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発達障害

生まれ持った脳の個性が輝くために

発達障害は生まれつきの脳機能の偏りによる特性です。ご自身の特性を理解し、あなたらしく過ごせるよう、具体的な症状や周りの接し方をわかりやすく解説します。

  • 対人関係の難しさ
  • 強いこだわり
  • 不注意・忘れっぽさ
  • 落ち着きのなさ
  • 特定の感覚の過敏さ・鈍感さ
  • 物事の段取りの苦手さ

ここから先は、神経発達症のうち自閉スペクトラム症(ASD)と注意欠如・多動症(ADHD)を中心に、診断基準(DSM-5-TR / ICD-11)・疫学・病態・診断プロセス・治療までを専門的に解説します。特に診断のつけ方検査の位置づけに重点を置いています。

【1】疾患概念・定義(DSM-5-TR / ICD-11)

神経発達症群(Neurodevelopmental Disorders)は、発達期早期から明らかになる脳機能の発達的偏倚を基盤とし、個人的・社会的・学業的・職業的機能に持続的な欠陥をもたらす一群の疾患である。本稿では自閉スペクトラム症(ASD)と注意欠如・多動症(ADHD)を中心に概説する。

DSM-5-TR

  • ASD:DSM-IV-TRの自閉性障害・アスペルガー障害・特定不能の広汎性発達障害・小児期崩壊性障害を単一のスペクトラム概念に統合。診断基準はA「社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応における持続的欠陥」、B「限定された反復的な様式の行動・興味・活動」の2つの中核症状から構成される。両領域の症状が発達早期から存在し機能障害を引き起こしている必要がある。重症度は、必要な支援の程度に基づき各領域3段階(レベル1〜3)で特定する。
  • ADHD:A「不注意」および/またはB「多動性・衝動性」の持続的様式が、発達水準に不相応で、社会的・学業的・職業的活動に直接的な悪影響を及ぼすことが要件。症状のいくつかが12歳以前に存在することが求められる(DSM-IVの7歳以前から引き上げ)。臨床像により「混合して存在」「不注意優勢」「多動・衝動性優勢」を特定する。17歳以上は各症状群5つ以上で診断する。

ICD-11

ICD-11はDSM-5に概ね準拠しつつ、ASDで「知的発達症の有無」「機能的言語の障害の有無」を特定する点、ADHDで「正常との境界」の項を設けて安易な診断を戒める点が特徴。ASD・ADHDの併存を認める点はDSM-5-TRと同様であり、診断概念の国際的調和が図られている。なお日本ではWHO加盟国として、公式統計・診断分類にICDが用いられる。

【2】疫学

疾患 有病率(学童期) 有病率(成人) 男女比(診断数)
ASD約1〜3%(診断概念の拡大・認知度向上で増加傾向)約2%以上男性>女性(約3:1)
ADHD約5%約2.5%男性>女性(成人では差が縮小)
  • 併存:ASDとADHDの併存は高頻度。国内のある調査では、発達障害の診断を受けた838名のうち26.8%(225名)がASDとADHDの合併診断であった。併存例では社会適応の困難がより増大する傾向がある。
  • 性差の留意点:ASD・ADHDとも女性では特性が見逃されやすい。ASD女性では社会的カモフラージュ(過剰適応)により診断が遅れやすく、ADHD女性では不注意優勢型が多く見過ごされやすい。
  • 発症年齢:ASDの症状は発達早期から存在するが、社会的要求が能力を超えるまで顕在化しないことがある。ADHDは症状の複数が12歳以前に存在することが要件。

