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ギャンブル障害

自分の意志ではコントロールできない「心の病」

ギャンブルやインターネットゲームが「やめたくてもやめられない」状態になっていませんか?これは意思の弱さではなく、治療が必要な病気です。当院では回復への具体的な道のりを一緒に考えます。

  • コントロールを失い、やめられない
  • 日常生活よりゲームを優先する
  • 問題が起きても続けてしまう
  • 以前より多くの時間やお金を費やす
  • しないと落ち着かない、イライラする
  • 嘘をついて隠そうとする

嗜癖行動症は、DSM-5-TRでは「物質関連障害および嗜癖性障害群」の中に位置づけられ、ギャンブル行動症(Gambling Disorder)が唯一正式な疾患単位として収載されている。これは、ギャンブル行動症の臨床像、病態生理、合併症、治療反応性などが物質使用障害と多くの共通点を有することがエビデンスとして蓄積されたためである。一方、インターネットゲーム行動症(Internet Gaming Disorder)は、「今後の研究のための病態」セクションに収載されており、さらなる研究が推奨される病態とされている。

WHOによるICD-11では、「物質使用または嗜癖行動による障害」のカテゴリー内にギャンブル行動症(Gambling disorder)ゲーム行動症(Gaming disorder)がともに正式な疾患単位として収載されている。ICD-11におけるゲーム行動症は、オンライン・オフラインを問わず、持続的または反復的なゲーム行動パターンを特徴とする。

DSM-5-TR: ギャンブル行動症(312.31, F63.0)

臨床的に意味のある機能障害または苦痛を引き起こす、持続的かつ反復性の問題賭博行動で、過去12ヶ月間に以下のうち4つ(またはそれ以上)が示される。

  1. 興奮を得たいがために、賭け金の額を増やす要求。
  2. 賭博をするのを中断したり、または中止したりすると落ち着かなくなる、またはいらだつ。
  3. 賭博をするのを制限する、減らす、または中止するなどの努力を繰り返し成功しなかったことがある。
  4. しばしば賭博に心を奪われている(例:過去の賭博体験を再体験すること、ハンディをつけることまたは次の賭けの計画をたてること、賭博をするための金銭を得る方法を考えること、を絶えず考えている)。
  5. 苦痛の気分(例:無力感、罪悪感、不安、抑うつ)のときに、賭博をすることが多い。
  6. 賭博で金をすった後、それを取り戻そうと別の日に戻ってくることが多い(「負けを深追いする」)。
  7. 賭博へののめり込みを隠すために、嘘をつく。
  8. 賭博のために、重要な人間関係、仕事、教育、または職業上の機会を危険にさらし、または失ったことがある。
  9. 賭博によって引き起こされた絶望的な経済状況を免れるために、他人に金を出してくれるよう頼む。

(American Psychiatric Association. (2022). Diagnostic and statistical manual of mental disorders (5th ed., text rev.).より引用・要約)

ICD-11: ゲーム行動症(6C51)

持続的または反復性のゲーム行動(デジタルゲームまたはビデオゲーム)のパターンで、以下の特徴を持つ。

  1. ゲームに対するコントロールの障害(例:開始、頻度、強度、持続時間、終了、文脈)。
  2. 他の生活上の関心事や日常の活動よりもゲームを優先する程度が増加する。
  3. 否定的な結果が生じているにもかかわらず、ゲームを継続またはエスカレートさせる。

この行動パターンは、個人、家族、社会的、教育的、職業的、または他の重要な機能領域において、著しい障害を引き起こすほどの重症度である。行動パターンは、持続的な場合もあれば、一時的で反復性の場合もある。診断を下すためには、通常、少なくとも12ヶ月間の行動パターンが必要であるが、すべての診断要件が満たされ、症状が重篤な場合は、期間を短縮することができる。

(World Health Organization. (2019). International statistical classification of diseases and related health problems (11th ed.).より引用・要約)

