性とのつきあい方、ストレス管理、家族や職場との関わり方など、日常生活での具体的な工夫を医師が専門的な視点から助言・指導します。
- 連携によるサポート:必要に応じて、地域の就労支援機関や福祉サービス、教育機関などと連携します。
- カウンセリングの準備:現在、臨床心理士によるカウンセリングや、より専門的な心理社会的プログラムの提供を準備中です。整い次第ホームページ等でお知らせします。
当院は無床診療所のため、入院が必要な状態(重度の二次障害、自傷他害の危険が切迫している場合など)では、適切な医療機関と連携してご紹介します。中枢神経刺激薬(コンサータ等)は、依存・乱用防止のための登録制度(ADHD適正流通管理システム)に基づき、登録された医療機関・薬局でのみ取り扱われます。
「もしかしたら…」と感じたら、一人で悩まず、どうぞお気軽にご相談ください。

9. よくあるご質問(FAQ)
Q. 発達障害の診断には、脳波やMRI、血液検査が必要ですか?
いいえ。現時点で、ASDやADHDを確定診断できる脳波・脳画像・血液検査はありません。診断は、子どもの頃からの生育歴の聴き取りと、現在の状態が診断基準を満たすかどうかの医師の判断によって行われます。脳波やMRIは、てんかんなど別の病気を除外する目的で必要に応じて行うことはありますが、それで発達障害が分かるわけではありません。「特別な検査で発達障害が分かる」とうたう高額な検査にはご注意ください。
Q. 知能検査やAQ検査の結果だけで診断はつきますか?
つきません。知能検査(WAISなど)や質問紙検査(AQ・CAARSなど)は診断を補助する参考情報であり、これらの点数だけで発達障害の診断が決まるわけではありません。診断はあくまで、生育歴と現在の症状を診断基準に照らして総合的に判断します。検査は「診断のため」というより、ご自身の認知の特性を知り支援に活かすために役立ちます。
Q. 大人になってからでも診断できますか?子どもの頃の資料がないのですが。
大人になってからの診断は可能です。ただし発達障害は生まれつきの特性のため、幼少期からの様子を確認することが必須になります。母子手帳や通知表があると参考になりますが、なくても、当時を知るご家族からの情報やご本人の記憶、これまでの経過から総合的に評価します。お持ちの資料があれば受診時にご持参ください。
Q. ASDとADHDは両方持つことがありますか?
あります。以前は併存が認められていませんでしたが、現在の診断基準では両方の診断が可能です。ある調査では、発達障害と診断された方のうち約4分の1がASDとADHDの両方の特性を持っていました。両方の特性があると困りごとが増えやすいため、どの特性がどの場面で困難になっているかを整理し、それぞれに合った対処を考えていきます。
Q. ADHDの薬を飲めば治りますか?
ADHDの薬は、不注意や多動性・衝動性をやわらげて生活の質を高めるもので、特性そのものを「治す」ものではありません。効果には個人差があり、効きにくい場合もあります。薬はあくまで補助で、環境調整や工夫(仕組みづくり)、心理社会的治療と組み合わせることが大切です。ASDの中核特性に直接効く薬は現時点ではなく、二次的なイライラや不安などに対して薬を使うことがあります。
※このページの内容は、発達障害について理解を深めていただくための一般的な情報です。診断・治療は個々の状態によって異なり、効果や経過には個人差があります。お薬は自己判断で中止せず、医師にご相談ください。
※気持ちのつらさが強いとき、二次障害が疑われるときは、一人で抱え込まず下記にもご相談いただけます。
こころの健康相談統一ダイヤル:0570-064-556(お住まいの地域の公的な相談窓口につながります)
さらに詳しく知りたい方は、次のページにお進みください。
※ここから先は、専門医レベルの詳しい内容(診断基準・疫学・病態・診断プロセスと評価尺度・治療など)を含みます。
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