摂食障害は、食事の量や食べ方を自分でコントロールできなくなり、心と体に深刻な影響が及ぶ病気です。体重や体型への強いこだわりが特徴で、専門的な治療が必要です。
食事と体重への強いこだわりが心身を蝕む病気
- 極端な食事制限をする
- 隠れて大量に食べる
- 食べた後に自分で吐く
- 下剤や利尿剤の不適切な使用
- 体重や体型に過度にこだわる
- 著しい低体重
- 疲れやすさや気分の落ち込み
- 月経が止まる
ここから先は、摂食障害(食行動症及び摂食症群)について、診断基準(DSM-5-TR / ICD-11)・疫学・病態生理・治療・最新動向までを専門的に解説します。医療従事者の方や、より深く知りたい患者さん・ご家族に向けた内容です。診断基準等の数値はあくまで臨床評価のための医学的指標であり、自己判断の目安ではありません。
【1】疾患概念・定義(DSM-5-TR / ICD-11)
摂食障害は、DSM-5-TRでは「食行動症及び摂食症群」、ICD-11では「食行動症または摂食症群」として分類される精神疾患の一群である。食行動の異常が持続し、身体的健康や心理社会的機能に重大な支障をきたすことを特徴とする。下位分類には、神経性やせ症・神経性過食症・むちゃ食い症(過食性障害)・回避制限性食物摂取症・異食症・反芻症などが含まれる。
神経性やせ症(Anorexia Nervosa: AN)
DSM-5-TRでは、(A) カロリー摂取の制限により年齢・性別・発達経緯・身体的健康状態に照らして有意の低体重となる、(B) 有意の低体重であるにもかかわらず体重増加・肥満になることへの強い恐怖、または体重増加を妨げる持続的な行動がある、(C) 体重・体型に対する自己評価の障害、自己評価に対する体重・体型の過剰な影響、または現在の低体重の重篤さの否認、の3基準を満たす。病型として「摂食制限型」と「むちゃ食い・排出型」がある。重症度は成人ではBMIに基づき軽度〜最重度に分類される。なおDSM-5-TRでは、成人のBMIが一定以上(19.0 kg/m²以上)の場合などに本診断を除外することが明記された。
神経性過食症(Bulimia Nervosa: BN)
(A) 反復するむちゃ食いのエピソード(限られた時間内に明らかに多い食物を食べ、その間コントロールできないという感覚を伴う)、(B) 体重増加を防ぐための反復する不適切な代償行動(自己誘発性嘔吐、緩下剤・利尿薬等の乱用、絶食、過剰な運動)、(C) むちゃ食いと代償行動がいずれも平均して週1回以上・3か月間続く、(D) 自己評価が体型・体重の影響を過度に受ける、(E) 神経性やせ症のエピソード中にのみ起こるものではない、で定義される。重症度は週あたりの代償行動の頻度で分類される。
過食性障害/むちゃ食い症(Binge-Eating Disorder: BED)
反復するむちゃ食いのエピソードがあり、(普段よりずっと速く食べる/不快な満腹感まで食べる/空腹でないのに大量に食べる/恥ずかしさから一人で食べる/食後に自己嫌悪・抑うつ・強い罪悪感を感じる、のうち3つ以上を伴う)、著しい苦痛が存在し、平均して週1回以上・3か月間続く。神経性過食症のような反復する不適切な代償行動を伴わない点が鑑別点である。
回避・制限性食物摂取症(ARFID)
DSM-5-TR・ICD-11(6B83)で定義され、従来の「乳幼児期の哺育障害」を拡張した概念。適切な栄養/エネルギーの必要性が持続的に満たされず、有意な体重減少(小児では期待される体重増加の欠如)・有意な栄養不足・経腸栄養や経口栄養補助食品への依存・心理社会的機能の著しい障害のいずれかで顕在化する。食物への関心の欠如、感覚的特性への嫌悪、嫌悪的結果(窒息・嘔吐など)への懸念など多様な理由で発症する。AN/BNとの最大の鑑別点は「体重や体型へのこだわりがない」点である(Thomas et al., 2017, PMID:28836435)。
【2】疫学
近年の動向として、COVID-19パンデミックが摂食障害の新規発症および既存症状の悪化に影響を与えたことが複数の研究で報告されている(大迫ほか, 2024)。社会的孤立、ストレスの増大、生活リズムの乱れなどが要因として挙げられる。
【3】病因・病態生理
生物学的脆弱性を基盤として、心理的要因・社会文化的要因が相互に影響し合う多元的モデルで理解されている。
神経生物学的要因
