「様子が心配なのに、本人が病院に行こうとしない」「カウンセリングを勧めたら怒らせてしまった」――精神科の外来には、こうしたご家族からのご相談が数多く寄せられます。
この記事では、受診や相談をためらっている方を、無理なく治療・支援につなげるための考え方を整理したうえで、ご家族向けの方法として研究が積み重ねられてきたCRAFT(クラフト)の技法を、会話例を交えて具体的に解説します。
この記事の結論
・受診をためらうのは珍しいことではなく、説得の失敗ではなく支援の出発点です。
・本人を直接変えるのは難しくても、ご家族の関わり方は今日から変えられます。
・CRAFTは、責めない・対決しない関わり方で、本人が相談・受診に向かいやすい環境を家族がつくる方法です。
・暴力や命の危険があるときは、受診のすすめより安全の確保を優先します。
目次(タップで各項目へ移動します)
1. 受診をためらうのは珍しいことではありません
受診をためらう背景には、多くの場合「行きたくない理由」があり、その理由に合わせて関わり方を変えることが近道です。「変わりたい気持ち」と「変わりたくない気持ち」が同時にある状態(両価性〈りょうかせい:相反する気持ちを同時に抱えること〉)は、誰にでも起こる自然な心の動きです。
2. 最初に確認したいこと:安全と緊急度
受診をすすめる前に、まず「今すぐ助けが必要な状態かどうか」を確認します。緊急性が高い場合は、本人の同意を待たずに公的な窓口や救急を頼ってかまいません。
次のような場合は、すぐに相談・連絡を
- 「死にたい」と口にする、自分を傷つけるそぶりがある
- 家族への暴力がある、物を壊す、刃物を持ち出す
- 食事や水分がとれない、何日も眠れていない
- 現実にはない声が聞こえる様子があるなど、言動が急に大きく変わった
命の危険が差し迫っているときは119番・110番、配偶者やパートナーからの暴力はDV相談ナビ(#8008)にご相談ください。
暴言や暴力がある場合、ご家族の安全確保が最優先です。後述するCRAFTでも、安全の確認は最初のステップに位置づけられています。
3. ご本人への声かけの基本
説得で相手を言い負かそうとするより、本人の気持ちを聞き、本人の困りごとを入口にするほうが、相談につながりやすくなります。正しいことを強く言われるほど人は反発したくなる、という心理は、動機づけ面接(本人の「変わりたい気持ち」を引き出す対話法)でも重視されています。
「病名」ではなく「困りごと」を入口にする
「病気かどうか」の議論をしない
病気だと感じていない方に「病気だ」と認めさせようとすると、話は平行線になりがちです。病気の自覚が乏しい方への対話法として知られるLEAP(リープ)では、聴く・共感する・一致できる点を見つける・協力するの順で関わり、「病気かどうか」ではなく「本人の目標をかなえるために一緒に考える」立場をとります。
タイミングと「誰が伝えるか」
- 伝えるタイミング:怒っているとき・酔っているとき・疲れ切っているときは避け、本人が落ち着いているときや、困りごとを口にしたときを選びます。
- 伝える人:反発の対象になっている家族より、本人が信頼している人(別の家族、友人、かかりつけの内科医、職場の産業医など)のほうが届きやすいことがあります。
- 1回で決めない:断られても関係を保っていれば、次の機会は必ずしも遠くありません。
4. CRAFT(クラフト)とは
CRAFT(Community Reinforcement and Family Training:コミュニティ強化と家族訓練)は、治療を拒んでいる本人のご家族が、関わり方を学ぶことで本人を治療につなげることを目指すプログラムです。米国のロバート・メイヤーズ(Robert J. Meyers)らが、認知行動療法(考え方と行動のパターンに働きかける心理療法)をもとに開発しました。
もともとはアルコールや薬物の問題を抱える方のご家族向けに作られましたが、日本ではひきこもりの家族支援などにも応用されています。
CRAFTの3つの目標
従来の対応との違い
研究でわかっていること
アルコールや薬物の問題を対象とした研究では、CRAFTを学んだご家族の場合、おおむね3人に2人の割合で本人が治療につながったと報告されています。研究をまとめた分析では、家族向け自助グループへの参加を中心とする方法と比べて約3倍、家族が本人を問い詰める対決型の介入と比べて約2倍、治療につながりやすかったとされています(Roozen ほか, 2010)。
