うつ病は気分が落ち込み、何事にも興味や喜びを感じられなくなる病気です。十分な休息と適切な治療で回復できます。一人で抱え込まず、ご相談ください。
心のエネルギーが枯渇し、喜びや意欲を失ってしまう脳の機能障害
 
- 気分が落ち込み
- 興味や喜びが感じられない
- 睡眠がうまく取れない
- 食欲が落ちる、または増えてしまう
- 体がだるく感じる
- 集中できない、考えがまとまらない
- 不安や焦り、苛立ち
- 自分を責めすぎる
- 価値がないと感じる
- 死にたいと考えることがある
1. うつ病とはどんな病気?
うつ病は、決して特別な人がなる病気ではありません。真面目で責任感が強く、周りに気を遣う、いわゆる「いい人」がなりやすいとも言われますが、実際には誰にでも起こりうる病気です。生涯のうちに、日本では約16人に1人が経験するという調査結果もあります。
よく「心の風邪」と例えられますが、風邪のように数日で自然に治ることは少なく、治療が必要な「脳の病気」です。心の持ち方や性格の問題、甘えなどでは決してありません。
例えるなら、心のエネルギーが完全にガス欠になってしまった状態です。車がガス欠になると動かなくなるように、脳のエネルギーが枯渇すると、気分が落ち込むだけでなく、考える力、行動する意欲、そして楽しむ気持ちさえも失われてしまいます。そのため、これまで当たり前にできていた仕事や家事、趣味などが、急にできなくなってしまうのです。

しかし、うつ病は適切な治療と休養によって、エネルギーを再び充電し、回復することができる病気です。一人で抱え込まず、専門家に相談することが回復への第一歩となります。
2. 主な症状は?– 心と身体のサイン
うつ病のサインは、心の不調だけでなく、身体の不調としても現れることが多く、ご自身では気づきにくいこともあります。周りの方が「いつもと違う」と感じたら、それはうつ病のサインかもしれません。
心の症状
- 気分・感情
- 一日中気分が沈んで憂うつ
- 理由もなく悲しくなり、涙が出る
- 不安で落ち着かない、イライラする
- これまで楽しかった趣味やテレビ番組が楽しめない
 
- 意欲・思考
- 何をするのも億劫で、やる気が出ない
- 集中力がなくなり、新聞や本の内容が頭に入らない
- 物事を悪い方へ考えてしまい、自分を責める(「自分はダメな人間だ」)
- 決断できない、考えがまとまらない
- 「生きていても仕方がない」「消えてしまいたい」と考えてしまう(希死念慮)
 
身体の症状
- 睡眠
- 寝つきが悪い(入眠困難)
- 夜中に何度も目が覚める(中途覚醒)
- 朝早く目が覚めてしまい、二度寝できない(早朝覚醒)
- 逆に、寝ても寝ても眠い(過眠)
 
- 食欲
- 食欲がなく、食べても味がしない
- 体重が急に減った
- 逆に、甘いものなどを過食してしまい、体重が増えることもある
 
- その他の身体症状
- 体がだるい、疲れやすい
- 頭痛、肩こり、腰痛、胃の不快感、便秘、動悸、めまいなど
 

特に、「気分の落ち込み」と「興味・喜びの喪失」の2つが、うつ病の中核的な症状です。これらの症状が2週間以上、ほとんど毎日続く場合は、うつ病の可能性があります。
3. 原因やきっかけは?
うつ病の発症には、単一の原因があるわけではなく、様々な要因が複雑に絡み合っていると考えられています。
これを「ストレス脆弱性モデル」という考え方で説明できます。人の心を風船に例えてみましょう。風船の大きさやゴムの丈夫さ(ストレスへの耐性)は、遺伝的な要因やこれまでの経験によって人それぞれです。
- 環境要因(ストレス):
 仕事のプレッシャー、人間関係の悩み、家族との死別、病気、経済的な問題など、つらい出来事(ストレス)が、風船を上から押す力になります。昇進や結婚、引っ越しといった喜ばしい出来事も、変化という点ではストレスになり得ます。
- 生物学的要因:
 ストレスが続くと、脳の中で情報を伝える神経伝達物質(セロトニンやノルアドレナリンなど)のバランスが崩れ、脳の機能に不調が生じます。これが、風船から空気が抜けてしぼんでいくような状態です。
- 心理的要因:
 真面目で責任感が強く、完璧主義、他人に頼るのが苦手といった性格傾向(病前性格)を持つ人は、ストレスを一人で抱え込みやすく、風船に強い圧力がかかりやすいかもしれません。
これらの要因が重なり、その人のストレス耐性の限界を超えたときに、風船が割れるようにうつ病が発症すると考えられています。
4. 診断の流れ
「うつ病かもしれない」と感じてクリニックを受診された場合、以下のような流れで診断を進めていきます。
- 問診(一番重要です):
 医師が患者さんとお話をし、どのような症状で、いつから、どんな状況で困っているのかを詳しくお伺いします。ご自身の言葉で、つらい気持ちや体の不調についてお話しください。特に初診時のWeb問診表を記入いただけると、スムーズにお話が進みます。
 ご家族や職場の方から見たご本人の様子も、診断の重要な参考になります。可能であれば、ご家族に同席していただくか、状況をメモにまとめてお持ちいただくとスムーズです。
- 心理検査:
 質問紙(アンケート)形式の心理検査を用いて、客観的に気分の状態や症状の重症度を評価することがあります。
- 身体的な検査:
 抑うつ症状は、他の身体の病気(例えば、甲状腺機能低下症や脳の病気など)が原因で起こることもあります。そのため、必要に応じて血液検査や頭部CT/MRIなどの画像検査、心電図などを行い、他の病気の可能性がないかを確認します。
 ※当院では血液検査は行いますが、画像検査等が必要になった場合は、他院での検査を依頼します。
これらの情報を総合的に判断し、国際的な診断基準である「DSM-5-TR」などに基づいて、医師がうつ病の診断を行います。