ギャンブル行動症

  1. 国内有病率:
    2020年に実施された成人への調査によると、ギャンブル行動症が疑われる者の割合は、生涯有病率で2.2%(男性3.7%、女性0.7%)であった。これは海外の多くの国と比較して高い水準にある。
  2. 国際比較:
    世界の成人における過去1年間の有病率は0.1~5.8%と推計されている。
  3. 性差:
    生涯有病率では男性が女性の約5倍と、顕著な性差が認められる。
  4. 発症年齢:
    青年前期から若年成人期にかけて発症することが多いが、中年期以降に発症するケースも少なくない。

インターネットゲーム行動症

  1. 国内有病率:
    2019年に実施された10~29歳への調査では、ゲーム行動症が疑われる者の割合は5.1%(男性7.6%、女性2.5%)であった。
  2. 国際比較:
    世界の有病率に関する近年のメタアナリシスでは、約2~3%と報告されている。
  3. 性差:
    男性に多く、有病率は女性の約3倍と報告されている。
  4. 発症年齢:
    思春期に最も有病率が高く、その後は年齢とともに低下する傾向がある。
[ここに「国内におけるギャンブル行動症の年代別・性別有病率」の棒グラフを挿入] | 年代 | 男性生涯有病率(%) | 女性生涯有病率(%) | | :— | :— | :— | | 20-29 | 4.5 | 0.8 | | 30-39 | 5.2 | 1.0 | | 40-49 | 4.8 | 0.6 | | 50-59 | 3.5 | 0.5 | | 60- | 1.8 | 0.2 |

[ここに「国内におけるインターネットゲーム行動症の年代別・性別有病率」の棒グラフを挿入] | 年代 | 男性有病率(%) | 女性有病率(%) | | :— | :— | :— | | 10-19 | 10.5 | 3.5 | | 20-29 | 5.8 | 1.8 |

嗜癖行動症の病態生理は、物質使用障害と同様に、脳の報酬系における神経伝達物質、特にドパミン(DA)の機能異常が中心的な役割を担うと考えられている。

神経生物学的要因

  1. 報酬系の感作:
    ギャンブルやゲームによる刺激が反復されると、中脳辺縁系ドパミン作動性ニューロン(腹側被蓋野から側坐核へ投射)が感作され、行動への動機づけ(渇望)が異常に亢進する。
  2. 前頭前野機能の低下:
    報酬の予測や意思決定、衝動制御を司る前頭前野、特に眼窩前頭皮質(OFC)や背外側前頭前野(DLPFC)の機能低下が指摘されている。これにより、長期的な不利益を顧みず、目先の報酬を優先する行動(遅延割引の亢進)が生じる。
  3. セロトニン系の関与:
    衝動性や気分の調節に関与するセロトニン(5-HT)系の機能不全も示唆されており、特に衝動性の高さが嗜癖行動のリスクファクターとなると考えられる。
  4. オピオイド系の関与:
    内因性オピオイド系も報酬や快感に関与しており、ギャンブル行動症の治療薬としてオピオイド拮抗薬(ナルトレキソン等)の有効性が示唆されていることは、この系の関与を裏付ける。

心理社会的要因

  1. 認知の歪み:
    ギャンブル行動症では、「もう少しで当たりそうな感覚(ニアミス)」を過大評価する、勝つ確率を客観的データよりも高く見積もる(コントロール幻想)、負けを取り返そうとする(負の追いかけ)といった特有の認知の歪みが行動を維持・悪化させる。
  2. 学習理論:
    オペラント条件付け(報酬による行動強化)と古典的条件付け(特定の環境や刺激と渇望との連合)の両方が病態に関与する。
  3. ストレス脆弱性モデル:
    ストレス対処能力(コーピングスキル)の低さや、不安・抑うつなどの精神症状が、現実逃避的な手段として嗜癖行動を引き起こし、維持する要因となる。
  4. 社会的要因:
    嗜癖行動へのアクセスの容易さ(例:オンラインギャンブル・ゲームの普及)、孤独や社会的孤立、経済的問題なども発症・維持に関与する。