【3】病因・病態生理

  • 遺伝要因:双生児研究やGWASから、ASD・ADHDともに高い遺伝率が示されている。単一遺伝子ではなく、多数の感受性遺伝子と環境要因の相互作用による多因子疾患と考えられる。ASDではシナプス関連遺伝子、ADHDではドパミン・ノルアドレナリン系の遺伝子の関連が注目される。
  • 脳構造・機能:両疾患とも、実行機能・社会的認知・報酬系に関与する前頭前野-線条体-小脳ネットワークの機能的・構造的異常が示唆される。ASDでは社会的認知に関わる扁桃体・紡錘状回・上側頭溝などの機能異常、過剰な結合性と局所的低結合性の混在が報告される。ADHDでは報酬系に関わる腹側線条体、実行機能に関わる背外側前頭前野の低活動が指摘される。
  • 併存例の神経基盤:ASD/ADHD併存例は両病態の単純な重ね合わせではない可能性が指摘されている(東京大学, 2023)。併存例のADHD様症状は純粋なADHDとは異なる神経メカニズムによって生じうるとされ、診断概念や薬物治療アプローチの一部改良の必要性が示唆されている。
  • 心理社会的要因:直接原因ではないが、周産期トラブル(超低出生体重児など)や胎児期の特定薬剤曝露(バルプロ酸など)はリスク要因。不適切な養育環境(ネグレクトなど)は発達障害類似の症状を呈しうるため鑑別上重要であり、また特性を持つ子が不適切な環境に置かれると二次障害リスクが著しく増大する。

【4】臨床症状・経過(典型例・非典型例)

疾患 典型例 非典型例(見逃されやすい)
ASD幼児期から視線が合いにくい、一人遊びを好む、言葉の遅れ、こだわり行動、感覚過敏。学童期に集団行動の苦手さや友人関係構築の困難が顕在化。知的に高い女性などでは高い言語・記憶能力で特性をカバー(カモフラージュ)。思春期以降の社会的複雑性の増大に伴い、不安・抑うつ・対人関係の悩みで不適応をきたす。うつ病・不安症・パーソナリティ症と誤診されることも。
ADHD幼児期から落ち着きがなく衝動的(多動・衝動性優勢)。学童期に不注意症状が顕在化し、学業不振や友人トラブルにつながる。不注意優勢型(特に女性)は多動が目立たず「おとなしいがぼーっとしている子」と認識され見過ごされやすい。成人後、仕事のミスや段取りの悪さで初めて顕在化することがある。

経過:ADHDの多動性は加齢とともに軽減することが多いが、不注意・衝動性は成人期まで持続する傾向がある。ASDの特性は生涯持続するが、環境調整やスキルの学習により社会適応は大きく改善しうる。両疾患とも、不適切な環境や否定的評価を受け続けることで自己肯定感が低下し、うつ病・不安症・素行症・物質使用障害などの二次障害を併存するリスクが高い。

【5】診断プロセスと鑑別診断(評価尺度含む)

診断の根幹は詳細な発達歴の聴取DSM-5-TR / ICD-11の診断基準への臨床的照合である。各種検査は診断を補助するものであり、検査単独で診断は確定しない。成人例でも幼少期からの症状の持続性の確認が必須である。

診断プロセス

  1. 詳細な発達歴の聴取:母子健康手帳、幼稚園・学校の通知表、家族からの情報などをもとに、幼少期からの発達歴・行動特性を詳細に聴取する。これが診断の根幹である。
  2. 半構造化面接:ASDではADOS-2やADI-Rがゴールドスタンダードとされるが実施に熟練を要する。国内ではPARS-TR(親面接式自閉スペクトラム症評定尺度)なども有用。
  3. 心理検査(補助):知能検査(WISC-V、WAIS-IVなど)で認知プロフィールの凹凸を評価し支援の手がかりとする。質問紙法(AQ、CAARS、CONNERS 3など)はスクリーニング・自己評価の補助。遂行機能検査(WCSTなど)。いずれも診断確定の必要条件ではない。

診断補助検査の限界:AQやCAARSなどの質問紙、知能検査の数値は、それ単独では診断を確定しない。閾値の当てはめ方は医師により幅があり、診断はあくまで生育歴・現症と診断基準の照合による臨床判断で決まる。ICD-11が「正常との境界」の項で安易な診断を戒めている点にも留意する。

鑑別診断

  • ASD:社会的(語用論的)コミュニケーション症、反応性アタッチメント症、知的発達症、統合失調症などとの鑑別。
  • ADHD:双極症の躁・混合状態、不安症、パーソナリティ症(特に境界性)、物質使用障害など。気分のエピソード性・持続性の確認が重要。
  • その他:不適切な養育環境や虐待による反応性の行動変化・愛着の問題は発達障害様の症状を呈しうるため慎重な鑑別を要する。表面的な「ミスが多い」「空気が読めない」「こだわり・切り替えの難しさ」はASD・ADHDいずれでも生じうるため区別が難しいことに留意する。

