不安症は、過剰でコントロール困難な不安が続く病気です。突然のパニック発作(パニック症)、人前での強い恐怖(社交不安症)、絶え間ない心配(全般不安症)などがあります。
危険がないのに「警報」が鳴り続ける、心の病気
 
- 突然の激しい動悸・息苦しさ
- 人から見られることへの強い恐怖
- コントロールできない過剰な心配
- 落ち着きのなさ・緊張感
- 特定の状況や場所を避ける
- 筋肉のこわばり・不眠
- 疲れやすい・集中できない
- めまい・震え・発汗
1. 不安症(不安障害)とは?
不安は、危険を知らせて私たちを守ってくれる、大切な心の働きです。試験の前に緊張したり、暗い夜道を一人で歩くときに警戒したりするのは、ごく自然な反応です。
しかし、この「警報システム」が誤作動を起こし、実際には危険がない場面でも過剰に鳴り響き、その不安や恐怖を自分でコントロールできなくなってしまうことがあります。そして、その不安のために学校や仕事に行けなくなったり、友人と会うのをやめてしまったりと、日常生活に大きな支障が出てしまう状態、それが不安症(不安障害)です。
不安症は、単なる「心配性」や「気の弱さ」といった性格の問題ではなく、脳の機能的な問題が関係している病気です。かつては「神経症」という言葉で一括りにされていましたが、現在では、症状の特徴によっていくつかの種類に分けられています。
このページでは、代表的な3つの不安症、「パニック症」「社交不安症」「全般不安症」について、それぞれの違いと共通点をわかりやすく解説していきます。

2. 主な症状:3つの不安症、どう違う?
不安症は、種類によって不安の対象や現れ方が異なります。
パニック症(パニック障害)の特徴
「理由なき恐怖の発作」が特徴です。何の前触れもなく、突然、死んでしまうのではないかと思うほどの激しい恐怖(パニック発作)に襲われます。一度経験すると、「また発作が起きたらどうしよう」という強い不安(予期不安)に常に苛まれ、発作が起きた場所や逃げられない場所(電車、人混みなど)を避ける(広場恐怖)ようになります。
社交不安症(社交不安障害)の特徴
「他者からのネガティブな評価」に対する強い恐怖が特徴です。人前で話したり、注目を浴びたりする場面で、「恥をかくのではないか」「変に思われるのではないか」と過剰に心配し、動悸や赤面、声の震えといった症状が現れます。そのため、会議での発言や人との雑談など、社交的な場面を苦痛に感じ、避けるようになります。
全般不安症(全般不安障害)の特徴
「コントロール不能な、広範囲にわたる心配」が特徴です。仕事、健康、家族、経済状況など、日常生活の様々なことについて、次から次へと過剰な心配が頭に浮かび、止められません。常に緊張し、落ち着かず、その結果、疲れやすさ、集中困難、肩こり、不眠といった心身の不調が慢性的に続きます。
| 疾患名 | 不安・恐怖の中心にあるもの | 主な症状 | 
| パニック症 | パニック発作そのものへの恐怖 | ・予期せぬパニック発作(動悸、息苦しさ、めまい、死の恐怖) ・予期不安(「また発作が起きたらどうしよう」) ・広場恐怖(特定の場所や状況の回避) | 
| 社交不安症 | 他者からの否定的評価への恐怖 | ・社交場面での強い不安(赤面、発汗、震え) ・「恥をかく」「笑われる」ことへの恐れ ・社交場面の回避 | 
| 全般不安症 | 様々な出来事への過剰な心配 | ・コントロール困難な、広範囲にわたる心配 ・落ち着きのなさ、筋肉の緊張、不眠 ・疲労感、集中困難 | 

3. 原因やきっかけ
不安症のはっきりとした原因は一つではありませんが、いくつかの要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
- 脳の機能:
 私たちの脳には、危険を察知する警報装置の役割を持つ「扁桃体(へんとうたい)」という部分があります。不安症の患者さんの脳では、この扁桃体を含む「恐怖サーキット」と呼ばれる神経回路(交感神経系)が過敏に働いてしまい、危険でない状況でも警報を鳴らしてしまうと考えられています。
- 遺伝的要因:
 生まれつき不安を感じやすい、デリケートな気質を受け継いでいることも、発症しやすさと関連があると言われています。
- 環境的要因:
 過労や睡眠不足、大きなストレス(転職、離別、病気など)が発症の引き金になることが少なくありません。また、幼少期のつらい体験や、人前で恥ずかしい思いをした経験などが、その後の不安症の発症につながることもあります。