- 遺伝的要因:双生児研究からANで50〜60%、BNで28〜83%の高い遺伝率が示唆される(Thornton et al., 2011, PMID:20516782)。GWASではANと代謝系および精神医学的特性(強迫症・うつ病など)との遺伝的相関が特定されている(Watson et al., 2019, PMID:31308493)。
- 神経伝達物質:セロトニン系は気分・衝動性・食欲調節に関与。BNやAN(むちゃ食い・排出型)ではセロトニン機能の低下が、AN(摂食制限型)ではセロトニン受容体の過剰応答が仮説として提唱される。ドパミン系は報酬・動機づけに関与し、食物摂取や運動への異常な反応に関連する可能性がある。
- 脳機能・構造:fMRI研究で報酬系(線条体)・自己認知(楔前部、後部帯状回)・認知制御(前頭前野)を含む神経回路の機能異常が報告される。AN患者では食物刺激に対し腹側線条体の反応が低下する一方、背側線条体の反応は亢進しており、食物摂取が報酬ではなく不安や習慣的行動として処理されている可能性が示唆される(Frank, 2015, PMID:26233461)。
- 腸内細菌叢:腸内細菌叢の多様性低下や構成変化が、AN患者の心理症状(うつ・不安)や体重回復と関連することが示され、新たな治療標的として注目されている(磯部, 2024)。
心理社会的要因
- 心理的特性:完璧主義、強迫性、自己評価の低さ、否定的感情、神経症的傾向がリスク因子として確立。特にANでは不安回避や固執性、BNでは衝動性や感情調節困難が顕著。
- 発達的要因:小児期の食習慣の問題、不安症の既往、被虐待体験(身体的・性的・情緒的)は後の発症の有意なリスク因子。
- 社会文化的要因:「痩せの理想化」の内面化が体型への不満を高め、ダイエット行動を介して発症リスクを増大させる。SNSの普及は理想化された身体イメージへの曝露を増やし、社会的比較を通じてこの影響を増幅させている(Holland & Tiggemann, 2016, PMID:27216472)。
【4】臨床症状・経過
- 神経性やせ症(AN):典型例ではダイエットを契機に発症し、体重減少が成功体験となり食事制限がエスカレートする。低栄養による身体症状が出現するが病識に乏しく治療に抵抗することが多い。経過は多様で、単一エピソードで寛解する例から慢性経過、死に至る例まである。死亡率は精神疾患の中でも高く、身体合併症と自殺が主要因である。
- 神経性過食症(BN):10代後半〜20代前半に発症することが多く、ANの既往を持つ場合も少なくない。むちゃ食いは強いストレスや否定的感情を契機に生じ一時的な解放感をもたらすが、直後に強い罪悪感・自己嫌悪に襲われ代償行動に至る悪循環を形成する。体重は正常範囲内のことが多く、症状を隠すため発見が遅れやすい。慢性化しやすいが、ANよりは予後良好とされる。
- 回避・制限性食物摂取症(ARFID):小児期発症が多いが成人で診断されることもある。発症様式は、食物への関心の欠如/感覚的特性への過敏性/過去の嫌悪的経験への恐怖、の3つに大別される。ANと異なり体型・体重への恐怖はない。特定の食品群を完全に避けるため、重篤な栄養失調をきたすことがある。
【5】鑑別診断と評価尺度
鑑別診断
- 身体疾患:体重減少や食欲不振をきたす悪性腫瘍、吸収不良症候群、内分泌疾患(甲状腺機能亢進症、Addison病など)、中枢神経系疾患を除外する。
- うつ病:食欲低下による体重減少が見られるが、ANのような体重・体型へのこだわりはない。
- 強迫症:食物へのこだわりが汚染への恐怖などに基づく場合。
- 身体醜形症:体重や全体的な体型ではなく、特定の身体部位の欠陥にとらわれている場合。
- 統合失調症:妄想(例:食物に毒が入っている)によって食事を拒否している場合。
評価尺度
摂食障害の認知・行動の重症度を評価するEDE-Q、リスクをスクリーニングするEAT-26、ARFIDのスクリーニングに用いるNIASなどが用いられる。
【6】検査
【7】治療
治療は多職種チーム(医師・心理士・看護師・管理栄養士・ソーシャルワーカー等)による包括的アプローチが推奨される(NICE NG69, 2017)。心理社会的介入を中心に据える点は各ガイドラインで共通している。
心理社会的介入
