「動悸がする」「息が浅い」「胃腸が乱れる」「だるいのに眠れない」――内科などを受診しても検査では大きな異常がないのに、つらい不調が続く。こうした状態で“自律神経失調症”と言われた経験がある方は少なくありません。
精神科・心療内科には、よく上記のような身体症状で内科などから紹介されることがしばしばあります。特に春とか秋のような季節の変わり目が多い印象です。

結論から言うと、自律神経失調症は“ひとつの病名”というより、“自律神経の乱れが関係していそうな不調の総称”として使われることが多い言葉です。精神科では、この言葉の裏に 不安症・うつ病・パニック症・不眠症 などが隠れていないか、また内科的疾患が紛れていないかを慎重に見立てます。
自律神経とは何か:乱れると何が起こる?
自律神経は、意識しなくても体を調整している仕組みです。大きく2系統に分かれます。
- 交感神経:活動・緊張(心拍↑、血圧↑、筋肉に血流)
- 副交感神経:休息・回復(消化↑、心拍↓、睡眠へ)
これらはシーソーのような関係で、片方が強まると、もう片方は弱まります。
ストレス、睡眠不足、過労、生活リズムの崩れ、感染後、ホルモン変動などでこのバランスが崩れると、体は「安全確認モード(警戒)」に入りやすくなり、以下のような症状が出ます。

よくある症状(身体症状+こころの症状)
身体
- 動悸、胸部不快感、息苦しさ、過呼吸
- めまい、ふらつき、立ちくらみ
- 胃もたれ、下痢/便秘、吐き気
- ほてり、発汗、手足の冷え
- 頭痛、肩こり、筋緊張、しびれ感
- 倦怠感、疲労感、寝ても回復しない

気分や考え
- 不安、焦り、イライラ
- 集中力低下、思考がまとまらない
- 「このまま倒れるのでは」という恐怖
- 抑うつ気分、意欲低下(併存することも)

※同じ「自律神経の乱れっぽい症状」でも、背景は人によって違います。ここを整理するのが診療の核心です。
重要:見逃したくない“鑑別”(他の病気との区別)
「自律神経失調症」と言われても、以下が背景にあることがあります。
精神科領域で特に多いもの
- パニック症:発作性の動悸・息苦しさ・死の恐怖、回避行動
- 全般不安症:慢性的な心配+筋緊張・不眠・胃腸症状
- うつ病:不眠・食欲低下・意欲の低下・憂鬱な気分・日内変動
- 適応障害:不眠・食欲低下・意欲の低下・憂鬱な気分・懸念
- 睡眠障害:眠れないこと自体が自律神経を乱し続ける
- 身体症状症(旧:心気症など含む概念):症状への過度なとらわれで悪循環
内科・身体疾患で紛れうるもの(要チェック)
- 甲状腺機能亢進/低下(動悸、体重変化、発汗、倦怠感)
- 貧血(息切れ、動悸、だるさ)
- 不整脈、狭心症など循環器疾患
- 低血糖、電解質異常
- 睡眠時無呼吸症候群(日中の眠気、起床時頭痛)
- 起立性調節障害 / POTS(立位で動悸・めまいが悪化)
- 薬剤・カフェイン・アルコールの影響(離脱も含む)
受診の目安(これは放置しない)
次に当てはまる場合は、自己流で粘らず受診をおすすめします。
- 日常生活や仕事に支障が出ている(欠勤・ミス増加・外出困難)
- 動悸や胸痛、失神、強い息苦しさがある
- 体重減少、発熱、血便など“赤旗”症状がある
- 不眠が2週間以上続く
- 希死念慮(消えたい気持ち)がある
※胸痛・強い呼吸困難・麻痺など急性症状は救急も選択肢です。

精神科では何をする?(評価→悪循環の特定)
精神科の診療は、単に「ストレスですね」で終わらせません。ポイントは3つです。
- 症状のパターン化:いつ/どこで/何が引き金で悪化するか
- 悪循環の同定:
例)不安 → 過呼吸 → 動悸 → 「死ぬかも」 → さらに不安 - 併存の評価:不眠、うつ、不安、パニック、身体疾患の可能性
必要に応じて内科的検査(採血、甲状腺、心電図など)を相談しながら進めます。
自律神経を整える:今日からできる実用的な方法
ここからは、再現性の高い「整え方」を優先して紹介します。コツは、気合いではなく設計(仕組み化)です。
1)睡眠:まず“起床時刻”を固定する
自律神経の土台は睡眠です。最初にやるべきは「寝る時間」ではなく起きる時間の固定。
- 休日も起床時刻のズレは±1時間以内
- 二度寝をするなら「布団の中で延長」より短い昼寝(15〜20分)
- 寝床で悩む時間が長い人は、寝る前に解決しようとしない(覚醒が強化されます)

