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パーソナリティ障害

嵐のような感情の波を乗り越える

境界性パーソナリティ障害は、感情や対人関係が極端に不安定になり、自分をコントロールできない感覚に苦しむ疾患です。見捨てられることへの強い不安が根底にあり、必死に他者とのつながりを求めますが、その不安定さから関係が壊れがちになります。適切な治療で感情の波を乗りこなし、穏やかな生活を取り戻すことは可能です。

  • 激しい感情の波
  • 不安定な対人関係
  • 見捨てられることへの強い不安
  • 自分という感覚がわからない
  • 衝動的で危険な行動
  • 繰り返す自傷行為や自殺のそぶり
  • 慢性的な空虚感
  • 激しい怒りの爆発

「いつも人間関係が長続きしない」 「ささいなことで感情が爆発してしまう」 「自分でも自分がわからなくなり、消えてしまいたいほどつらい」 「見捨てられるのが怖くて、相手にしがみついてしまう」

このようなことでお悩みではありませんか?もし、こうした感情や行動の波に長年苦しめられ、ご自身でのコントロールが難しいと感じているのなら、それは境界性パーソナリティ障害(BPD)という疾患が原因かもしれません。

境界性パーソナリティ障害は、決して「性格が悪い」とか「わがまま」というわけではなく、治療によって改善が可能な精神疾患です。感情のコントロールが非常に難しく、対人関係、自己イメージが極端に不安定になることを特徴とします。その不安定さは、まるで“心のやけど”を負っているかのように、あらゆる刺激に過敏に反応し、激しい痛みを伴います。

このページでは、まず患者さんやご家族向けに、この疾患の本質を理解し、希望をもって治療に取り組んでいただけるよう、具体的な例え話を交えながら優しく解説します。その後、より専門的な知識を求める方のために、国内外のガイドラインや最新の研究に基づいた詳細な医学的解説を記載します。

底なし沼

こころに「皮膚」がない状態

境界性パーソナリティ障害の患者さんの状態を例えるなら、「こころに皮膚がない」状態に近いかもしれません。健康なこころには、ある程度の外部からの刺激や、自分の中から湧き上がる感情の波をやわらげる「皮膚」のようなバリア機能があります。しかし、BPDの患者さんは、この皮膚が極端に薄いか、あるいは剥がれてしまっているため、些細な出来事や他人の言動が、まるで生の傷口に塩を塗られるような激痛となって感じられます。

例えば、友人からの返信が少し遅れただけで、「嫌われたんだ」「もう見捨てられるんだ」という耐えがたい恐怖と絶望に襲われます。この激しい苦痛から逃れるために、相手を激しく問い詰めたり、自分を傷つけたりといった、極端な行動に出てしまうのです。これは本人のわがままではなく、耐えがたい苦痛に対する必死の防衛反応なのです。

「見捨てられ不安」という根源的な恐怖

この疾患の根底には、「人から見捨てられることへの耐えがたい不安」があります。患者さんは常に「自分は価値がなく、いつか一人になってしまう」という恐怖を抱えています。そのため、大切な人との関係を失うことを極度に恐れ、相手にしがみついたり、試し行為を繰り返したりします。しかし、その必死さがかえって相手を疲れさせてしまい、結果的に関係が壊れ、見捨てられ不安が現実のものとなってしまうという悪循環に陥りがちです。

白か黒か、天使か悪魔か

BPDの患者さんの世界は、白か黒か、0か100かといった二極論的な思考に支配されがちです。対人関係においても、相手を「完璧な理想の人物(天使)」として崇めるか、少しでも期待を裏切られると「最低最悪の人間(悪魔)」とこき下ろすか、両極端を揺れ動きます。この極端な評価の変動が、人間関係をさらに不安定なものにしてしまいます。

BPDのイメージ

BPDの症状は多岐にわたりますが、DSM-5-TR(精神疾患の診断・統計マニュアル)では、以下の9つのうち5つ以上が当てはまる場合に診断されるとされています。

症状具体的な説明
見捨てられ不安現実に、あるいは想像の中で見捨てられることを避けようとする常軌を逸した努力をします。
LINEの返信が少しないだけでパニックになります。
不安定で激しい対人関係相手を理想化し、素晴らしいと思う時期と、こき下ろし、最低な人間だと思う時期とを両極端に揺れ動きます。
同一性障害(自分がわからない)「自分とは何者か」という感覚が不安定です。
目標や価値観、友人のタイプや性的指向までがころころと変わることがあります。
衝動性浪費、無謀な運転、危険な性行為、万引き、過食など、自分を傷つける可能性のある衝動的な行動が2つ以上の領域で見られます。
自傷行為・自殺のそぶり自殺のそぶりや脅し、リストカットなどの自傷行為を繰り返します。
これは周囲を操作するためではなく、耐え難い苦痛を和らげるための行為であることが多いです。
感情の不安定さ気分が数時間でころころと変わり、幸福感、絶望感、怒りなどを激しく揺れ動きます。
ささいなことで数時間から数日、激しい不快な気分が続きます。
慢性的な空虚感「こころにぽっかり穴が開いたようだ」と感じ、常に虚しさを抱えています。
不適切で激しい怒り些細なきっかけで激しい怒りを爆発させたり、それをコントロールすることが困難です。
一過性の妄想・解離症状強いストレス下で、「誰かに悪口を言われている」といった被害的な考え(妄想)や、自分が自分でないような感覚(解離症状)が現れることがあります。
統合失調症のイメージ

