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ショートスリーパーは生まれつき?訓練でなれる?医師が解説

「1日30分しか眠らない」という短時間睡眠の実践者と医師の対談動画が、SNSで大きな話題になっています。「睡眠時間は訓練で短くできるのか」「ショートスリーパーは実在するのか」——気になった方も多いのではないでしょうか。この記事では、精神科・心療内科の立場から、ショートスリーパーに関する現在の医学的な知見を、できるだけ分かりやすく解説します。結論を先に述べると、生まれつきのショートスリーパーはごくまれに実在しますが、訓練で後天的になれるという科学的根拠は現時点で確認されておらず、睡眠を削ることには明確な健康リスクがあるため、当院としてはおすすめできません。一方で、「睡眠を良くしたい」「限られた時間を有効に使いたい」という思いそのものは、とても大切なものです。その願いを安全にかなえる方法も、あわせてご紹介します。

1. いま話題の「ショートスリーパー論争」とは

今回の話題は、「1日30分程度の睡眠を長年続けている」と公言し、睡眠を短くする独自のプログラムを提供している某氏と、医師がYouTube上で対談したことがきっかけです。短時間睡眠の是非をめぐる約1時間の議論は各種SNSで広く拡散され、「本当にそんなことが可能なのか」「健康に問題はないのか」と、多くの関心を集めました。

実際の対談は、こちらの動画(対談相手である医師の公式チャンネル)でご覧いただけます。

動画が表示されない場合は こちら(YouTube) からご覧ください。

なお、この記事は特定の個人を評価したり批判したりすることを目的とするものではありません。某氏の「睡眠をコントロールして生活を良くしたい」という問題意識は、睡眠に悩む多くの方が共有する自然な願いだと考えています。その上で、「ショートスリーパーは医学的に成立するのか」という論点そのものについて、現在の科学的知見を整理してお伝えします。

2. 「生まれつきのショートスリーパー」は医学的に実在します

結論から言うと、短い睡眠でも心身の不調をきたさない「生まれつきのショートスリーパー」は、医学的に実在します。ただし、それはごくまれな遺伝的体質です。医学の世界では「家族性自然短時間睡眠(FNSS:Familial Natural Short Sleep)」と呼ばれ、生涯にわたり1日4〜6時間程度の睡眠で、日中の眠気や健康上の問題なく過ごせる体質を指すとされています。

2009年、米国の研究グループが、この体質をもつ家系からDEC2という遺伝子の変異を発見しました。この変異をもつ人は、平均して約6.2時間の睡眠で足りていた一方、もたない家族は約8.1時間眠っていたと報告されています。その後も、ADRB1・NPSR1・GRM1といった遺伝子の変異が同様の体質と関連することが報告されており、いずれも「覚醒を保つ仕組みが生まれつき強い」体質と考えられています。

ここで大切なポイントは2つあります。

ポイント 解説
ごくまれである これらの遺伝子変異をもつ人は非常に少なく、「睡眠時間が短めの人」の大多数は、体質ではなく睡眠不足(睡眠負債)を抱えた状態と考えられています。
生まれつきの体質である 遺伝子によって決まる体質であり、後天的な訓練によってこの体質を獲得できることを示した研究は、現時点で確認されていません

また、真のショートスリーパーとされる方は、そもそも「短く眠ろうと努力」していません。自然に早く目が覚め、日中の眠気もカフェインへの依存もなく、休日の寝だめも必要としない——これが本来のショートスリーパー像です。「頑張って起きている」時点で、それは体質ではなく睡眠不足のサインといえます。なお、「1日30分」という睡眠時間は、まれな遺伝的体質としてのショートスリーパー(4〜6時間程度)の範囲すら大きく下回っており、医学的に説明のつく水準ではないとされています。

3. 「訓練でショートスリーパーになれる」は本当?

結論として、「訓練によって必要な睡眠時間そのものを短くできる」ことを示した、信頼できる科学的研究は現時点で確認されていません。短時間睡眠に「慣れる」ことと、必要な睡眠量が「減る」ことは、まったく別の現象です。

このことを示す代表的な研究があります。健康な成人を「8時間睡眠」「6時間睡眠」「4時間睡眠」のグループに分けて2週間過ごしてもらい、注意力のテストを毎日行った実験です。結果は下の図のとおりで、6時間睡眠のグループでも注意力は日を追うごとに低下し続け、2週間後には「2晩徹夜した直後」と同じ水準まで落ち込みました

睡眠時間別(8時間・6時間・4時間)にみた注意力の低下を示す模式図。6時間睡眠でも2週間で徹夜2晩と同等の低下がみられる

図1:睡眠時間別にみた注意力の低下(Van Dongenら, 2003の結果をもとに作成した模式図)

