幻覚や妄想などの症状により、現実との区別がつきにくくなる脳の病気です。お薬と専門家によるサポートで回復を目指せます。一人で抱え込まず、ご相談ください。
思考や感情のまとまりが難しくなる脳の機能的な病気
- 幻覚(幻聴)
- 被害妄想
- 人に見られている気がする
- 思考の混乱
- 意欲の低下
- 感情の平板化
- 引きこもり
- 認知機能の低下
- 興奮や苛立ち
- 不眠
ここから先は、統合失調症について、診断基準・疫学・病態生理・治療アルゴリズム・最新ガイドライン(日本神経精神薬理学会『統合失調症薬物治療ガイドライン2022』)までを専門的に解説します。医療従事者の方や、より深く知りたい患者さん・ご家族に向けた内容です。
【1】疾患概念・定義(DSM-5-TR / ICD-11)
統合失調症は、思考・知覚・感情・意欲・行動など多彩な精神機能の障害を呈する精神疾患であり、その本態は精神機能間の統合が失調した状態と考えられている。DSM-5-TRでは「統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害群」に分類される。
DSM-5-TR 診断基準(要約)
基準Aでは、以下の5つの症状領域のうち2つ以上(少なくとも1つは①妄想・②幻覚・③まとまりのない発話のいずれか)が、1か月間ほとんど常に存在することを要する。
- 妄想
- 幻覚
- まとまりのない発話(連合弛緩)
- ひどくまとまりのない、または緊張病性の行動
- 陰性症状(情動表出の減退、意欲欠如)
加えて、社会的・職業的機能の低下(基準B)、前駆期・残遺期を含め少なくとも6か月間の持続的徴候(基準C)、統合失調感情障害・気分障害の除外(基準D)、物質・他の医学的疾患によるものではないこと(基準E)を要する。ICD-11もおおむね同様の診断概念を採用している。
【2】疫学
出典:WHO、Kaplan & Sadock’s Synopsis of Psychiatry、厚生労働省患者調査(令和2年)ほか。発症率の年齢分布については中根(精神神経学雑誌, 2007;109(8):751-758)などの国内データがある。
【3】病因・病態生理
統合失調症は単一の病因による疾患ではなく、遺伝的素因と環境要因が複雑に相互作用する多因子疾患と考えられている。
神経生物学的要因
- ドーパミン仮説:古典的仮説。中脳辺縁系経路の過活動が陽性症状に、中脳皮質系経路の機能低下が陰性症状・認知機能障害に関与するとされる。
- グルタミン酸仮説:NMDA受容体の機能低下が、ドーパミン系の二次的な調節異常を介して症状を引き起こすとする仮説。
- セロトニン仮説:5-HT2A受容体の関与が指摘され、非定型抗精神病薬の作用機序の一部を説明する。
- ムスカリン受容体仮説:近年、M1・M4ムスカリン受容体を介した神経伝達調節の異常が注目されている(後述の新規治療薬の標的)。
- 神経発達障害仮説:遺伝的脆弱性を背景に、周産期の感染・合併症などの環境要因が脳の神経発達に影響し、思春期以降の成熟過程で神経回路の脆弱性が顕在化して発症するという仮説。
- 脳構造・機能異常:側脳室・第三脳室の拡大、海馬や上前頭回の灰白質体積減少が報告される。機能面では前頭前野機能低下(hypofrontality)が知られる。
心理社会的要因
都市環境での生育、移民、小児期の逆境体験(トラウマ・虐待)、薬物乱用(特に大麻)などが発症リスクを高める環境要因として知られる。また、家族の感情表出(Expressed Emotion: EE)が高い環境(批判的・敵対的・情緒的に巻き込まれすぎ)は、再発率を高めることが示されている。
【4】臨床症状・経過
経過は前駆期・急性期・消耗期・回復期(慢性期)に大別される。
長期経過は多様で、約半数は完全または軽度の障害を残して回復するとされるが、再燃と寛解を繰り返す例も多い。
【5】鑑別診断と評価尺度
鑑別診断
評価尺度
PANSS(陽性・陰性症状評価尺度)、BACS(認知機能簡易評価尺度)、CGI(臨床全般印象評価尺度)、GAF(機能の全体的評定尺度)などが、症状の重症度や機能レベルの客観的評価に用いられる。
【6】検査
診断は臨床症状に基づいて行われるが、補助診断・鑑別診断・重症度評価のために以下の検査を行うことがある。
- 心理検査:WAIS(知能検査)、BACS(認知機能検査)、ロールシャッハ・テストなどが認知機能やパーソナリティの評価に用いられる。
- 画像検査:頭部CT/MRIは器質的疾患の除外に必須。研究レベルではfMRI・MRS・PETを用いた脳機能研究が進む。
- 脳波検査:てんかんや意識障害との鑑別に有用。
- 血液検査:身体疾患(甲状腺・肝腎機能など)や薬物の影響を評価するために行う。
【7】治療
治療は薬物療法と心理社会的介入を組み合わせて行う。国内では『統合失調症薬物治療ガイドライン2022』(日本神経精神薬理学会・日本臨床精神神経薬理学会、2022年。2023年Web公開、2024年6月改訂)が参照される。同ガイドラインはクリニカルクエスチョン(CQ)形式で、当事者・家族との共同意思決定(SDM)の支援を目的とし、急性期・維持期の治療計画策定や副作用対応を体系的に示している。患者・支援者向けの『統合失調症薬物治療ガイド2022』も公開されている。
薬物療法
抗精神病薬が治療の中心。急性期の陽性症状改善と寛解後の再発予防に不可欠であり、原則として単剤投与・至適用量の遵守が推奨される。
治療抵抗性(複数の抗精神病薬で十分な反応が得られない)の場合には、クロザピンが選択肢となる(無顆粒球症などのリスク管理のため登録・モニタリング制度のもとで使用)。服薬アドヒアランスが課題となる場合は持効性注射剤(LAI)が有用である。
心理社会的介入
薬物療法と並行して行い、機能的回復(リカバリー)を促進する。
- 心理教育:患者・家族が疾患や治療を正しく理解し、主体的に治療に取り組めるよう支援する。