嗜癖行動症は、一般に進行性の経過をたどる。経過は大きく3つの時期に分けられる。

  1. 勝利期(Winning Phase):
    最初は楽しみとして始まり、時として大きな成功体験(大勝ち、ゲームでの高い評価)を得る。この体験が脳の報酬系を強く刺激し、行動へののめり込みを強化する。この段階では、まだ本人はコントロールできていると感じていることが多い。
  2. 損失期(Losing Phase):
    行動が生活の中心となり、費やす時間や金銭が増大する。ギャンブルでは負けが込み始め、借金をするようになる。ゲームでは昼夜逆転や社会的孤立が始まる。家族や周囲に嘘をつくようになり、人間関係が悪化するが、本人はまだ問題の深刻さを否認する傾向がある。
  3. 絶望期(Desperation Phase):
    嗜癖行動は完全にコントロールを失い、多重債務、失業、家庭崩壊、犯罪など、深刻な社会的・経済的問題に直面する。ゲーム行動症では、長期のひきこもりや家庭内暴力に至ることもある。精神的には絶望感、罪悪感、うつ状態が著しく、自殺リスクが非常に高まる。

非典型例

  1. 女性のギャンブル行動症:
    男性と比較して発症年齢が遅く、進行が速い(テレスコーピング現象)傾向がある。また、うつ病や不安症との合併が多く、ギャンブルの対象としてスロットマシンや宝くじなど、対人関係を必要としないものを好む傾向がある。
  2. 高齢者の嗜癖行動:
    退職後の時間的余裕や孤独感を背景に発症することがある。認知機能の低下が衝動制御の困難さにつながる場合もある。
  3. 発達障害との合併例:
    ADHDの衝動性やASDのこだわりが、嗜癖行動のコントロールをより困難にすることがある。治療においては、これらの特性への配慮が不可欠である。

評価尺度

  1. ギャンブル行動症:
    • SOGS (South Oaks Gambling Screen): 広く用いられているスクリーニング尺度。
    • G-SAS (Gambling Symptom Assessment Scale): 日本で開発された重症度評価尺度。
  2. インターネットゲーム行動症:
    • IAT (Internet Addiction Test): インターネット依存全般に関する尺度だが、ゲームにも応用される。
    • IGDS-SF9 (Internet Gaming Disorder Scale–Short-Form): DSM-5の診断基準案に基づいた9項目の尺度。

鑑別診断

  1. 躁病エピソード/軽躁病エピソード:
    双極性障害の躁状態では、判断力の低下から過剰な浪費やギャンブル、ゲームへの没頭が見られることがある。気分の高揚、活動性の亢進、睡眠欲求の減少などの症状を確認し鑑別する。
  2. 物質使用障害:
    嗜癖行動症は物質使用障害との合併率が非常に高い。両者の症状が重複することもあるため、詳細な聴取が必要である。
  3. 強迫症(OCD):
    強迫行為としての儀式的行動と嗜癖行動との鑑別が必要。嗜癖行動は快感を伴うことが多いのに対し、強迫行為は不安の軽減を目的とし、快感を伴わない点で異なる。
  4. パーソナリティ障害:
    衝動性や不安定な対人関係を特徴とする境界性パーソナリティ障害などでは、嗜癖行動が問題となることがある。パーソナリティの包括的な評価が重要となる。
  5. 非嗜癖的な過度の使用:
    職業的なプロゲーマーや、一時的なストレス状況下での過度の使用など、臨床的に意味のある苦痛や機能障害を伴わない場合は、診断には至らない。