さらに重要なのは、この実験で参加者本人が感じる「眠気」は、数日で頭打ちになったという点です。つまり、体は日ごとに消耗しているのに、本人は「もう慣れた」「意外と平気」と感じてしまう。短時間睡眠の訓練で得られる「平気になった」という実感は、実際には自分の状態を正しく感じ取れなくなっているだけの可能性がある——これが、睡眠研究が示している重要な警告です。

4. 睡眠を削ることの健康リスク(データで見る)

短時間睡眠は、死亡リスクをはじめ、糖尿病・高血圧・心血管疾患・肥満・認知症など、幅広い健康リスクの上昇と関連することが、大規模な研究で繰り返し示されています。

睡眠時間と死亡リスクは「U字カーブ」

世界中の追跡調査をまとめた解析では、睡眠時間と死亡リスクの関係は7時間前後を底とする「U字カーブ」を描くことが知られています。短すぎても長すぎてもリスクは上がる、ということです。

夜間の睡眠時間と総死亡の相対リスクの関係を示す折れ線グラフ。7時間を底とするU字カーブを描く

図2:睡眠時間と総死亡リスクの関係(Shenら, 2016のメタ解析をもとに作成)

短時間睡眠で上がるリスクの一覧

515万人以上のデータを統合した日本の研究グループによるメタ解析(複数の研究を統合して分析する手法)では、短時間睡眠の人は十分に眠っている人と比べて、下の図のように各種の病気のリスクが高いことが示されました。また、英国の約8千人を25年間追跡した研究では、中年期に6時間以下の睡眠が続いた人は、7時間睡眠の人と比べて認知症の発症リスクが約30%高かったと報告されています。

短時間睡眠に伴う総死亡・糖尿病・高血圧・心血管疾患・冠動脈疾患・肥満・認知症の相対リスクを示す横棒グラフ

図3:短時間睡眠と健康リスク(Itaniら, 2017/認知症はSabiaら, 2021をもとに作成)

こころへの影響も見逃せません

精神科の立場から特にお伝えしたいのは、睡眠不足がこころに与える影響です。睡眠が足りない状態では、感情のコントロールを担う脳の働きが低下し、イライラしやすくなる、些細なことで落ち込む、不安が強まるといった変化が起こりやすくなるとされています。また、うつ病や双極症(双極性障害)などの気分の病気では、睡眠不足が症状の悪化や再発の引き金になることが知られています。睡眠を削る取り組みは、こころの健康の面からもおすすめできません。なお、これらのリスクはあくまで集団のデータに基づく傾向であり、影響の現れ方には個人差があります。

5. 「短くても平気」と感じてしまう落とし穴

「自分は短い睡眠でも大丈夫」という感覚は、残念ながらあてになりません。先ほどの実験が示したように、慢性的な睡眠不足では、能力の低下と本人の自覚が一致しなくなっていくためです。さらに、強い睡眠不足の状態では、本人が起きているつもりでも、脳が数秒単位で眠りに落ちる「マイクロスリープ〈瞬間的な居眠り〉」が起こることが知られています。車の運転中などに起これば、重大な事故につながりかねません。

ご自身が「体質」なのか「睡眠不足」なのかを見分ける目安として、次のようなサインがあれば、それは睡眠が足りていないサインと考えられます。

睡眠不足(睡眠負債)を示すサイン
休日になると平日より2時間以上長く眠ってしまう(寝だめ)
目覚まし時計がないと起きられない/二度寝が常態化している
日中、会議中や電車内などでうとうとしてしまう
カフェインがないと午後を乗り切れない
以前よりイライラしやすい、集中が続かないと感じる

6. 「睡眠を良くしたい」気持ちを、安全にかなえるには

「睡眠を良くしたい」「1日をもっと有効に使いたい」という願いは、それ自体とても健全なものです。今回話題になった某氏のように、睡眠に真剣に向き合おうとする姿勢は尊重されるべきだと考えます。ただ、医学的な観点からは、その方法は「眠る時間を削る」方向ではなく、「睡眠の質と規則性を高める」方向が安全です。ぐっすり眠れて朝の目覚めがすっきりすれば、日中の集中力や作業効率が上がり、結果として使える時間の「中身」が濃くなります。

厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」でも、適正な睡眠時間には個人差があるとしつつ、成人は6時間以上を目安に睡眠時間を確保し、あわせて「睡眠休養感〈眠って休まったという感覚〉」を高めることが推奨されています。具体的には、次のような工夫が挙げられています。

