>> 当日予約・24時間予約はこちら
初診案内 Web予約 お問い合わせ アクセス

ギャンブル障害

自分の意志ではコントロールできない「心の病」

ギャンブルやインターネットゲームが「やめたくてもやめられない」状態になっていませんか?これは意思の弱さではなく、治療が必要な病気です。当院では回復への具体的な道のりを一緒に考えます。

  • コントロールを失い、やめられない
  • 日常生活よりゲームを優先する
  • 問題が起きても続けてしまう
  • 以前より多くの時間やお金を費やす
  • しないと落ち着かない、イライラする
  • 嘘をついて隠そうとする

ここから先は、嗜癖行動症(ギャンブル行動症・ゲーム行動症)について、診断基準(DSM-5-TR / ICD-11)・疫学・病態生理・治療・最新動向までを専門的に解説します。医療従事者の方や、より深く知りたい患者さん・ご家族に向けた内容です。

【1】疾患概念・定義(DSM-5-TR / ICD-11)

嗜癖行動症は、DSM-5-TRでは「物質関連症及び嗜癖症群」の中に位置づけられ、ギャンブル行動症(Gambling Disorder)が唯一正式な疾患単位として収載されている。これは、ギャンブル行動症の臨床像・病態生理・合併症・治療反応性などが物質使用障害と多くの共通点を有することがエビデンスとして蓄積されたためである。一方、インターネットゲーム行動症(Internet Gaming Disorder)は「今後の研究のための病態」セクションに収載され、さらなる研究が推奨される病態とされている。WHOのICD-11では、「物質使用症又は嗜癖行動症群」のカテゴリー内にギャンブル行動症ゲーム行動症(Gaming disorder, 6C51)がともに正式な疾患単位として収載されている。

DSM-5-TR:ギャンブル行動症(F63.0)

臨床的に意味のある機能障害または苦痛を引き起こす持続的かつ反復性の問題賭博行動で、過去12か月間に以下のうち4つ以上が示される。賭け金を増やす要求(耐性)、中断・中止で落ち着かなくなる(離脱)、制限・中止の努力の反復的失敗、賭博への絶え間ないとらわれ、苦痛の気分のときに賭博をする、負けを取り返そうと深追いする、のめり込みを隠すための嘘、重要な人間関係・仕事・教育・職業上の機会を危険にさらす/失う、絶望的な経済状況を免れるため他人に金を頼む。重症度は該当項目数で軽度(4-5)・中等度(6-7)・重度(8-9)に分類される。

ICD-11:ゲーム行動症(6C51)

持続的または反復性のゲーム行動(オンライン/オフラインを問わない)のパターンで、(1) ゲームに対するコントロールの障害(開始・頻度・強度・持続時間・終了・文脈)、(2) 他の生活上の関心事や日常活動よりゲームを優先する程度の増大、(3) 否定的な結果が生じているにもかかわらずゲームを継続・エスカレートさせる、の3特徴を持つ。個人・家族・社会・教育・職業などの重要な機能領域に著しい障害を引き起こすほどの重症度であり、診断には通常少なくとも12か月間の行動パターンが必要だが、すべての診断要件が満たされ症状が重篤な場合は期間を短縮できる。

【2】疫学

ギャンブル行動症

  • 国内有病率:2020年の成人調査では、ギャンブル行動症が疑われる者の割合は生涯有病率で2.2%(男性3.7%、女性0.7%)であり、海外の多くの国と比較して高い水準にある。
  • 国際比較:世界の成人における過去1年間の有病率は0.1〜5.8%と推計される。
  • 性差:生涯有病率では男性が女性の約5倍と顕著な性差が認められる。
  • 発症年齢:青年前期から若年成人期に発症することが多いが、中年期以降の発症も少なくない。

ゲーム行動症

  • 国内有病率:2019年の10〜29歳への調査では、ゲーム行動症が疑われる者の割合は5.1%(男性7.6%、女性2.5%)であった。
  • 国際比較:近年のメタアナリシスでは約2〜3%と報告されているが、研究や定義により大きくばらつく。
  • 性差:男性に多く、有病率は女性の約3倍と報告されている。
  • 発症年齢:思春期に有病率が高く、その後は年齢とともに低下する傾向がある。