【6】検査の位置づけ(画像・脳波・血液)

現時点で、ASDやADHDを確定診断できる脳画像・脳波・血液検査は存在しない。画像・脳波は、てんかんや器質的疾患など他疾患の除外を目的に施行することはあるが、それ自体で発達障害の有無を判定するものではない。

  • 心理検査:【5】のとおり、診断補助および認知特性の評価のために施行することが望ましいが、診断確定の必要条件ではない。代表的尺度:AQ-J、CAARS(成人ADHD)、CONNERS 3(児童ADHD)、PARS-TR、M-CHAT(乳幼児ASDスクリーニング)、MSPA、知能検査(WISC-V/WAIS-IV)、ADOS-2(観察)、Vineland適応行動尺度など。
  • 画像検査(CT/MRI)・脳波:研究レベルでは安静時fMRI・MRS・DTIによるネットワーク解析が進むが、臨床応用には至っていない。鑑別目的で、てんかんを疑う場合に脳波、器質的疾患の除外に頭部MRIを行うことがある。
  • 血液検査:発達障害を診断する血液マーカーはない。身体合併症の評価や薬物療法の副作用モニタリングのために行う。

※「特殊な脳・血液検査で発達障害を診断できる」とする、エビデンスに乏しい自由診療の検査には注意を要する。ADHD治療薬の反応性は診断の参考の一つにはなるが、薬が効かないからASD、効くからADHDと単純に判定できるものではない。

【7】治療(薬物療法・心理社会的介入・入院適応)

治療目標は特性の消失ではなく、環境との不適応を好転させ、本人が特性と折り合いをつけて自分らしく生活できるようにすることである。心理社会的介入が基本であり、必要に応じて薬物療法を追加する。

薬物療法

対象 薬剤・特徴
ADHD
中枢神経刺激薬
メチルフェニデート徐放錠(コンサータ)、リスデキサンフェタミン(ビバンセ)。ドパミン・ノルアドレナリンの再取り込み阻害・遊離促進によりシナプス間隙濃度を高める。即効性があるが、依存・乱用防止のためADHD適正流通管理システムへの医師・薬剤師・患者の登録が必須。ビバンセは国内では小児期(6〜18歳未満)適応で、他剤が効果不十分な場合に用いる。
ADHD
非刺激薬
アトモキセチン(ストラテラ/NA再取り込み阻害)、グアンファシン(インチュニブ/α2A作動薬)。効果発現は緩やかだが依存リスクがなく、不安や気分変動を伴う例にも使いやすい。
ASD中核症状に対する確立された薬物療法はない。易刺激性(かんしゃく・攻撃性・自傷)に対し、非定型抗精神病薬リスペリドン・アリピプラゾールが小児ASDに適応を持ち、少量から慎重に用いる。併存する不安・抑うつ・強迫症状にSSRIを用いることがあるが効果は限定的で、賦活症候群に注意。

心理社会的介入

  • 共通:心理教育(特性理解と自己肯定感の回復)、環境調整(刺激の統制・構造化・視覚的支援)。
  • ASD:応用行動分析(ABA)、TEACCH(構造化・視覚化による自立支援)、ペアレント・トレーニング。支援原則「SPELL」(Structure / Positive / Empathy / Low Arousal / Links)も提唱される。
  • ADHD:ペアレント・トレーニング、認知行動療法(自己教示法・時間管理・計画立てのスキル習得)、SST。成人では「仕組み化」による環境調整が有効。

入院適応:発達障害そのものを理由とした入院は原則ない。自傷他害の危険が切迫した易刺激性、重度のうつ病・希死念慮、強度行動障害など、外来対応が困難な場合に限り検討される。当院は無床診療所のため連携医療機関へ紹介する。

【8】予後・再発予防

  • ASD:特性は生涯持続するが、適切な支援と環境があれば専門性を活かして社会的に成功する例もある。知的障害を伴わないASD成人でも、多くは何らかの支援を要する。
  • ADHD:症状の一部は成人期まで持続するが、治療・環境調整により多くの症例で機能改善が見込める。未治療の場合、学業不振・失業・物質使用障害などのリスクが高まる。
  • 再発(二次障害)予防:中核症状の改善以上に二次障害の予防がQOL・長期予後の鍵。①早期発見・早期介入、②本人の興味・強みを伸ばすストレングス・ベースド・アプローチ、③就学・就労・結婚などライフステージに応じた切れ目のない多機関連携、④成人期では就労準備性(健康管理→日常生活→社会生活→基本的労働習慣)を段階的に高めるアプローチが有効。