5. 主な治療法
うつ病の治療は、車のガス欠を解消し、再び走れるようにメンテナンスをする作業に似ています。主な治療法は「休養」「薬物療法」「精神療法」の3つの柱です。これらを組み合わせて、患者さん一人ひとりの状態に合わせた治療計画を立てていきます。
1. 十分な休養

ガス欠の車にまず必要なのが給油であるように、うつ病の治療で最も大切なのは「何もしないで、心と体を休ませること」です。 真面目な方ほど「休むことに罪悪感がある」と感じがちですが、休養は治療の一環です。医師の診断のもと、必要であれば休職などの環境調整を行い、安心して休める環境を整えることが回復への近道です。
2. 薬物療法

薬物療法は、脳の中でうまく働かなくなっている神経伝達物質のバランスを整え、症状を和らげることを目的とします。ガソリンの供給パイプを修理するようなイメージです。
抗うつ薬
主に使われるのは、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)、NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)、S-RIM(セロトニン再取り込み阻害・セロトニン受容体調節薬、例:トリンテリックス®)といった新しいタイプの抗うつ薬です。これらは古いタイプ(三環系)より比較的副作用が少なく、安全性が高いとされています。
大切なこと
- 効果が出るまでに時間がかかります: 
 薬の効果を感じるまでに、通常2〜4週間ほどかかります。焦らずに服用を続けることが大切です。
- 副作用について: 
 飲み始めに吐き気や眠気などの副作用が出ることがありますが、多くは1〜2週間で軽快します。気になる症状があれば、遠慮なく医師にご相談ください。
- 自己判断でやめないでください: 
 症状が良くなったからといって自己判断で薬をやめてしまうと、症状がぶり返す(再燃)ことがあります。医師の指示に従って、適切な期間、服用を続けることが再発予防につながります。
さらに詳しく知りたい方はこちらに進んでください 精神科の薬物療法について>>
3. 精神療法(心理療法)

ある程度エネルギーが回復してきたら、精神療法を並行して行います。これは、うつ病になりやすい考え方の癖や、対人関係のパターンを見直し、ストレスにうまく対処できるスキルを身につけるための治療です。車の運転技術を学び、燃費の良い走り方やトラブルへの対処法を身につけるようなものです。
- 認知行動療法 (CBT): 
 悲観的になりがちな考え方(認知)のパターンに気づき、より現実的で柔軟な考え方ができるようサポートします。
- 対人関係療法 (IPT): 
 対人関係のストレスに着目し、身近な人とのコミュニケーションを円滑にする方法を一緒に考えていきます。
当院では、医師による診察の中で、これらの精神療法の考え方に基づいた助言や指導を行っています。
6. 回復や再発予防について
うつ病の回復は一直線ではなく、良くなったり悪くなったりを繰り返しながら、ゆっくりと進んでいきます。焦りは禁物です。
一般的に、うつ病の治療経過は3つの時期に分けられます。
- 急性期(治療開始〜3ヶ月):
 まずは十分な休養をとり、薬物療法でつらい症状を和らげることに集中する時期です。焦らず、ゆっくり休みましょう。
- 回復期(継続期)(4ヶ月〜1年):
 症状が安定し、少しずつ活動を再開していく時期です。症状が良くなっても、脳の機能が完全に回復するには時間がかかります。自己判断で薬をやめたり、急に元の生活に戻ったりすると再発のリスクが高まります。医師と相談しながら、徐々にペースを上げていきましょう。
- 維持期(再発予防期)(1年以上):
 症状がなくなり、安定した状態を維持する時期です。うつ病は再発しやすい病気であり、初発でも約50%が再発すると言われています。再発を防ぐために、医師の指示通りに薬の服用を続けること(維持療法)が非常に重要です。また、ストレスへの対処法を身につけ、生活習慣を整えることも再発予防につながります。