また、本人が治療につながらなかった場合でも、ご家族自身の気分の落ち込みや不安、怒りが軽くなったという報告があります。ただし、研究の多くは依存症を対象としたもので、効果には個人差があり、すべての状況に当てはまるわけではありません。
ここからの具体例について
以下では、CRAFTの技法を7つに分けて解説します。具体例は、よくあるご相談をもとに作成した架空の事例です。
【例A】飲酒の量が増え、酔うと妻に声を荒げる40代の夫と、その妻
【例B】仕事を辞めてから自室にこもりがちな20代の息子と、その母
5. 技法① 安全を守る計画を立てる
CRAFTの最初のステップは、ご家族の安全を守る計画を立てることです。怒りや暴力が強まるきっかけと前ぶれを知り、危ないと感じたときの行動を前もって決めておきます。
※身体的な暴力がくり返される場合は、CRAFTの実践より先に、専門の相談窓口で安全確保について相談してください。
6. 技法② 行動の「前後」を観察する(機能分析)
機能分析とは、問題となる行動の「きっかけ」と「その後に起こること」を観察し、その行動がなぜ続いているのかを理解する方法です。行動には、本人にとって何らかの「得」があるから続いている、と考えます。
この表から、「金曜の夜、ひとりで過ごす時間」が飲酒のきっかけであり、お酒が「ストレスを忘れる手段」になっていることが見えてきます。そこで、次のような工夫が考えられます。
- 金曜の夜に、夫が好きな外食や散歩の予定を一緒に入れる
- 仕事のストレスを話せる時間を、お酒抜きでつくる
- 「長い目で見て失うもの」は、本人が後悔を口にしたときに話題にする材料としてとっておく
例B(息子のひきこもり)の場合
きっかけ:日中、家族が仕事に出て家にひとりになる/行動:昼過ぎまで寝て、夜通しゲームをする/すぐに得られるもの:将来の不安を考えずにすむ/長い目で見て失うもの:生活リズムの乱れ、人と話す機会がなくなる
→ 不安から目をそらすための行動だと理解できると、「怠けている」と責める気持ちが和らぎ、関わり方を変えやすくなります。
7. 技法③ 伝わりやすい話し方に変える
同じ内容でも、伝え方を変えるだけで相手の受け取り方は大きく変わります。CRAFTでは、次の7つのポイントを意識した「ポジティブ・コミュニケーション」を練習します。すべてを一度に使う必要はありません。
会話例(例A:飲酒の翌朝、落ち着いているときに)
✕妻「また飲んでたでしょ。いいかげんにしてよ。だからあなたはダメなのよ。」
→ 責める・決めつける・人格を否定する言い方は、反発や言い訳を生みやすくなります。
○妻「仕事が大変なのは分かってる(⑤)。昨日みたいに大きな声を出されると、私は怖くなってしまう(④)。私も責めるような言い方をしてきたと思う(⑥)。今度の土曜日、2人でお昼を食べに行かない?(②③)」
会話例(例B:息子が夕方リビングに来たときに)
✕母「いつまで部屋にこもってるの。もういい年なんだから、早く仕事を探しなさい。」
○母「顔が見られてうれしい。夕飯はカレーにしたけど、一緒に食べる?」
→ まずは「話しかけても責められない」という安心感を積み重ねることが、後の相談の提案につながります。
8. 技法④ 望ましい行動にごほうびを返す
本人の望ましい行動に、本人がうれしいと感じる反応を返すと、その行動は増えやすくなります。これは行動療法の「強化(きょうか)」と呼ばれる考え方です。
ごほうびを上手に使うコツ
- 大げさにほめすぎず、自然に、すぐに返す
- 「飲まなかったら〇〇してあげる」という取引にしない
- 反対に、問題となる行動が起きているときは、ごほうびになる関わり(世話を焼く、機嫌をとる)を控える
9. 技法⑤ 先回りをやめ、自然な結果に任せる
問題となる行動の後始末をご家族が引き受け続けると、本人はその行動で困ることがなく、変わるきっかけを失ってしまいます。CRAFTでは、安全に問題がない範囲で、本人が自分の行動の結果に向き合えるようにします。
注意してほしいこと
これは罰を与えることではありません。突き放すのではなく、本人の行動の結果を本人に返すことが目的です。