場面 工夫の例
朝・日中 毎日ほぼ同じ時刻に起きて朝の光を浴びる。日中は適度に体を動かし、長い昼寝は避ける。
夕方〜就寝前 カフェインは夕方以降控えめに。眠るための飲酒(寝酒)は睡眠の質を下げるため避ける。
寝室の環境 スマートフォンなどのデジタル機器は寝室に持ち込まず、できるだけ暗く静かな環境で眠る。
休日 「寝だめ」に頼るのではなく、平日の睡眠時間を確保できるよう生活を見直す。

なお、慢性的な不眠に対しては、生活習慣や睡眠に対する考え方を整えていく認知行動療法的なアプローチが国内外のガイドラインで重視されています。効果の現れ方には個人差がありますが、「眠りを削る訓練」ではなく「眠りを整える取り組み」こそが、医学的に支持されている方法です。

7. こんなときは医療機関にご相談ください

睡眠の悩みが続く場合、背景に治療の対象となる病気が隠れていることがあります。次のような状態が2週間以上続くときは、一人で抱え込まず、医療機関への相談をご検討ください。

・寝つけない、途中で目が覚める、朝早く目が覚めてしまう日が続いている
・十分眠っているはずなのに、日中の強い眠気やだるさが取れない
・気分の落ち込みや不安、イライラとともに睡眠の乱れが続いている
・いびきや呼吸の乱れを指摘された、脚のむずむず感で眠れない
・眠れないことへの不安で、かえって目がさえてしまう

神楽坂メンタルクリニックは、東京メトロ東西線・神楽坂駅1b出口から徒歩1分の精神科・心療内科クリニックです。新宿区・神楽坂エリアで不眠やこころの不調にお悩みの方は、どうぞお気軽にご相談ください。睡眠の状態を丁寧にお伺いし、お一人おひとりに合った対応を一緒に考えていきます。

8. よくある質問(FAQ)

Q1. ショートスリーパーは遺伝で決まるのですか?

A. 短い睡眠でも不調をきたさない体質(家族性自然短時間睡眠)は、DEC2やADRB1などの遺伝子変異と関連することが報告されており、生まれつきの体質と考えられています。ただし該当する方はごくまれで、睡眠時間が短い人の大多数は、体質ではなく睡眠不足の状態にあるとされています。

Q2. 訓練すれば睡眠時間を短くできますか?

A. 「必要な睡眠時間そのものを訓練で短くできる」ことを示した、信頼できる科学的研究は現時点で確認されていません。短時間睡眠を続けると眠気の自覚は薄れていきますが、注意力などの機能低下は進行し続けることが実験で示されており、「慣れた」という感覚は安全の保証にはなりません。

Q3. 睡眠時間が短くても日中元気なら問題ありませんか?

A. 日中の眠気・カフェイン依存・休日の寝だめなどが一切なく、生涯を通じて自然に短い睡眠で過ごせている場合は、まれな体質の可能性があります。一方、これらのサインが一つでもあれば睡眠不足が疑われます。短時間睡眠は各種の健康リスク上昇と関連するため、気になる場合は医療機関にご相談ください。

Q4. 理想の睡眠時間は何時間ですか?

A. 必要な睡眠時間には個人差がありますが、厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、成人は6時間以上を目安に睡眠時間を確保することが推奨されています。大規模な研究では、死亡リスクが最も低いのは7時間前後との報告があります。時間だけでなく、「眠って休まった」という感覚(睡眠休養感)も大切な目安です。

参考文献

1. 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/suimin/index.html
2. He Y, et al. The transcriptional repressor DEC2 regulates sleep length in mammals. Science. 2009;325(5942):866-870. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19679812/
3. Shi G, et al. A Rare Mutation of β1-Adrenergic Receptor Affects Sleep/Wake Behaviors. Neuron. 2019;103(6):1044-1055. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31473062/
4. Van Dongen HP, et al. The cumulative cost of additional wakefulness. Sleep. 2003;26(2):117-126. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12683469/
5. Shen X, et al. Nighttime sleep duration, 24-hour sleep duration and risk of all-cause mortality among adults. Sci Rep. 2016;6:21480. https://www.nature.com/articles/srep21480
6. Itani O, et al. Short sleep duration and health outcomes: a systematic review, meta-analysis, and meta-regression. Sleep Med. 2017;32:246-256. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27743803/
7. Sabia S, et al. Association of sleep duration in middle and old age with incidence of dementia. Nat Commun. 2021;12:2289. https://www.nature.com/articles/s41467-021-22354-2

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【監修・執筆】永井常高(神楽坂メンタルクリニック院長・精神保健指定医・精神科専門医/指導医)

永井 常高

永井 常高

熊本大学卒 慶應義塾大学医学部精神神経科教室 精神保健指定医(第21030号) 精神科専門医・指導医

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