7. 患者さんへの接し方
ご本人にとって、周りの人のサポートは回復のための大きな力になります。しかし、どう接すれば良いか戸惑うことも多いでしょう。ここでは、ご家族や職場の方に知っておいていただきたい接し方のポイントを、具体的な言葉かけと共に解説します。
基本的な心構え:「焦らせず、責めず、温かく見守る」
- 病気を理解する: 
 うつ病は本人の「気の持ちよう」や「甘え」ではなく、「脳の病気」であることを理解してください。
- 安心できる環境を作る: 
 ご本人が安心して休めるように、「何もしなくてもいいんだよ」というメッセージを伝え、プレッシャーを与えない環境を整えましょう。
- 話に耳を傾ける: 
 無理に聞き出す必要はありませんが、ご本人が話したいときには、結論を出したりアドバイスをしたりせず、ただ黙って耳を傾けてあげてください。「つらいね」「大変だったね」と気持ちを受け止めるだけで、ご本人の安心につながります。

【これはNG!】避けるべき対応と、その理由
| NGな対応 | なぜNGなのか | OKな対応・言葉かけの例 | 
| 「がんばれ」と励ます | ご本人はすでに限界までがんばってエネルギーを使い果たしています。 「これ以上がんばれない」と自分を責め、追い詰めてしまいます。 | 寄り添い、見守る 「十分がんばったね。今はゆっくり休んでいいんだよ」 「何も心配しなくていいからね」 | 
| 気晴らしに誘う | うつ病のときは、楽しむためのエネルギーも枯渇しています。 誘いに乗れないことで罪悪感を感じたり、無理に応じることでかえって疲弊させてしまいます。 | 本人のペースを尊重する 「何かしてほしいことはある?」 「気分が向いたら、また声をかけてね」 | 
| 原因を追及したり、責めたりする | 「なぜそうなったの?」「あなたの考え方が悪い」といった言葉は、ご本人を深く傷つけ、罪悪感を強めるだけです。 | ありのままを受け入れる 「今はつらいよね。一人で抱え込まないでね」 | 
| 重大な決断を急かす・本人に任せる | 悲観的な思考に陥っているため、正常な判断ができません。 この時期の退職、離婚、大きな買い物などの決断は、後で後悔することがほとんどです。 | 決断を先延ばしにする 「その大事な話は、元気になってからもう一度一緒に考えよう」 「今は結論を出さなくて大丈夫だよ」 | 
【職場での対応】同僚としてできること
- プライバシーを守る: 
 本人の許可なく、病状について他の同僚に話したり、噂したりするのは厳禁です。
- 特別扱いしすぎない: 
 過度な同情や腫れ物に触るような態度は、かえって本人を居心地悪くさせます。まずは「何か手伝えることはありますか?」と声をかけ、本人の意向を確認しましょう。
- 仕事の調整は上司と相談: 
 仕事量の調整などは、本人と上司を交えて話し合うのが基本です。同僚だけで判断せず、チームとしてサポート体制を築きましょう。
- 安心して休める雰囲気を作る: 
 「仕事のことは心配しないで、治療に専念してください」と伝え、温かく見守る姿勢が本人の安心につながります。

8. 当院でできること
神楽坂メンタルクリニックでは、うつ病で悩む患者さんとそのご家族に寄り添い、回復への道のりをサポートします。
- 専門医による丁寧な診察: 
 患者さんのお話をじっくり伺い、一人ひとりの状態に合わせた最適な治療方針を一緒に考えていきます。
- 薬物療法: 
 最新のガイドラインに基づき、副作用に配慮しながら、必要最小限の薬で最大の効果が得られるよう調整します。
- 医師による助言と指導: 
 診察の中で、精神療法の知見に基づき、ストレスへの対処法や考え方の工夫について具体的なアドバイスを行います。
- 環境調整のサポート: 
 安心して療養できるよう、必要に応じて診断書を作成し、休職などの手続きをサポートします。
- ご家族からの相談: 
 患者さんご本人だけでなく、ご家族からのご相談にも応じています。どう接すれば良いか、どんなサポートができるかなど、お気軽にご相談ください。
※現在、当院では臨床心理士によるカウンセリングは準備中です。準備が整い次第、ホームページでお知らせいたします。
心の不調は、誰にでも起こりうることです。一人で、またご家族だけで抱え込まず、ぜひ一度、神楽坂メンタルクリニックにご相談ください。

さらに詳しく知りたい方は進んでください。ただし専門医レベルの難しい内容を含みます。
1
2 
 
 
 
