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PMSに対する漢方薬の使い分け(前回の続き)

PMSに対する漢方薬の使い分け:タイプ別の選び方と科学的根拠

月経前(生理の3〜10日ほど前)になると、イライラ・落ち込み・不安・眠気などの“こころの症状”や、むくみ・頭痛・腹部膨満・乳房の張りなどの“からだの症状”が出て、生理が始まると軽くなる——これがPMS(月経前症候群)の典型像です。気分の症状が特に強く、生活や仕事に大きく支障が出る場合はPMDD(月経前不快気分障害)も鑑別になります。

臨床現場では漢方薬を使うことが多いため、今回は漢方薬による治療を、症状タイプ別の使い分けと科学的根拠(エビデンス)の両面から詳しく整理します。

監修・執筆:永井常高(当院院長/精神保健指定医・精神科専門医/指導医) 最終更新:2026年6月

本記事は前回の続編です。PMSと他疾患(うつ病・双極性障害・甲状腺機能異常など)との鑑別については、前回の記事をご参照ください。
≫ 前回の記事:PMS(月経前症候群)を精神科医の目線で整理する

さまざまな漢方薬(生薬)のイメージ

1. まず大前提:PMSの「条件」を満たしているか

ポイント:漢方の前に、そもそも症状が「月経周期に連動して繰り返すPMS」かどうかの確認が欠かせません。ここがズレていると効果は期待しにくくなります。

  • 症状が「月経前だけ」強く、月経開始後に軽くなる
  • それが2周期以上繰り返す(目安)
  • 体調不良が「常にある」場合は、PMS以外(うつ病、不安症、甲状腺疾患、貧血、睡眠障害など)も検討する

おすすめは、スマホのメモでもよいので「症状日誌」をつけること。月経開始日と毎日の症状(気分・睡眠・身体症状)を記録すると、診断・治療の精度が上がります。


2. 漢方の科学的根拠(エビデンス)の現在地

ポイント:漢方はPMSの多彩な症状を一剤でまとめて整えやすく、日本の診療指針でも選択肢として位置づけられています。一方で、大規模な比較試験(RCT)は限られ、臨床効果の検証は十分とは言えないのが現状です。

PMS/PMDDに対する漢方の研究は、多くが小規模・非盲検(オープン試験)・前後比較で、プラセボと比較した大規模RCTは多くありません。日本産科婦人科学会の「月経前症候群・月経前不快気分障害に対する診断・治療指針」でも、漢方は選択肢として挙げられる一方で、エビデンスが十分でない旨が明記されています。したがって、「効くと報告がある」ことと「確実に効く」ことは別であり、症状日誌で効果を確かめながら使うのが現実的です。

そのうえで、現時点で報告されている主な知見を整理すると、次のようになります。

漢方薬 主な報告(研究デザイン) 指針での位置づけ
加味逍遙散PMDDを対象としたオープン試験(6周期投与)で症状改善の報告(非盲検)不定愁訴の代表処方として中心的に挙げられる
当帰芍薬散むくみ・冷え・倦怠感など身体症状中心の報告。婦人科で古くから使用「婦人三大処方」の一つ。最も虚証タイプ向け
桂枝茯苓丸小規模ながらPMSへの有効性検討の報告「婦人三大処方」の一つ。より実証タイプ・腹部膨満感にも
抑肝散加陳皮半夏易怒性のPMSを対象に、QOL指標が改善した報告(前後比較)。精神面は1周期後、身体面は3周期後に改善易怒性・精神症状に対し使用が「考慮」される

※いずれも研究デザインの規模・質には限界があり、効果や副作用の出方には個人差があります。


3. 「4本柱」とタイプ別の使い分け

ポイント:産婦人科領域の実態調査でも使用頻度が高く、診療指針でも中心的に挙げられるのが次の4本柱です。「一番つらい症状」を手がかりに、タイプ別に整理します。

  • 加味逍遙散(かみしょうようさん)
  • 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
  • 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
  • 抑肝散(よくかんさん)/抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)