- 神経性やせ症:思春期・青年期では家族療法(Family-Based Treatment; FBT)が第一選択として強いエビデンスを有する。成人ではANに特化したCBT(CBT-AN)、MANTRA、SSCM(Specialist Supportive Clinical Management)などが推奨されるが、FBTほど確立したエビデンスはない。
- 神経性過食症:認知行動療法(CBT-BN)が第一選択。ガイデッドセルフヘルプ形式でも有効性が示されている。CBTが無効・実施困難な場合は対人関係療法(IPT)も有効な選択肢。
- 過食性障害:BNと同様にCBT(CBT-BED)が第一選択。IPTも有効。
- ARFID:確立された治療法はまだないが、不安や恐怖に基づく回避に対しては認知行動療法的アプローチ(CBT-ARFID;系統的脱感作や曝露を含む)が有望視されている(Thomas et al., 2017, PMID:28836435)。
薬物療法
- AN:体重増加を直接促進する有効な薬剤はない。併存するうつ病や強迫症に対してSSRIが使われることがあるが、低体重状態では効果が限定的で副作用リスク(特にQT延長)に注意を要する。非定型抗精神病薬(特にオランザピン)が体重増加への不安や固執性の緩和に有効な可能性が示唆されるが、エビデンスは一貫していない(APA Practice Guideline, 2023)。
- BN:海外ではフルオキセチン(SSRI)がプラセボと比較してむちゃ食い・排出行動を有意に減少させるとして第一選択薬とされ、通常はうつ病治療より高用量を要する。
- BED:海外ではSSRIに加え、ADHD治療薬のリスデキサンフェタミンがむちゃ食いの頻度を減少させるとして米国FDAに承認されている。
国内事情に関する注記:BNの第一選択とされるフルオキセチンは、国内では承認・販売されていない(過去に開発されたが承認申請に至らず、現在は販売中止)。国内で使用可能なSSRIはフルボキサミン・パロキセチン・セルトラリン・エスシタロプラム等で、摂食障害は保険適応外のため、併存するうつ病・不安症等に対する処方として個別に判断される。またリスデキサンフェタミンは国内では小児期ADHDのみの承認(流通管理あり)で、過食性障害には未承認である。
入院適応
入院治療の判断は身体的・精神医学的リスクに基づく(APA 2023 等)。身体的には、著明な低体重や急速な体重減少、徐脈・低血圧・起立性低血圧・不整脈・QTc延長などの循環器系異常、重篤な電解質異常や低血糖・低リン血症(再栄養症候群のリスク)、低体温・脱水・臓器不全の徴候などが基準となる。精神医学的には、切迫した自殺リスク、外来管理を困難にする重度の併存疾患(重度うつ病・精神病症状・物質乱用)、外来治療が効果不十分または家庭環境で治療構造を提供できない場合、治療動機が著しく低く協力が得られない場合などが挙げられる。当院は無床診療所のため、入院が必要な場合は連携医療機関を紹介する。
【8】予後・再発予防
予後は様々である。長期追跡では、AN患者の約半数が完全に回復、約30%が部分的に回復、約20%が慢性的な経過を辿ると報告される。BNはANより予後良好で、約50〜70%が寛解に至る。予後良好因子として若年発症・短い罹病期間・高い治療動機・良好な親子関係が、予後不良因子として重度の低体重・むちゃ食い/排出行動・併存精神疾患(特にパーソナリティ症)が挙げられる。
再発予防には、心理教育、ストレスマネジメント、対人関係スキルのトレーニング、生活リズムの維持が重要である。治療終結後も、定期的なフォローアップや支持的精神療法が再発リスクを低減する。
【9】最新研究動向と今後の展望
- 神経画像研究の進展:安静時機能的結合MRI(rs-fMRI)などを用いた大規模研究(ENIGMA-EDコンソーシアム等)により神経回路基盤の解明が進み、将来的には治療反応性を予測するバイオマーカーの同定が期待される。
- ニューロモジュレーション:経頭蓋磁気刺激法(TMS)や深部脳刺激療法(DBS)など神経回路に直接介入する治療法の研究が難治性ANを中心に進む。自己制御や報酬系に関連する脳領域(背外側前頭前野など)がターゲットとされる(Godier & Park, 2021, PMID:34139886)。
- 腸内細菌叢-脳-腸相関:腸内細菌叢が病態に関与するエビデンスが集積し、プロバイオティクスや糞便微生物移植(FMT)といった新たな治療アプローチの可能性が探求されている。