嗜癖行動症の診断を確定するための特異的な生物学的マーカーは存在しない。検査は、主に合併症の評価や鑑別診断のために行われる。

  1. 心理検査:
    • 知能検査(WAIS-IVなど): 認知機能の全体的な水準を評価し、発達障害の可能性などを検討する。
    • パーソナリティ検査(MMPI, YG性格検査など): パーソナリティ特性や精神病理を評価し、治療計画の立案に役立てる。
    • 神経心理学的検査(遂行機能検査:WCST, TMTなど): 前頭葉機能、特に意思決定や衝動制御の能力を評価する。
  2. 画像検査:
    • 脳MRI/CT: 脳の器質的疾患を除外するために行う。研究レベルでは、fMRIやPETを用いて、報酬系や前頭前野の機能異常に関する知見が蓄積されているが、臨床診断での使用は一般的ではない。
  3. 血液検査:
    • 直接的な診断には繋がらないが、ゲームへの没頭による栄養状態の低下や、ストレスによる身体への影響などを評価するために実施することがある。

治療は、心理社会的介入を主軸とし、薬物療法を補助的に用いる。目標は、ギャンブル行動症では完全な断絶、ゲーム行動症ではコントロールされた使用である。

心理社会的介入

  1. 認知行動療法(CBT):
    最もエビデンスレベルが高い治療法。ギャンブルやゲームに関連する自動思考やスキーマを同定・修正し、渇望への対処スキル(コーピングスキル)や問題解決技法を習得する。曝露反応妨害法も有効である。
  2. 動機づけ面接法(MI):
    治療への動機が低い患者に対し、両価性(変わりたいが、変わりたくない)を探り、本人の内発的な動機を高める。
  3. 集団精神療法:
    同じ問題を抱える他者との交流を通じて、自己の体験を客観視し、新たな対処法を学ぶ。孤立感の軽減にも繋がる。
  4. 自助グループ(GAなど):
    12ステッププログラムなどに基づき、当事者同士で回復を支え合う。専門的治療と並行して参加することが強く推奨される。
  5. 家族療法・家族教育:
    家族内のコミュニケーションパターンを改善し、イネイブリング(問題行動を助長する関わり)を減らす。家族が病気を正しく理解し、適切に対応できるよう支援する。

薬物療法

  1. 嗜癖行動症自体への薬物療法:
    • 抗うつ薬(SSRI):
      衝動性や渇望の軽減を期待して使用されることがあるが、エビデンスは限定的。
    • オピオイド拮抗薬(ナルトレキソン、ナルメフェン):
      ギャンブルへの渇望や快感を抑制する効果が示唆されており、海外では使用されているが、本邦では保険適用外。
    • 気分安定薬(リチウム、バルプロ酸など):
      衝動性のコントロールを目的に使用されることがあるが、エビデンスは十分ではない。
  2. 合併精神疾患への薬物療法:
    うつ病、不安症、ADHDなどが合併している場合、それぞれの疾患に対する標準的な薬物療法を行う。合併症の改善が嗜癖行動のコントロールに寄与することが多い。

入院適応

外来治療が基本となるが、以下の場合には入院治療を検討する。

  • 自殺念慮が強く、生命の危険が差し迫っている場合。
  • 多重債務や違法行為など、行動の問題が極めて深刻で、物理的に行動を制限する必要がある場合。
  • 重篤な精神・身体合併症があり、集中的な治療が必要な場合。
  • 家庭環境が極端に悪く、治療的な環境調整が必要な場合。

嗜癖行動症は慢性的な疾患であり、再発(relapse)のリスクが高い。予後は、合併症の有無、治療への動機、ソーシャルサポートの状況などに大きく影響される。

予後不良因子

  • 重篤な精神疾患の合併(双極性障害、パーソナリティ障害など)
  • 物質使用障害の合併
  • 早期発症
  • ソーシャルサポートの欠如(家族の非協力、孤立など)
  • 経済的問題の深刻さ