BPDの原因は一つではなく、生物学的な要因(生まれ持った感情の敏感さなど)と、環境的な要因(幼少期の体験など)が複雑に絡み合って発症すると考えられています。

  1. 生物学的要因:
    もともと感情が敏感で、ストレスに対して脳が過剰に反応しやすい気質的な脆弱性が指摘されています。これは遺伝的な要素も関わると考えられています。
  2. 環境的要因:
    BPDの患者さんの多くが、幼少期に慢性的なトラウマ体験を抱えていることが報告されています。これには、身体的・性的虐待、ネグレクト(育児放棄)だけでなく、「お前はダメな子だ」と繰り返し言われ続けるといった心理的虐待や、感情を表現しても親から無視されたり否定されたりする「無効化される環境」も含まれます。このような環境では、子どもは自分の感情を信じられなくなり、感情をコントロールする方法を学べずに成長してしまいます。
トラウマ

これらの要因が組み合わさることで、思春期から成人期早期にかけて、対人関係のつまずきなどをきっかけに発症することが多いとされています。

BPDの診断は、問診が中心となります。医師が患者さんの現在の症状や、これまでの生育歴、人間関係のパターンなどを詳しくお伺いし、DSM-5-TRなどの診断基準に照らし合わせて慎重に行います。

BPDは、双極性障害発達障害(特にASDやADHD)複雑性PTSDなど、他の精神疾患と症状が似ている部分が多く、鑑別が非常に重要です。

鑑別が必要な疾患似ている点違う点
双極性障害気分の波がある点BPDの気分変動は数時間~数日単位で起こるのに対し、双極性障害は数週間~数か月単位のことが多いです。
発達障害(ASD/ADHD)衝動性、感情のコントロール困難、対人関係の苦手さBPDの不安定さは「見捨てられ不安」に根差すことが多いのに対し、ASDでは対人関係への関心の薄さやこだわりの強さ、ADHDでは不注意や多動性が背景にあります。
複雑性PTSD慢性的なトラウマ体験、感情調節困難、否定的自己イメージBPDに特徴的な「見捨てられ不安」や「理想化とこき下ろし」は、複雑性PTSDでは前景に出にくいとされます。

これらの疾患が併存していることも少なくないため、専門医による丁寧な見立てが不可欠です。

BPDの治療の根幹は、薬物療法ではなく精神療法(カウンセリング)です。薬物療法は、あくまで激しい感情の波や衝動性を抑えるための補助的な役割として用いられます。

精神療法

BPDの治療には、その特性に合わせて開発された専門的な精神療法が有効です。

  1. 弁証法的行動療法(DBT):
    BPD治療のために開発された、最もエビデンスのある治療法の一つです。感情の波に乗りこなすための具体的なスキル(マインドフルネス、苦悩耐性など)をトレーニングし、「あるがままを受け入れること」と「変化していくこと」のバランスを取ることを目指します。
  2. メンタライゼーションに基づく治療(MBT):
    自分や他人の言動の背景にある「こころの状態」を想像する力(メンタライゼーション)を高める治療法です。これを養うことで、対人関係における誤解やすれ違いを減らします。

その他にも、スキーマ療法や転移焦点化精神療法など、効果が実証されている治療法があります。

カウンセリング

薬物療法

BPD自体を治す薬はありませんが、症状を和らげるために以下の薬が使われることがあります。

  1. 非定型抗精神病薬:
    衝動性や攻撃性、認知の歪みなどを抑える目的で少量用いられます。
  2. 気分安定薬:
    感情の波を穏やかにする効果が期待されます。
  3. 抗うつ薬(SSRIなど):
    併存するうつ病や不安障害に対して用いられますが、気分の波をかえって助長することもあり、使用には注意が必要です。

ベンゾジアゼピン系の抗不安薬は、衝動性を高める(脱抑制)リスクがあるため、原則として使用は控えるべきとされています。

薬の説明

 さらに詳しく知りたい方はこちらに進んでください 精神科の薬物療法について>>

BPDはかつて「治療が難しい」とされていましたが、DBTなどの有効な治療法の登場により、「治る」疾患と考えられるようになりました。多くの患者さんは、30代から40代にかけて症状が落ち着き、安定した生活を送れるようになると報告されています。

回復のために最も大切なのは、信頼できる治療者との間で安定した治療関係を築き、治療を継続することです。症状が良くなったり悪くなったりを繰り返しながら、少しずつ感情のコントロールや対人関係のスキルを身につけていくことが、回復への道のりです。

再発予防のためには、治療で身につけたスキルを日常生活で実践し続けること、そしてストレスのかかる状況を予測し、早めに対処することが重要です。また、安定したパートナーや友人など、安心できる人間関係を築くことも、大きな支えとなります。