4. 診断の流れ
不安症の症状、特にパニック発作のような身体症状は、心臓や甲状腺の病気、あるいは他の精神疾患でも起こることがあります。そのため、まずは内科などで血液検査や心電図などの検査を受け、身体の病気が隠れていないかを確認することが非常に重要です。
身体的な異常がないことを確認した上で、精神科や心療内科を受診します。診断は主に、医師との面接(問診)によって行われます。どのような状況で、どのくらいの強さの不安を感じるか、それはいつから続いているか、日常生活にどのような支障が出ているかなどを詳しくお伺いし、国際的な診断基準(『DSM-5-TR』など)に照らし合わせて総合的に判断します。

5. 主な治療法
不安症の治療は、「薬物療法」と「精神療法」を両輪として進めていくのが基本です。お薬で症状を和らげながら、精神療法で不安への対処法を身につけ、根本的な改善と再発予防を目指します。
薬物療法
お薬は、過剰な不安や恐怖をコントロールし、安心して日常生活や精神療法に取り組むための土台を作ります。
- SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)/ SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)/ S-RIM(セロトニン再取り込み阻害・セロトニン受容体調節薬、例:トリンテリックス®:
 現在の不安症治療の第一選択薬です。これらは日本では抗うつ薬に分類されていますが、米国では「SSRIは不安の薬」として通っています。脳内の神経伝達物質(セロトニンなど)のバランスを整えることで、不安や気分の落ち込みを根本から改善します。効果を実感できるまでに2〜4週間ほどかかりますが、依存性がなく、長期間安心して使用できるのが特徴です。
- ベンゾジアゼピン系抗不安薬:
 強い不安やパニック発作を速やかに抑える即効性があります。SSRIの効果が出るまでの間の補助としてや、どうしても避けられない場面での頓服薬として使われます。ただし、長期間使用すると依存性が生じる可能性があるため、医師の指示のもとで計画的に使用することが大切です。
さらに詳しく知りたい方はこちらに進んでください 精神科の薬物療法について>>

不安症の認知行動療法(CBT):不安と上手に付き合うスキルを学ぶ
認知行動療法(CBT)は、不安症の悪循環を断ち切るために、科学的に効果が証明されている精神療法です。お薬だけに頼るのではなく、自分自身の力で不安に対処できるスキルを身につけることを目指します。
CBTでは、私たちの「認知(考え方や物事の捉え方)」が「感情」や「行動」に影響を与えていると考えます。不安症の方は、特定の状況に対して悲観的・破局的な考え(認知)が自動的に浮かびやすく、それが強い不安(感情)を引き起こし、その場を避ける(行動)という悪循環に陥っています。CBTでは、この悪循環のパターンに気づき、修正していく練習を行います。
CBTの主な技法
- 心理教育:
 まず、自分の病気がどのようなメカニズムで起こり、なぜ維持されているのかを正しく理解します。「自分の性格のせいではなかった」「この症状は危険ではない」と知るだけで、不安は大きく和らぎます。
- 認知再構成法:
 不安な状況で自動的に浮かんでくる、偏った考え(自動思考)を見つけ出し、それが本当に現実的なのかを客観的に検証します。そして、より現実的でバランスの取れた考え方ができるように練習します。
- 曝露(ばくろ)療法:
 これまで避けてきた状況や感覚に、あえて少しずつ直面することで、不安に慣れていく治療法です。「避ければ避けるほど不安は強くなる」という法則を断ち切り、「案外大丈夫だった」という成功体験を積み重ねて自信を取り戻すことが目的です。

疾患ごとのCBTの具体例
CBTの基本的な考え方は共通ですが、不安症の種類によってアプローチの重点が異なります。
【パニック症のCBT】
–身体感覚への「誤解」を解く–
- 理由:
 パニック症の悪循環は、「動悸がする→心臓発作かもしれない→死んでしまう!」というように、身体の感覚を破局的に解釈(誤解)することから始まります。
- 具体例:
- 認知再構成:
 「この動悸は、不安からくる自然な身体反応だ。心臓の病気ではないし、必ず数分で治まる」と考えられるように練習します。
- 曝露療法(内的感覚曝露):
 安全な治療室内で、あえてパニック発作に似た身体感覚を作り出します。例えば、その場でぐるぐる回ってめまいを起こしたり、ストローで呼吸して息苦しさを感じたりします。これを繰り返すことで、「動悸やめまいといった感覚そのものは、危険ではない」ということを体で学びます。その後、避けていた電車に乗るなどの状況曝露に進みます。
 