【3】病因・病態生理

病態生理は物質使用障害と同様に、脳の報酬系における神経伝達物質、特にドパミン(DA)の機能異常が中心的役割を担うと考えられている。

神経生物学的要因

  • 報酬系の感作:ギャンブルやゲームによる刺激が反復されると、中脳辺縁系ドパミン作動性ニューロン(腹側被蓋野→側坐核)が感作され、行動への動機づけ(渇望)が異常に亢進する。
  • 前頭前野機能の低下:報酬予測・意思決定・衝動制御を司る前頭前野、特に眼窩前頭皮質(OFC)や背外側前頭前野(DLPFC)の機能低下が指摘され、長期的不利益を顧みず目先の報酬を優先する行動(遅延割引の亢進)が生じる。
  • セロトニン系の関与:衝動性や気分の調節に関わるセロトニン(5-HT)系の機能不全も示唆され、衝動性の高さがリスク因子となる。
  • オピオイド系の関与:内因性オピオイド系も報酬・快感に関与し、ギャンブル行動症に対するオピオイド拮抗薬(ナルトレキソン等)の有効性が示唆されることは、この系の関与を裏付ける。

心理社会的要因

  • 認知の歪み:「ニアミス」を過大評価する、勝つ確率を客観データより高く見積もる(コントロール幻想)、負けを取り返そうとする(負の追いかけ)といった特有の認知の歪みが行動を維持・悪化させる。
  • 学習理論:オペラント条件づけ(報酬による行動強化)と古典的条件づけ(特定の環境・刺激と渇望の連合)の両方が病態に関与する。
  • ストレス脆弱性モデル:コーピングスキルの低さや、不安・抑うつなどの精神症状が、現実逃避的手段としての嗜癖行動を引き起こし維持する。
  • 社会的要因:アクセスの容易さ(オンライン化)、孤独や社会的孤立、経済的問題なども発症・維持に関与する。

【4】臨床症状・経過

一般に進行性の経過をたどり、3つの時期に大別される。勝利期(楽しみとして始まり、大勝ちや高評価などの成功体験が報酬系を強く刺激。まだコントロールできていると感じることが多い)→損失期(行動が生活の中心となり、費やす時間・金銭が増大。ギャンブルでは負けが込み借金を、ゲームでは昼夜逆転や社会的孤立が始まる。嘘や人間関係の悪化が生じるが問題を否認する)→絶望期(完全にコントロールを失い、多重債務・失業・家庭崩壊・犯罪など深刻な問題に直面。ゲームでは長期のひきこもりや家庭内暴力に至ることも。絶望感・罪悪感・うつ状態が著しく、自殺リスクが高まる)。

非典型例:女性のギャンブル行動症は男性より発症年齢が遅く進行が速い(テレスコーピング現象)傾向があり、うつ病・不安症の合併が多く、対人関係を必要としない賭博(スロット等)を好む傾向がある。高齢者では退職後の時間的余裕や孤独感を背景に発症し、認知機能の低下が衝動制御の困難につながることがある。発達障害の合併例では、ADHDの衝動性やASDのこだわりがコントロールをより困難にする。

【5】鑑別診断と評価尺度

評価尺度

  • ギャンブル行動症:SOGS(South Oaks Gambling Screen、広く用いられるスクリーニング尺度)、G-SAS(Gambling Symptom Assessment Scale、重症度評価尺度)。
  • ゲーム行動症:IAT(Internet Addiction Test、ネット依存全般の尺度だがゲームにも応用)、IGDS-SF9(DSM-5の診断基準案に基づく9項目尺度)。

鑑別診断

  • 躁病/軽躁病エピソード:双極症の躁状態では判断力低下から過剰な浪費やギャンブル・ゲームへの没頭が見られる。気分の高揚・活動性亢進・睡眠欲求の減少などを確認して鑑別する。
  • 物質使用障害:合併率が非常に高く、症状が重複することもあるため詳細な聴取が必要。
  • 強迫症(OCD):強迫行為は不安軽減を目的とし快感を伴わない点で、快感を伴うことの多い嗜癖行動と異なる。
  • パーソナリティ症:境界性パーソナリティ症などで嗜癖行動が問題となることがあり、包括的な評価が重要。
  • 非嗜癖的な過度の使用:プロゲーマーや一時的なストレス下での過度の使用など、臨床的に意味のある苦痛や機能障害を伴わない場合は診断に至らない。

【6】検査

診断を確定するための特異的な生物学的マーカーは存在しない。検査は主に合併症の評価や鑑別診断のために行われる。

  • 心理検査:知能検査(WAIS-IV等)で認知機能の水準や発達障害の可能性を、パーソナリティ検査(MMPI、YG性格検査等)で特性や精神病理を、遂行機能検査(WCST、TMT等)で前頭葉機能(意思決定・衝動制御)を評価する。
  • 画像検査:脳MRI/CTで器質的疾患を除外する。研究レベルではfMRI・PETで報酬系や前頭前野の機能異常が検討されているが、臨床診断での使用は一般的ではない。
  • 血液検査:直接的な診断には繋がらないが、ゲームへの没頭による栄養状態の低下やストレスによる身体への影響などを評価するために実施することがある。