急性アルコール中毒が疑われる、けがをしているなど命や健康に関わる場合は、ためらわず助けてください。
10. 技法⑥ ご家族自身の生活を取り戻す
ご家族が疲れ切ってしまうと、穏やかな関わりを続けることができません。CRAFTでは、本人の問題とは別に、ご家族自身の生活の満足度を見直し、楽しみや休息の時間を取り戻すことも大切な取り組みとしています。
ご家族が自分の生活を楽しむ姿は、本人にとっても「変わってもいいかもしれない」と感じるきっかけになることがあります。
11. 技法⑦ 相談・受診を提案する
相談・受診の提案は、本人が受け入れやすい「機会の窓」が開いたときに、具体的な相談先を添えて行います。ここまでの技法は、すべてこの提案を受け入れてもらいやすくするための準備でもあります。
提案しやすいタイミング(機会の窓)
- 本人が後悔や反省を口にしたとき(「昨日は飲みすぎた」など)
- 体調の悪さや眠れないことを気にしているとき
- 健康診断や職場で問題を指摘されたとき
- ご家族の変化に気づいて理由を聞いてきたとき(「最近、なんだか雰囲気が変わったね」など)
事前に準備しておくこと
- 相談先の候補・受付時間・予約方法を調べておく
- 本人が「行く」と言ったら、その日か、できるだけ早い日に予約できるようにしておく
- 付き添いが必要かどうか、本人の希望を聞けるようにしておく
会話例(例A:二日酔いの朝に)
夫「昨日はちょっと飲みすぎた。頭が痛いし、最近ずっと眠りも浅い。」
○妻「つらそうだね。眠れないのは本当にしんどいと思う。一度お医者さんに、眠りのことも含めて相談してみない?予約の方法は調べてあるよ。」
夫「……いや、いいよ。そこまでじゃない。」
○妻「分かった。気が変わったら、いつでも言ってね。」
→ 断られたら無理に押さず、いったん引きます。責めずに引くことで、次の機会に話を聞いてもらいやすくなります。
会話例(例B:母が自分の相談を話題にする)
息子「最近、母さん週末によく出かけてるよね。」
○母「家族の相談ができるところに行ってるの。話を聞いてもらうと気持ちが楽になるのよ。あなたも、もし話してみたくなったら一緒に行けるよ。」
→ ご家族が先に相談していることを自然に伝えると、本人にとっての心理的なハードルが下がることがあります。
受診につながったあとも、通院を続けられるように、技法②〜④の関わりを続けることが大切です。
12. 病気かどうか分からないときは
怒りっぽさや夫婦関係の問題など、病気かどうか分からない場合は、「治療」ではなく「相談」という言葉で提案するのが一つの方法です。医療以外にも、カウンセリング、夫婦カウンセリング、アンガーマネジメント(怒りの感情と上手に付き合う方法)の講座など、さまざまな相談先があります。
また、ご家族として「受け入れられない行動」を、本人が落ち着いているときに伝えておく方法もあります(例:「大きな声を出されたら、私は別の部屋に行くね」)。伝えたことは、責めずに淡々と実行することが大切です。
13. 避けたい対応
強い言葉や強引な方法は、一時的に本人を動かせても、その後の治療が続きにくくなることがあります。
14. 相談できる窓口(新宿区・東京都)
本人が受診を拒んでいても、ご家族だけで相談を始めることができます。公的な窓口の多くは無料で利用できます。
15. 当院でのご相談について
当院では、ご本人の受診に加えて、ご本人不在でのご家族だけのご相談にも対応しています(自費診療・予約制)。ご家族のお話をうかがい、状況に応じた関わり方や、適切な相談先・受診のタイミングを一緒に考えます。
お酒の問題がある場合の具体的な対応は受診を拒む家族を治療につなげるには、病気ごとの解説はアルコール依存症・うつ病・認知症のページもあわせてご覧ください。受診の目安はメンタルクリニックはどんな時に受診?で解説しています。
16. よくあるご質問
Q. 本人が受診を嫌がっています。家族だけで相談してもよいのですか?
A. はい、ご家族だけのご相談から始めることができます。保健センターや精神保健福祉センターなどの公的窓口のほか、当院でもご本人不在でのご家族のご相談に対応しています(自費診療・予約制)。ご家族が先に相談することは、本人を治療につなげる有力な方法の一つです。