- 認知再構成:
【社交不安症のCBT】
–他人の目から「自分自身」に注意を戻す–
- 理由:
 社交不安症の人は、人前に出ると「皆が自分を評価している」と感じ、自分の赤面や声の震えといった内的な感覚に過剰に注意が向いて(自己注目)しまいます。この自己注目が、かえって症状を悪化させています。
- 具体例:
- 認知再構成:
 「会議で変なことを言ったら、みんなにバカにされる」という考えに対し、「本当にそうだろうか?他の人が少し言い間違えても、自分はバカにしたりしない。むしろ、発言したこと自体は前向きなことだ」と多角的に考え直します。
- 曝露療法(行動実験):
 不安が少ない場面から挑戦します。例えば、「コンビニの店員に道を聞く」という実験をします。その際、「相手の目の色を確認する」のように、注意を自分の内側から外側(相手や周囲の状況)に向ける練習をします。また、ビデオフィードバックを使って、自分が思っているほど不自然に見えていないことを客観的に確認することも有効です。
 
- 認知再構成:
【全般不安症のCBT】
–「心配」そのものと向き合う–
- 理由:
 全般不安症の人は、「心配していれば最悪の事態は避けられる」という心配への肯定的な信念を持っていたり、物事の不確かさに耐えられなかったり(不確実性への不耐)することが、心配が止まらない原因となっています。
- 具体例:
- 認知再構成:
 「心配することにメリットはあるか?デメリットは何か?」を検討し、「心配しても結果は変わらないし、むしろ今を楽しめなくなって疲れるだけだ」という現実に気づく手助けをします。
- 曝露療法(心配タイムの設定):
 1日のうち、決まった時間(例:夜7時から15分間)だけ、意図的に心配するための時間(心配タイム)を設けます。それ以外の時間に心配事が浮かんできたら、「今は考えない。心配タイムに考えよう」と先延ばしにする練習をします。これにより、四六時中心配に振り回される状態から抜け出し、心配をコントロールする感覚を身につけます。
 
- 認知再構成:
6. 回復や再発予防について
不安症は、適切な治療を受ければ必ず改善する病気です。治療によって、これまで不安でできなかったことができるようになり、自分らしい生活を取り戻すことが可能です。
しかし、症状が良くなったからといって、自己判断で薬をやめたり治療を中断したりすると、再発しやすいことが知られています。症状が安定した後も、医師と相談しながら、しばらくは治療を続けることが大切です。また、日常生活では、過労や睡眠不足を避け、ストレスを上手に発散する方法を見つけておくことが、再発予防につながります。

7. 患者さんへの接し方
ご本人にとって、周囲の人の理解とサポートは何よりの力になります。
- 病気を正しく理解し、責めない:
 「気の持ちよう」「甘え」といった誤解は、ご本人を深く傷つけます。ご本人が強い不安と闘っていることを理解し、「つらいね」と共感する姿勢が大切です。
- 焦らせない、無理強いしない:
 「しっかりしろ」「なぜできないの?」といった叱咤激励は逆効果です。ご本人のペースを尊重し、小さな一歩(スモールステップ)を温かく見守り、できたことを一緒に喜んであげてください。
- 具体的な対応を知る
- パニック発作が起きたら:
 「大丈夫、そばにいるよ」「これはパニック発作で、命に別状はないよ」と、落ち着いて安心できる言葉をかけ、静かな場所で休ませてあげてください。
- 社交不安の人がいたら:
 無理に社交の場に引っ張り出さず、本人が参加できそうな小規模な集まりから誘うなど、スモールステップを応援してあげてください。
- 全般不安症の人の心配を聞いたら:
 「そんなこと心配しても仕方ない」と突き放さず、「色々なことが心配になるんだね」と一度受け止めた上で、「今できることは何かな?」と一緒に考える姿勢を見せると、ご本人の安心につながります。
 
- パニック発作が起きたら:
- 専門家への相談を勧める:
 ご本人が一人で悩んでいる場合は、精神科や心療内科への受診を優しく勧めてみてください。

8. 当院でできること
神楽坂メンタルクリニックでは、不安症に悩む方が安心して自分らしい生活を取り戻せるよう、専門的なサポートを提供しています。
- 専門医による丁寧な診断と治療計画:
 不安症の臨床経験が豊富な精神科専門医が、患者さん一人ひとりのお話をじっくりお伺いし、的確な診断に基づき、薬物療法と精神療法を組み合わせた最適な治療計画を一緒に立てていきます。
- エビデンスに基づいた薬物療法:
 SSRI/SNRIを基本とし、お薬の効果や副作用について十分に説明し、ご納得いただいた上で、必要最小限の処方を心がけます。
- 医師による認知行動療法的アプローチ:
 認知行動療法の考えに基づき、不安を維持させている考え方や行動のパターンを見直し、不安と上手に付き合っていくための具体的なスキルを、医師が丁寧に指導・助言します。
 ※現在、当院での心理士によるカウンセリングは準備中です。

過剰な不安や恐怖、心配に振り回され、日常生活にお困りの方は、どうぞ一人で抱え込まず、お気軽に当院にご相談ください。
さらに詳しく知りたい方は進んでください。ただし専門医レベルの難しい内容を含みます。
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