2)光:朝の光を浴びる(最短で効く介入)
起床後1時間以内に、屋外で10〜20分(曇りでも可)。
難しければ、窓際でも良いですが“屋外”の方が効果は出やすいです。体内時計が整うと、夜の入眠が改善し、結果として自律神経の揺れが減ります。

3)呼吸:過呼吸体質には「長く吐く」
不安が強い人ほど呼吸が浅く速くなり、動悸・めまい・しびれが増えます。
簡単で安全性が高いのはこれです。
4-6呼吸(1分でOK)
- 6秒で口から吐く → 4秒で鼻から吸う(最初に吐く・吐く方を長く)
- これを10セット
ポイントは「深く吸う」より「ゆっくり吐く」。吐く行為が副交感神経に寄与しやすい。

4)運動:きつい運動より“中強度を継続”
運動は本質的には「交感神経を上げて、落とす練習」でもあります。
おすすめは
- 早歩き、軽いジョグ、エアロバイクなどを週3回、20分
- ハードにできない日は、食後10分歩くだけでも十分価値があります

5)食事・カフェイン・アルコール:波を作るものを減らす
- カフェイン:不安・動悸がある人は午後は避ける(まずは14時以降なし)
- アルコール:寝つきは良くても睡眠の質を落とし、早朝覚醒や動悸を招きます
- 食事:欠食や糖質の偏りは血糖の乱高下を起こし、不調の引き金になります
※特に朝食を食べると体内時計がリセットされて生活のリズムが整います - 水分:めまい・立ちくらみがある人は脱水寄りになっていないか見直す
6)体温:入浴は“深部体温のコントロール”
寝る直前の熱い風呂は覚醒しやすい。おすすめは
- 就寝90分前に入浴(湯温はぬるめ〜普通、10〜15分)
- 難しければ足湯や温シャワーでもOK
体温が上がったあとに、2時間ぐらいかけて体温が下がると眠気が来やすいです。
7)思考と行動:症状の「安全確認」を減らす
自律神経不調は、症状そのものより症状への反応で悪化します。
- 脈を何度も測る
- ネット検索を繰り返す
- 「倒れるかも」で外出を避ける

これらは短期的には安心でも、長期的には脳に「危険」と学習させます。
できる範囲で
- まずは“安全行動”を1つ減らす
- 外出は「完璧に治ってから」ではなく「小さく試す」
が現実的です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 自律神経失調症は薬で治りますか?
薬が効くケースはありますが、万能ではありません。背景が不安症・うつ病・パニック症・不眠症などの場合、その診断に沿った治療(薬物療法+生活調整+精神療法的アプローチ)が効果的です。逆に、生活リズムの崩れが主因なら生活介入が優先です。
Q2. 漢方やサプリは有効ですか?
漢方薬は体質に合うと程よく効果的ですが、やはり効果には個人差があります。サプリは相互作用や過量のリスクもあるため、常用薬がある方は自己判断で併用せず相談してください。
Q3. どれくらいで良くなりますか?
原因と悪循環の強さで違います。目安としては、生活調整(起床固定+朝の光+運動)をきちんと回すと、4〜6週間で波が変わり始める人が多い一方、長期化している場合は治療設計の再検討が必要です。
まとめ:自律神経は“整える対象”ではなく“整う環境を作る”
自律神経失調症という言葉は便利ですが、放置すると「本当の原因」を見逃します。
一方で、やるべきことは明確です。
- 鑑別(うつ・不安・パニック・甲状腺など)を外す
- 睡眠(起床固定)+朝の光+呼吸+運動を軸にする
- 症状への反応(安全確認)を少しずつ減らす
不調が続く場合は、我慢比べにしないでください。原因を整理し、最短距離で回復する設計に切り替える方が合理的です。

神楽坂メンタルクリニックでは、不眠・不安・動悸など「自律神経の乱れに見える不調」について、精神科・心療内科の視点で背景を整理し病態仮説を検証し、必要に応じて内科的評価も踏まえた治療方針をご提案します。
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