【9】最新研究動向と今後の展望

  • ゲノム研究:大規模コホートで多数の感受性遺伝子が同定。遺伝情報に基づくサブタイプ分類・個別化医療への応用が期待される。
  • 神経画像研究:安静時fMRIのコネクティビティ研究やMRSによる神経化学物質測定が進展。AIを用いた画像解析による診断補助技術の開発も進行中(いずれも臨床確定診断には未到達)。
  • 生物学的マーカー:血液・髄液中のタンパク質や代謝産物、腸内細菌叢との関連など、客観的マーカーの探索が進む。
  • 治療モダリティ:ASDではオキシトシン経鼻スプレーの臨床試験が進むが一貫した結果は得られていない。ADHDではデジタル治療(ゲーム型治療アプリ)が海外で承認されるなど新たな選択肢が登場。
  • 当事者研究:当事者視点を支援・研究に取り入れる重要性が認識されている。

【10】国内外ガイドライン比較

項目 NICE(英国) APA(米国) 日本の動向
診断詳細な発達歴の聴取と多職種チームによる包括的アセスメントを重視。診断ツール(ADOS-2等)の使用を推奨。DSM-5-TRに基づき多角的情報源からの評価を強調。併存症の評価も重視。DSM-5-TRに準拠。発達歴の聴取を最重要視し、心理検査は補助的に活用。診断可能な専門医が限られるのが課題。
治療心理社会的介入が第一選択。ADHD薬物療法は中等度以上の機能障害で検討。ASD易刺激性への薬物は慎重投与。心理社会的介入と薬物療法の併用を推奨。ADHDでは薬物療法を中核的治療と位置づけることが多い。薬物療法ガイドライン(ADHDの診断・治療ガイドライン第5版, 2022)あり。心理社会的介入が優先される傾向。ペアレント・トレーニングやSSTの保険適用が限定的で普及が課題。
支援ライフステージに応じた切れ目のない支援と多機関連携(マルチエージェンシー)を強く推奨。個別化教育計画(IEP)や職場での合理的配慮を強調。発達障害者支援法に基づき発達障害者支援センターを設置。教育現場では「個別の教育支援計画」の作成が進む。

いずれのガイドラインも、早期発見・早期介入、個別化された支援計画、多職種・多機関連携、本人・家族への心理教育の重要性を共通して強調する。薬物療法の位置づけにニュアンスの差はあるが、治療の基本は心理社会的介入にあるという点でコンセンサスが形成されている。

【11】参考文献

  • American Psychiatric Association. (2022). DSM-5-TR.(日本精神神経学会 日本語版用語監修『DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル』医学書院, 2023)
  • World Health Organization. (2019). ICD-11./森野百合子・海老島健 (2021). ICD-11における神経発達症群の診断について. 精神神経学雑誌, 123, 214-220.
  • NICE. (2018). Autism spectrum disorder in under 19s (CG128)/Attention deficit hyperactivity disorder: diagnosis and management (NG87).
  • Lord C, Elsabbagh M, Baird G, Veenstra-Vanderweele J. (2018). Autism spectrum disorder. The Lancet, 392(10146), 508-520.
  • Faraone SV, et al. (2015). Attention-deficit/hyperactivity disorder. Nat Rev Dis Primers, 1, 15020.
  • Watanabe D, Watanabe T. (2023). Distinct frontoparietal brain dynamics underlying the co-occurrence of autism and ADHD. eNeuro, 10(7).(東京大学ニューロインテリジェンス国際研究機構)
  • 『注意欠如・多動症—ADHD—の診断・治療ガイドライン 第5版』じほう, 2022.
  • 『DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル』医学書院/『精神科研修ノート 第3版』診断と治療社/『カプラン臨床精神医学テキスト 第3版』MEDSI/『精神診療プラチナマニュアル 第3版』MEDSI/『病気がみえる 精神科』『こころの健康が見える』MEDIC MEDIA.

【監修・執筆】永井常高(神楽坂メンタルクリニック院長・精神保健指定医・精神科専門医/指導医)

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