1)イライラ・気分の波・不眠が目立つ「ストレス型」

第一候補:加味逍遙散

  • 向いている症状:イライラ、焦燥感、涙もろさ、不眠、緊張、頭痛、のぼせっぽさ
  • 体質イメージ:虚〜中間(体力が極端に強いタイプより、消耗しやすいタイプ)
  • 科学的根拠:指針でも「不定愁訴の代表処方」とされ、PMDDのオープン試験で6周期投与による症状改善が報告されています(非盲検)。
加味逍遙散

2)むくみ・冷え・だるさ・めまいが目立つ「水分・冷え型」

第一候補:当帰芍薬散

  • 向いている症状:むくみ、冷え、倦怠感、頭痛、めまい、肩こり、ふらつき
  • 体質イメージ:やせ型・色白・冷えやすい(指針でも「最も虚証タイプ」と説明)
  • 科学的根拠:当帰芍薬散・加味逍遙散・桂枝茯苓丸は「婦人三大処方」と呼ばれ、古くから婦人科症状に使用されてきました。PMSで「眠気・だるさ」が主役の人に合うことがあります。
当帰芍薬散

3)下腹部の張り・肩こり・のぼせ(冷えのぼせ)・月経痛が目立つ「巡り停滞型」

第一候補:桂枝茯苓丸

  • 向いている症状:下腹部の張り、肩こり、冷えのぼせ、月経痛、頭重感、肌荒れ(周期で悪化)
  • 体質イメージ:中間〜実(ある程度体力がある)
  • 科学的根拠:小規模ながらPMSへの有効性検討が報告されています。指針でも「より実証タイプ」「腹部膨満感にもよい」と整理されています。
桂枝茯苓丸

4)怒りっぽい・神経過敏が突出する「易怒性(いどせい)型」

候補:抑肝散/抑肝散加陳皮半夏

  • 向いている症状:怒りっぽさ、ピリピリ、感情の高ぶり、不眠、緊張(胃腸が弱い方には抑肝散加陳皮半夏が選ばれやすい)
  • 科学的根拠:易怒性のPMSを対象に、抑肝散加陳皮半夏でQOL指標が改善した報告があります(前後比較)。改善は精神面が1周期後、身体面が3周期後と報告されています。指針でも使用が「考慮」されています。
抑肝散

4. 「便秘が強い+イライラ」がセットの人へ

便秘とイライラが同時に強いタイプは、桂枝茯苓丸や加味逍遙散だけでは物足りないことがあります。産婦人科・漢方の現場では桃核承気湯(とうかくじょうきとう)が候補に挙がります。

桃核承気湯は排便を促す作用のある処方で、体質に合わないと下痢や腹痛を起こすことがあります。自己判断での使用は避け、必ず医師・薬剤師に相談してください。

桃核承気湯

5. 飲み方と「おすすめの投与期間」

漢方は、痛み止めのように“その場で止める薬”ではありません。効果発現には一般に1か月以上の継続が必要とされ、目安は次のとおりです。

  • まず4〜8週間(1〜2周期):効き始めの判断
  • 3周期:その人に合うかを確かめる(症状日誌があると判定が明確)
  • 効いているなら、生活イベント(繁忙期など)も考慮しつつ継続を検討

月経関連症状に対する漢方は「4〜12週間で改善を期待」とする記載もあります。また、抑肝散加陳皮半夏の研究では、精神面は1周期後から、身体面は3周期後で改善が示されています。効き方には個人差があるため、自己判断で中止せず、飲み方は医師と相談して決めましょう。


6. 安全の話:漢方にも“要注意”がある

ポイント:「漢方=安全」ではありません。代表的な注意点は①甘草による偽アルドステロン症、②複数の漢方の併用、③妊娠・授乳・持病・併用薬の3つです。

1)むくみ・血圧上昇・脱力が出たら中止相談(偽アルドステロン症)

多くの漢方に含まれる甘草(かんぞう)が原因で、偽アルドステロン症(高血圧、むくみ、低カリウム血症、手足のだるさ・脱力など)が起こり得ます(加味逍遙散・抑肝散加陳皮半夏などにも含まれます)。これらの症状があれば放置せず、医師・薬剤師に連絡してください。