機能予後

  • 治療により行動のコントロールが可能になっても、失われた社会的信用や経済的基盤、人間関係を回復するには長い時間を要する。
  • 特にギャンブル行動症では、自己破産や債務整理を経ても、経済的な困難が続くことが多い。
  • ゲーム行動症では、長期のひきこもりによる学業やキャリアの中断が、その後の社会復帰における大きな障壁となる。

再発予防

  1. 治療の継続:
    症状が改善しても、定期的な通院や自助グループへの参加を継続することが極めて重要である。
  2. HALTの認識:
    再発リスクが高い状態(Hungry, Angry, Lonely, Tired)を自覚し、セルフケアを行う。
  3. コーピングスキルの般化:
    治療で学んだストレス対処法や問題解決技法を、日常生活の様々な場面で実践する。
  4. ライフスタイルの見直し:
    嗜癖行動に代わる、健康的で満足感の得られる趣味や活動を見つける。
  5. 緊急時の行動計画:
    強い渇望が生じた際に、誰に連絡し、どのように対処するかを事前に決めておく。

再発は失敗ではなく、回復の過程の一部である。再発をきっかけに、新たな課題を発見し、治療計画を見直すことが、長期的な回復に繋がる。

最新研究動向(2020年~2025年)

  1. 神経科学的アプローチ:
    • fMRIを用いた研究では、嗜癖行動症患者において、報酬予測やリスク評価に関わる脳領域(腹側線条体、OFC)の活動異常がさらに詳細に検討されている。特に、ギャンブルの「ニアミス」刺激に対する線条体の過活動が、認知の歪みの神経基盤として注目されている。
    • 安静時機能的結合MRI(rs-fMRI)を用いた研究により、衝動制御に関わるデフォルト・モード・ネットワーク(DMN)と実行制御ネットワーク(ECN)の結合異常が報告されている。
  2. 遺伝子研究:
    • ゲノムワイド関連解析(GWAS)により、ドパミン系やセロトニン系の遺伝子多型だけでなく、神経可塑性やグルタミン酸作動性神経伝達に関わる遺伝子が、嗜癖行動への脆弱性に関与する可能性が示唆されている。
  3. 治療研究:
    • 認知バイアス修正(CBM):
      嗜癖行動に関連する注意バイアスや解釈バイアスを、コンピュータを用いたトレーニングで修正するアプローチの有効性が検討されている。
    • VR(バーチャルリアリティ)を用いた曝露療法:
      仮想現実空間で安全に渇望刺激に曝露させ、対処スキルを訓練する治療法の開発が進んでいる。
    • TMS(経頭蓋磁気刺激法):
      DLPFCなどの脳領域を非侵襲的に刺激し、渇望や衝動性を低減させる治療法の臨床試験が進行中である。
  4. テクノロジーの応用:
    • スマートフォンアプリを用いた自己モニタリングやCBT介入、ウェアラブルデバイスによる生理学的指標(心拍数など)のモニタリングが、再発予防や個別化医療に応用され始めている。KDDIと東京医科歯科大学は、スマートフォンログから行動嗜癖の病態を解明する共同研究を開始している(KDDI, 2023)。