【7】治療

治療は心理社会的介入を主軸とし、薬物療法を補助的に用いる。目標は、ギャンブル行動症では完全な断絶、ゲーム行動症ではコントロールされた使用である。

心理社会的介入

  • 認知行動療法(CBT):エビデンスレベルの高い治療法。ギャンブルやゲームに関連する自動思考やスキーマを同定・修正し、渇望への対処スキル(コーピングスキル)や問題解決技法を習得する。曝露反応妨害法も有効。
  • 動機づけ面接法(MI):治療動機が低い患者に対し、両価性を探り、内発的な動機を高める。
  • 集団精神療法:同じ問題を抱える他者との交流を通じて自己の体験を客観視し、新たな対処法を学ぶ。孤立感の軽減にもつながる。
  • 自助グループ(GAなど):12ステッププログラムなどに基づき当事者同士で回復を支え合う。専門的治療と並行した参加が強く推奨される。
  • 家族療法・家族教育:家族内のコミュニケーションパターンを改善し、イネーブリングを減らす。家族が病気を正しく理解し適切に対応できるよう支援する。

薬物療法

  • 嗜癖行動症自体への薬物療法:抗うつ薬(SSRI)が衝動性や渇望の軽減を期待して使われることがあるがエビデンスは限定的。オピオイド拮抗薬(ナルトレキソン、ナルメフェン)はギャンブルへの渇望や快感を抑制する効果が示唆され海外では使用されるが、本邦では当該適応で保険適用外。気分安定薬(リチウム、バルプロ酸など)が衝動性コントロールを目的に使われることがあるがエビデンスは十分でない。
  • 合併精神疾患への薬物療法:うつ病・不安症・ADHDなどが合併する場合、それぞれの疾患に対する標準的な薬物療法を行う。合併症の改善が嗜癖行動のコントロールに寄与することが多い。

国内事情に関する注記:嗜癖行動症そのものに対して国内で承認された治療薬は存在しない。海外でギャンブル行動症に用いられるオピオイド拮抗薬(ナルトレキソン等)は、国内ではこの適応で承認されていない。したがって薬物療法は合併症治療が中心となり、心理社会的介入・自助グループが治療の柱となる。

入院適応

外来治療が基本だが、自殺念慮が強く生命の危険が差し迫っている場合、多重債務や違法行為など行動の問題が極めて深刻で物理的に行動を制限する必要がある場合、重篤な精神・身体合併症があり集中的な治療が必要な場合、家庭環境が極端に悪く治療的な環境調整が必要な場合などには入院治療を検討する。当院は無床診療所のため、入院が必要な場合は専門の医療機関を紹介する。

【8】予後・再発予防

慢性的な疾患であり再発のリスクが高い。予後は、合併症の有無、治療への動機、ソーシャルサポートの状況などに大きく影響される。予後不良因子として、重篤な精神疾患の合併(双極症・パーソナリティ症など)、物質使用障害の合併、早期発症、ソーシャルサポートの欠如、経済的問題の深刻さが挙げられる。

機能予後:行動のコントロールが可能になっても、失われた社会的信用・経済的基盤・人間関係を回復するには長い時間を要する。ギャンブル行動症では自己破産や債務整理を経ても経済的困難が続くことが多く、ゲーム行動症では長期のひきこもりによる学業・キャリアの中断が社会復帰の障壁となる。

再発予防:症状が改善しても定期的な通院や自助グループへの参加を継続することが重要である。HALT(Hungry/Angry/Lonely/Tired)の認識とセルフケア、治療で学んだコーピングスキルの般化、嗜癖行動に代わる健康的で満足感の得られる活動の発見、強い渇望が生じた際の緊急時行動計画の準備が鍵となる。再発は失敗ではなく回復の過程の一部であり、再発をきっかけに新たな課題を発見し治療計画を見直すことが長期的な回復につながる。