- ARFIDの治療法開発:認知度向上に伴い、CBT-ARFIDや家族療法など多様な病態に応じた治療法の開発と有効性検証が急務となっている。
- デジタルヘルスの活用:スマートフォンアプリによるセルフモニタリングや遠隔治療介入(テレヘルス)が、治療アクセスの向上とリアルタイム支援のツールとして期待される。
今後は、これらの知見を統合し、個々の患者の生物学的・心理学的特性に基づいた個別化医療(personalized medicine)の実現が大きな目標となる。
【10】国内外ガイドライン比較
全体として、心理社会的介入を治療の中心に据える点で共通する。特に若年性ANに対する家族療法の推奨、BN/BEDに対するCBTの推奨は各ガイドラインで一致している。薬物療法の位置づけは補助的だが、BNに対するSSRIの有効性は広く認められている(ただし国内ではフルオキセチンが使用できない点に留意)。
【11】参考文献
- American Psychiatric Association. (2023). Practice Guideline for the Treatment of Patients With Eating Disorders, Fourth Edition.
- American Psychiatric Association. (2022). DSM-5-TR.(日本精神神経学会 日本語版用語監修『DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル』医学書院, 2023)
- World Health Organization. (2022). International Classification of Diseases, 11th Revision (ICD-11).
- National Institute for Health and Care Excellence. (2017). Eating disorders: recognition and treatment (NG69).
- Thomas JJ, et al. (2017). Avoidant/Restrictive Food Intake Disorder. Curr Psychiatry Rep, 19(8), 54. (PMID:28836435)
- Thornton LM, et al. (2011). The heritability of eating disorders. Curr Psychiatry Rep, 13(4), 406-414. (PMID:20516782)
- Watson HJ, et al. (2019). Genome-wide association study … for anorexia nervosa. Nat Genet, 51(8), 1207-1214. (PMID:31308493)
- Frank GKW. (2015). Anorexia nervosa and the brain. Curr Opin Psychiatry, 28(6), 469-474. (PMID:26233461)
- Holland G, Tiggemann M. (2016). A systematic review … social networking sites on body image and eating disorders. Body Image, 17, 100-110. (PMID:27216472)
- Godier LR, Park RJ. (2021). Neuromodulation for eating disorders: a systematic review. Eur Eat Disord Rev, 29(5), 681-700. (PMID:34139886)
- 磯部昌憲. (2024). 神経性やせ症の病態への腸内細菌叢の関与. JJED, 4(1), 68./大迫鑑顕ほか. (2024). 疫学データから見た摂食障害. JJED, 4(1), 45-54.
- 笠井清登(編)『精神科研修ノート 第3版』診断と治療社/井上令一(監修)『カプラン臨床精神医学テキスト 第3版』MEDSI/松崎朝樹『精神診療プラチナマニュアル 第3版』MEDSI.
【監修・執筆】永井常高(神楽坂メンタルクリニック院長・精神保健指定医・精神科専門医/指導医)
2