今後の展望

  1. 病態解明:
    嗜癖行動症の多様なサブタイプの同定と、それに対応する神経生物学的基盤の解明が進むことが期待される。
  2. 個別化医療:
    遺伝子情報、脳画像データ、行動データなどに基づき、個々の患者に最適な治療法(薬物療法、心理社会的介入)を選択する個別化医療の実現が期待される。
  3. 早期介入・予防:
    発症リスクの高い個人を早期に同定し、発症前に予防的介入を行うプログラムの開発が重要な課題となる。
  4. 新たな嗜癖への対応:
    SNS、ポルノ、買い物など、新たなテクノロジーや社会の変化に伴い出現する可能性のある他の嗜癖行動症に関する研究と対策も必要となる。
項目日本精神神経学会(JSPN)ガイドライン(案)American Psychiatric Association(APA) Practice GuidelineNational Institute for Health and Care Excellence(NICE) Guideline (UK)
診断DSM-5-TR、ICD-11に準拠。
面接を重視。
DSM-5-TRに準拠。
構造化面接の使用を推奨。
ICD-11に準拠。
スクリーニングツールの活用を推奨。
第一選択治療心理社会的介入(特にCBT)。心理社会的介入(CBT、動機づけ面接)。心理社会的介入(CBT、カップル療法)。
薬物療法合併症に対して使用。
嗜癖自体への使用は慎重。
エビデンスは限定的。
ナルトレキソン、リチウム、SSRIなどを選択肢として提示するが、エビデンスレベルはCBTより低い。薬物療法は第一選択ではなく、心理社会的介入が無効または不可能な場合に専門医の判断で検討。
ナルトレキソンを条件付きで推奨。
自助グループ強く推奨。強く推奨。推奨。
治療計画の一部として位置づけ。
家族介入推奨。
家族への心理教育とサポートを重視。
推奨。
イネイブリングの問題への介入を強調。
強く推奨。
家族も支援の対象と明確化。
ゲーム行動症ICD-11に基づき治療対象とする。
コントロールされた使用を目指すアプローチを推奨。
DSM-5-TRの研究用基準として言及。
治療ガイドラインはまだ確立されていない。
ギャンブルに準じたアプローチを推奨するが、エビデンス構築が急務であると指摘。

総括

国内外のガイドラインは、いずれも嗜癖行動症の治療において心理社会的介入、特にCBTを第一選択としている点で共通している。薬物療法の位置づけは補助的であり、特に日本では適用のある薬剤がないため、その使用は合併症治療に限られることが多い。自助グループや家族介入の重要性も、すべてのガイドラインで強調されている。今後の課題として、エビデンスに基づいた治療法のさらなる普及と、ゲーム行動症を含む新たな嗜癖に対する標準的治療アプローチの確立が挙げられる。

  • American Psychiatric Association. (2022). Diagnostic and statistical manual of mental disorders (5th ed., text rev.).
  • World Health Organization. (2019). International statistical classification of diseases and related health problems (11th ed.).
  • 日本精神神経学会 (日本語版用語監修). (2023). DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル. 医学書院.
  • 永井 良三(シリーズ総監修), 笠井 清登 (編集). (2021). 精神科研修ノート第3版. 診断と治療社.
  • 井上 令一 (監修). (2017). カプラン臨床精神医学テキスト第3版. MEDSI.
  • 松崎 朝樹 (著). (2020). 精神診療プラチナマニュアル第3版. MEDSI.
  • MEDIC MEDIA (編集). (2022). こころの健康が見える第1版. MEDIC MEDIA.
  • Grant, J. E., Potenza, M. N., Weinstein, A., & Gorelick, D. A. (2010). Introduction to behavioral addictions. The American journal of drug and alcohol abuse, 36(5), 233–241. (PMID: 20560821)
  • Petry, N. M., & O’Brien, C. P. (2013). Internet gaming disorder and the DSM-5. Addiction, 108(7), 1186–1187. (PMID: 23692373)
  • Hodgins, D. C., & Stea, J. N. (2021). Gambling disorder. The Lancet Psychiatry, 8(11), 1004–1013. (PMID: 34537107)
  • Stevens, M. W. R., King, D. L., Dorstyn, D., & Delfabbro, P. H. (2021). Cognitive-behavioral therapy for Internet gaming disorder: A systematic review and meta-analysis. Clinical Psychology & Psychotherapy, 28(2), 267–285. (PMID: 32964593)
  • Kim, H. S., Son, G., & Roh, S. (2022). The neurobiological and clinical characteristics of internet gaming disorder: a systematic review. Journal of Personalized Medicine, 12(3), 481. (PMID: 35329381)
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