【9】最新研究動向と今後の展望

  • 神経科学的アプローチ:fMRI研究で、報酬予測やリスク評価に関わる脳領域(腹側線条体、OFC)の活動異常が詳細に検討され、ギャンブルの「ニアミス」刺激に対する線条体の過活動が認知の歪みの神経基盤として注目されている。安静時機能的結合MRI(rs-fMRI)では、デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)と実行制御ネットワーク(ECN)の結合異常が報告されている。
  • 遺伝子研究:GWASにより、ドパミン系・セロトニン系の遺伝子多型だけでなく、神経可塑性やグルタミン酸作動性神経伝達に関わる遺伝子が嗜癖行動への脆弱性に関与する可能性が示唆されている。
  • 治療研究:認知バイアス修正(CBM)、VR(バーチャルリアリティ)を用いた曝露療法、TMS(経頭蓋磁気刺激法)によるDLPFCへの刺激などが、渇望や衝動性の低減を目指して検討・臨床試験されている。
  • テクノロジーの応用:スマートフォンアプリを用いた自己モニタリングやCBT介入、ウェアラブルデバイスによる生理学的指標のモニタリングが、再発予防や個別化医療に応用され始めている。

今後の展望:多様なサブタイプの同定とそれに対応する神経生物学的基盤の解明、遺伝子・脳画像・行動データに基づく個別化医療、発症前の予防的介入プログラムの開発、SNS・買い物など新たな嗜癖行動への研究と対策が重要な課題となる。

【10】国内外ガイドライン比較

項目 日本 米国(APA) 英国(NICE)
第一選択治療心理社会的介入(特にCBT)心理社会的介入(CBT、動機づけ面接)心理社会的介入(CBT、カップル療法)
薬物療法合併症に対して使用。嗜癖自体への使用は慎重でエビデンス限定的(適応薬なし)ナルトレキソン・リチウム・SSRI等を選択肢として提示するがエビデンスはCBTより低い第一選択ではなく、心理社会的介入が無効・不可能な場合に専門医判断で検討。ナルトレキソンを条件付き推奨
自助グループ強く推奨強く推奨推奨(治療計画の一部)
家族介入推奨(家族への心理教育とサポート重視)推奨(イネーブリングへの介入を強調)強く推奨(家族も支援の対象)
ゲーム行動症ICD-11に基づき治療対象。コントロールされた使用を目指すDSM-5-TRの研究用基準として言及。治療GLは未確立ギャンブルに準じたアプローチを推奨するがエビデンス構築が急務

国内外のガイドラインは、いずれも嗜癖行動症の治療において心理社会的介入、特にCBTを第一選択とする点で共通している。薬物療法の位置づけは補助的であり、特に日本では適応のある薬剤がないため、その使用は合併症治療に限られることが多い。自助グループや家族介入の重要性もすべてのガイドラインで強調されている。今後の課題として、エビデンスに基づいた治療法の普及と、ゲーム行動症を含む新たな嗜癖に対する標準的治療アプローチの確立が挙げられる。

【11】参考文献

  • American Psychiatric Association. (2022). Diagnostic and statistical manual of mental disorders (5th ed., text rev.).(日本精神神経学会 日本語版用語監修『DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル』医学書院, 2023)
  • World Health Organization. (2019). International statistical classification of diseases and related health problems (11th ed.).
  • Grant JE, Potenza MN, Weinstein A, Gorelick DA. (2010). Introduction to behavioral addictions. Am J Drug Alcohol Abuse, 36(5), 233-241. (PMID:20560821)
  • Petry NM, O’Brien CP. (2013). Internet gaming disorder and the DSM-5. Addiction, 108(7), 1186-1187. (PMID:23692373)
  • Hodgins DC, Stea JN. (2021). Gambling disorder. Lancet Psychiatry, 8(11), 1004-1013. (PMID:34537107)
  • Stevens MWR, King DL, Dorstyn D, Delfabbro PH. (2021). Cognitive-behavioral therapy for Internet gaming disorder: a systematic review and meta-analysis. Clin Psychol Psychother, 28(2), 267-285. (PMID:32964593)
  • Kim HS, Son G, Roh S. (2022). The neurobiological and clinical characteristics of internet gaming disorder: a systematic review. J Pers Med, 12(3), 481. (PMID:35329381)
  • 永井良三(シリーズ総監修), 笠井清登(編)『精神科研修ノート 第3版』診断と治療社/井上令一(監修)『カプラン臨床精神医学テキスト 第3版』MEDSI/松崎朝樹『精神診療プラチナマニュアル 第3版』MEDSI/『病気がみえる vol.14 精神疾患』MEDIC MEDIA.

【監修・執筆】永井常高(神楽坂メンタルクリニック院長・精神保健指定医・精神科専門医/指導医)

1

2

ページ上部へ戻る
03-5579-8290

電話対応 9:00~18:00
FAX番号 03-5579-8322(24時間)
※11月1日より電話対応開始