- 認知行動療法(CBT):妄想や幻聴に対する認知の歪みを修正し、症状への対処能力を高める。
- 社会生活技能訓練(SST):対人関係・問題解決など、社会生活に必要なスキルを練習する。
- 認知機能リハビリテーション:注意・記憶などの認知機能を改善する訓練。
- 家族療法:家族内のコミュニケーションを改善しEEを低下させることで再発リスクを軽減する。
- デイケア・作業療法:日中の活動の場を提供し、生活リズムの安定や対人交流の促進を図る。
入院適応
- 幻覚・妄想が著しく、現実検討能力が著しく損なわれている場合
- 興奮が激しく、自傷・他害のおそれがある場合
- 拒食や引きこもりにより生命・身体の危険が差し迫っている場合
- 診断や治療方針の決定のために集中的な観察が必要な場合
- 十分な休養がとれる環境が確保できない場合
※当院は外来診療を行う無床診療所のため、入院が必要と判断される場合は、連携する医療機関をご紹介します。
【8】予後・再発予防
長期的な予後は個人差が大きい。Kraepelinの早発痴呆概念では進行性の悪化が想定されたが、Bleulerは必ずしも悪化するとは限らないと指摘した。近年の長期予後研究では、約20〜25%は良好な回復を示し、約50%は中等度の改善を示すが、残りの25〜30%は転帰不良とされる。
良好な予後因子:急性の発症、発症年齢が高い、病前の社会適応が良好、明らかな誘因がある、家族のサポートがある、など。予後不良因子:潜行性の発症、若年発症、病前の社会適応不良、陰性症状が前景、認知機能障害が重い、家族のEEが高い、など。
再発予防が特に重要な課題であり、その鍵はアドヒアランスの維持である。症状が安定しても自己判断で服薬を中断すると高い確率で再発する。持効性注射剤(LAI)は、服薬管理が困難な症例でアドヒアランスを確保し再発を予防する有用な選択肢である。
【9】最新研究動向と今後の展望
- 新規作用機序の治療薬:ドーパミン系を直接の標的としないムスカリンM1/M4受容体作動薬(キサノメリン・トロスピウム配合剤)は、米国で2024年9月にCobenfy(開発名KarXT)として承認された。クロルプロマジン以来およそ70年ぶりの新しい作用機序の抗精神病薬として注目される。ただし本剤は現時点で国内未承認であり、日本での標準治療には含まれない。トレースアミン関連受容体1(TAAR1)作動薬など、その他の新規機序の薬剤も開発が進められている段階である。
- 客観的診断補助法:脳波(ミスマッチ陰性電位など)、NIRS(近赤外線スペクトロスコピー)、血中バイオマーカーを用いた、診断や治療反応性予測のための客観的指標の開発が進む。
- 神経刺激療法:rTMS(反復経頭蓋磁気刺激)による薬物抵抗性の幻聴や陰性症状への治療応用が研究され、間欠的シータバースト刺激(iTBS)の有効性を示唆するメタ解析も報告されている。
- 病態研究:GWASにより多数の疾患感受性遺伝子が同定され、免疫系やシナプス機能関連遺伝子の関与が示唆されている。患者由来iPS細胞を用いた疾患モデルにより、神経発達段階の異常を分子レベルで解明する研究も進む。
今後の展望:バイオマーカーを用いて個々の病態を評価し、効果的で副作用の少ない治療を選択する個別化医療の実現が目標である。また、発症リスクが高い状態(at-risk mental state: ARMS)を同定し、発症そのものの予防を目指す早期介入研究も重要な課題である。
【10】国内外ガイドライン比較
各国とも薬物療法と心理社会的療法の併用を推奨する点は共通するが、介入の優先順位やタイミングには違いがある。日本のガイドラインは薬物療法に重点が置かれる一方、APAやNICEではCBTや家族介入といった心理社会的介入の早期導入がより強く推奨される傾向にある。
【11】参考文献
- 日本神経精神薬理学会・日本臨床精神神経薬理学会(編). (2022). 統合失調症薬物治療ガイドライン2022. 医学書院. https://www.jsnp-org.jp/csrinfo/03_2.html
- American Psychiatric Association. (2022). Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition, Text Revision (DSM-5-TR). American Psychiatric Publishing.
- 日本精神神経学会(日本語版用語監修), 髙橋三郎・大野裕(監訳). (2023). DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル. 医学書院.
- World Health Organization. (2019). International Classification of Diseases, 11th Revision (ICD-11).
- 笠井清登(編集). (2021). 精神科研修ノート 第3版. 診断と治療社.
- 井上令一(監修). (2016). カプラン臨床精神医学テキスト 第3版. MEDSI.
- 松崎朝樹(著). (2020). 精神診療プラチナマニュアル 第3版. MEDSI.
- 医療情報科学研究所(編). こころの病気がみえる vol.1. メディックメディア.
- 中根允文. (2007). 発病・再発および経過に関わるライフイベント. 精神神経学雑誌, 109(8), 751-758.
- Kahn RS, Sommer IE, Murray RM, et al. (2015). Schizophrenia. Nat Rev Dis Primers, 1, 15067. (PMID:27189524)
【監修・執筆】永井常高(神楽坂メンタルクリニック院長・精神保健指定医・精神科専門医/指導医)
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