回復イメージ2

ご家族や職場の方々にとって、BPDの患者さんへの対応は非常に難しく、混乱し、疲れ果ててしまうことも少なくないでしょう。しかし、周囲の適切な関わりが、患者さんの回復を大きく後押しします。ここでは、具体的な接し方のポイントを「理由」と共に解説します。

【基本姿勢】「病気」への理解と「共感」

  1. 行動の背景にある「苦痛」を理解する
    理由: 患者さんの極端な言動は、あなたを困らせるためではなく、本人が耐え難いほどの「こころの痛み」や「見捨てられ不安」から逃れるための必死の行動です。この苦痛を理解しようとすることが、対応の第一歩です。
  2. 感情に寄り添い、共感的に耳を傾ける
    理由: 患者さんは、自分の感情を「無効化」されてきた経験から、自分の感情に自信が持てません。「そんなことで怒るなんておかしい」と否定せず、「そう感じたんだね」「それはつらかったね」と、まず感情そのものを受け止めることで、安心感を与え、感情の爆発を防ぎます。
手を差し伸べる

【やってはいけない対応とその理由】

やってはいけない対応なぜダメなのか?
感情的に言い返す・批判する患者さんの激しい感情の波に巻き込まれ、感情で返すと、火に油を注ぐだけです。
患者さんは「やっぱり自分はダメなんだ」と自己否定を強め、さらに不安定になります。
突き放す・見捨てるそぶりを見せる「勝手にすれば」「もう知らない」といった態度は、患者さんの最も恐れている「見捨てられ不安」を刺激し、
パニックや自傷行為などの危険な行動を引き起こす可能性があります。
良し悪しで説教する・正論を振りかざす患者さんは感情の嵐の中にいるため、冷静な正論は届きません。
むしろ「自分の気持ちを分かってくれない」と反発を強めるだけです。
自殺のそぶりを「演技だ」と無視するBPDの患者さんの自殺企図の既遂率は約10%と非常に高く、決して軽視できません。
「どうせ死なない」という態度は非常に危険です。

【推奨される対応と具体例】

推奨される対応具体的な言葉かけ・行動の例理由
冷静に、穏やかに、しかし毅然と対応する「大声で話されると、私もつらくて話が聞けないから、少し落ち着いて話してほしい」パニックにならず、冷静な態度を保つことで、患者さんが我に返るきっかけになります。
要求を飲む・飲まないに関わらず、態度は一貫させることが重要です。
限界を明確に、かつ一貫して伝える(境界線を引く)「夜中の電話は出られないけれど、明日の朝9時になったら必ず話を聞くからね」無制限に要求に応えると、お互いが疲弊し関係が壊れます。
「できないこと」を伝えつつ、「でも、あなたのことを見捨てはしない」というメッセージを添えることで、
安心できる関係の枠組みを作ります。
感情ではなく、「事実」や「行動」に焦点を当てる「あなたが私を嫌っていると感じる」→「あなたが私に怒鳴ったという事実について話したい」感情のぶつけ合いを避け、具体的な問題解決に繋げることができます。
良い行動を具体的に褒め、肯定的な側面に光を当てる「今日は感情的にならずに、冷静に話してくれてありがとう。すごく助かったよ」小さな成功体験を積み重ね、肯定的なフィードバックを与えることで、自己肯定感を育み、適切な行動を強化します。
一貫したサポートと「見捨てない」というメッセージを伝え続ける「色々あるけど、私はあなたの味方だよ」「一緒に治療を頑張ろう」患者さんが最も必要としているのは、何があっても見放されないという安心感です。
このメッセージを伝え続けることが、回復への一番の土台となります。

家族会やサポートグループへの参加

ご家族だけで悩みを抱え込むのは非常につらいことです。同じ悩みを持つ他の家族と繋がり、情報交換や支援を受けられる家族会の利用も有効です。

自助会のミーティング

当院では、境界性パーソナリティ障害の患者さんとご家族に対し、以下のサポートを提供しています。

  • 専門医による診断と治療:
    精神科専門医が、他の疾患との鑑別も含めて正確な診断を行い、患者さん一人ひとりに合った治療計画を立てます。薬物療法については、その必要性を慎重に見極め、副作用にも配慮しながら最小限の処方を行います。
  • 医師による助言と指導:
    BPDの治療経験のある医師が、精神療法的なアプローチに基づき、患者さんが自身の感情や行動パターンを理解し、より良い対処法を身につけられるよう、具体的な助言や指導を行います。
  • ご家族へのサポート:
    ご家族の悩みをお伺いし、患者さんへの適切な接し方について具体的なアドバイスを提供します。ご家族が疲弊しないよう、精神的なサポートも行います。
  • 各種制度の利用支援:
    症状により就労や日常生活に支障がある場合、自立支援医療や障害年金、精神障害者保健福祉手帳などの社会資源の活用について、情報提供や助言を行います。

(現在、臨床心理士による専門的なカウンセリングや精神療法の提供は準備中です。ご希望の方には、地域の適切な専門機関をご紹介いたします。)

希望の手

さらに詳しく知りたい方は進んでください。ただし専門医レベルの難しい内容を含みます。

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