Q. CRAFTは、アルコールや薬物の問題にしか使えないのですか?
A. CRAFTはアルコールや薬物の問題を中心に開発・研究されてきましたが、日本ではひきこもりの家族支援などにも応用されています。ただし、状況によって向き不向きがあり、すべてのケースに当てはまるわけではありません。専門家と相談しながら取り入れることをおすすめします。
Q. CRAFTを実践すれば、本人は必ず受診してくれますか?
A. 必ず受診につながるとは限らず、効果には個人差があります。ただし研究では、本人が治療につながらなかった場合でも、ご家族自身の気分の落ち込みや不安が軽くなったと報告されています。ご家族の生活を守る意味でも取り組む価値のある方法です。
Q. 無理やり病院に連れて行ってもよいのでしょうか?
A. ご本人の意思を尊重することが原則です。だまして連れて行くなどの方法は、信頼関係を損ない、治療が続きにくくなることがあります。ただし、自分や他人を傷つけるおそれがあるなど緊急性が高い場合は、119番・110番や公的な相談窓口に、すぐにご相談ください。
Q. 暴言や暴力がある場合も、CRAFTを試したほうがよいですか?
A. 暴力がある場合は、まずご家族の安全確保が最優先です。危険を感じたらその場を離れ、緊急時は110番を、配偶者やパートナーからの暴力についてはDV相談ナビ(#8008)をご利用ください。安全が確保されたうえで、関わり方について専門家と一緒に考えていきましょう。
ご留意いただきたいこと
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断や治療に代わるものではありません。ご家族やご本人の状況によって適切な対応は異なり、効果や経過には個人差があります。
つらい気持ちが限界に近いときは
ご本人やご家族が「死にたい」と感じるほど追い詰められているときは、一人で抱えずにご相談ください。こころの健康相談統一ダイヤル:0570-064-556。命の危険が差し迫っている場合は119番・110番をご利用ください。
参考文献
- Smith JE, Meyers RJ(著), 境泉洋, 原井宏明, 杉山雅彦(監訳)『CRAFT 依存症患者への治療動機づけ――家族と治療者のためのプログラムとマニュアル』金剛出版, 2012
- Miller WR, Meyers RJ, Tonigan JS. Engaging the unmotivated in treatment for alcohol problems: a comparison of three strategies for intervention through family members. J Consult Clin Psychol. 1999;67(5):688-697.
https://www.semanticscholar.org/paper/ba7f067d2e1787642a3d27464779c9086fe33bef - Roozen HG, de Waart R, van der Kroft P. Community reinforcement and family training: an effective option to engage treatment-resistant substance-abusing individuals in treatment. Addiction. 2010;105(10):1729-1738.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20626372 - Canadian Centre on Substance Use and Addiction. The Essentials of… Series: Community Reinforcement and Family Training. 2017.
https://www.ccsa.ca/sites/default/files/2019-04/CCSA-Community-Reinforcement-Family-Training-Summary-2017-en.pdf - Robert J. Meyers, PhD「CRAFT, CRA and A-CRA – the methods and the empirical evidence」
https://www.robertjmeyersphd.com/cra-approach/community-reinforcement-and-family-training-approach - 境泉洋(研究代表者)「ひきこもり状態を伴う広汎性発達障害者の家族に対する認知行動療法の効果:CRAFTプログラムの適用」厚生労働科学研究成果データベース
https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/24219 - 境泉洋, 野中俊介『CRAFT ひきこもりの家族支援ワークブック――若者がやる気になるために家族ができること』金剛出版
https://www.kongoshuppan.co.jp/book/b514720.html - Miller WR, Rollnick S. Motivational Interviewing: Helping People Change. 3rd ed. Guilford Press; 2013.
- Amador X. I Am Not Sick, I Don’t Need Help! Vida Press.
- 東京都福祉局「東京都立中部総合精神保健福祉センター」
https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/shisetsu/jigyosyo/chusou - 新宿区「こころの相談(保健センター)」
https://www.city.shinjuku.lg.jp/soshiki/0401hokensenta-soudan_00005.html - 内閣府男女共同参画局「DV相談について」
https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/dv_navi/index.html - 支援情報ナビ「主な電話相談窓口」
https://shienjoho.go.jp/telsoudan.html
【監修・執筆】永井常高(神楽坂メンタルクリニック院長・精神保健指定医・精神科専門医/指導医)
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