2)「複数の漢方」を同時に飲まない

甘草などの生薬が重なり、副作用リスクが上がります(市販薬も含む)。自己判断で漢方薬をブレンドしないようにしましょう。複数を併用したい場合は、必ず医師や薬剤師に相談してください。

3)妊娠・授乳、持病、他の薬がある人は必ず相談

PMS治療では妊娠希望が絡むことも多く、妊娠や胎児への薬剤の影響を考える必要があります。漢方薬に限りませんが、妊娠希望や妊娠の可能性がある方は、薬を処方してもらうときに必ず医師に申し出てください。


7. 生活面で効きを底上げするコツ(薬とセットで効く)

  • 睡眠の固定:入眠時刻を一定にするだけで波が減る人がいます
  • カフェイン・アルコールを月経前は控えめに
  • 軽い有酸素運動:週2〜3回で十分
  • 症状日誌:「何が効いたか」が可視化され、治療の精度が上がります

8. よくある質問(FAQ)

Q1. 漢方はいつ・どのように飲み始めればいいですか?

A. 基本は毎日の内服でよいです。月経前だけにすると効果の判定がぶれやすいので、まずは1〜2周期は連続で内服して評価するのが実務的です。

Q2. どれを選べばいいか分かりません。

A. 迷ったら「一番つらい症状」で決めます。気分の波・イライラ中心なら加味逍遙散、むくみ・冷え・だるさ中心なら当帰芍薬散、のぼせ+肩こり+下腹部の張り中心なら桂枝茯苓丸、怒りっぽさが突出するなら抑肝散(加陳皮半夏)が目安です。最終的には体質も含めて医師が判断します。

Q3. 効かなかったらどうすればいいですか?

A. 処方を替える前に、①PMSの周期性が本当にあるか、②睡眠不足や過労が上乗せされていないか、③別の疾患が混ざっていないか——を見直すのが先です。そのうえで処方を調整します。

Q4. 市販の漢方薬で済ませても大丈夫ですか?

A. 市販薬にも漢方はありますが、複数の製品で甘草などが重なると副作用のリスクが上がります。とくにPMSは妊娠希望や他疾患が絡むことも多いため、できるだけ自己判断は避け、医師・薬剤師に相談して選ぶことをおすすめします。


9. まとめ

  • PMSの漢方は「どれでも同じ」ではなく、症状の出方(タイプ)で処方を分けるのがコツ
  • 診療指針でも、当帰芍薬散・加味逍遙散・桂枝茯苓丸を中心に、抑肝散系を状況に応じて使う整理
  • 科学的根拠は小規模・非盲検の報告が中心で、まだ十分とは言えない
  • だからこそ症状日誌で効果を判定しながら、安全面(甘草など)に注意して使うのが現実的

漢方は、PMSの多彩な症状にやさしく寄り添える選択肢ですが、自己判断での使用には注意が必要です。症状がつらいとき、何を選べばよいか迷うときは、お気軽にご相談ください。

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神楽坂駅 1b出口より徒歩1分以内/精神科・心療内科


参考文献

  • 日本産科婦人科学会 女性ヘルスケア委員会「月経前症候群・月経前不快気分障害に対する診断・治療指針(2023-2024年度)」
  • 小川真里子, 高松潔「月経関連症候群患者への漢方療法 PMS/PMDDを中心に」産婦人科の実際 65巻7号: 821-825; 2016年
  • PMDDに対する加味逍遙散のオープン試験(PubMed: 17472603)

本記事は一般的な情報提供であり、診断や治療の代替ではありません。漢方薬の効果や副作用の出方には個人差があり、エビデンスにも限界があります。使用にあたっては、自己判断を避け、医師・薬剤師にご相談ください。

【監修・執筆】永井常高(神楽坂メンタルクリニック院長・精神保健指定医・精神科専門医/指導医)

永井 常高

永井 常高

熊本大学卒 慶應義塾大学医学部精神神経科教室 精神保健指定医(第21030号) 精神科専門医・指導医

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