コラム法(思考記録表)とは、つらくなった出来事と、そのとき頭に浮かんだ考えを紙の欄(コラム)に書き出し、事実にもとづいて見直すことで、考え方をしなやかにしていく方法です。認知行動療法(CBT)の中心的な技法のひとつで、練習すればご自宅でひとりでも取り組めます。この記事では、7つのコラムの書き方を順を追って解説し、記入例を3つ、つまずいたときの対処法、そしてダウンロードして使えるワークシートをご用意しました。
※本記事は「認知行動療法(CBT)とは?技法・有効性・受け方を解説」の続編です。CBT全体について知りたい方は、先にこちらをご覧ください。
1コラム法とは — なぜ「書く」と楽になるのか
コラム法は、頭の中の考えを紙の上に取り出して、少し離れた場所から眺めるための道具です。「書くだけで変わるの?」と思われるかもしれませんが、書くことには次のような働きがあります。
| 頭の「外」に出せる | 頭の中だけで考えると、同じ考えがぐるぐる回りがちです〈反芻(はんすう)〉。紙に書くと、考えを対象として眺められるようになります。 |
|---|---|
| 考え=事実ではない、と気づける | 「嫌われたに違いない」は事実ではなく“考え”です。書き出すと、事実と考えの区別がつきやすくなります。 |
| 繰り返すほど技術になる | 練習を重ねると、紙に書かなくても頭の中で同じ手順を踏めるようになり、再発予防の力になるとされています。 |
大切なのは、コラム法の目的が「ポジティブになること」ではないという点です。めざすのは、現実に合った、しなやかでバランスのよい見方を見つけること。無理に明るく考える必要はまったくありません。
2全体の流れ — 7つのコラムと3つのステップ
コラム法の標準形は、厚生労働省の治療者用マニュアルでも用いられている「7つのコラム」です。7つと聞くと大変そうですが、実際は3つのステップに分かれたシンプルな流れです。
| ステップ | コラム |
|---|---|
| STEP 1 ありのまま記録する | ① 状況 ② 気分(%) ③ 自動思考 |
| STEP 2 事実を点検する | ④ 根拠 ⑤ 反証 |
| STEP 3 見方を広げる | ⑥ 適応的思考 ⑦ 今の気分(%) |
はじめは STEP 1(①〜③)だけでOK。①〜③が自然に書けるようになってから④以降に進みましょう。また、1枚のシートにつき場面は1つだけ選びます。あれもこれも書くと、かえって整理しづらくなります。
3STEP 1:①状況・②気分・③自動思考の書き方
① 状況 — カメラで撮るように、事実だけを
いつ・どこで・誰と・何があったかを、カメラで撮影するように事実だけ書きます。解釈や感想はここには入れません。
| ○ | 「会議で発言したら、部長が時計を見た」 |
|---|---|
| × | 「最近ずっと仕事がつらい」(場面が広すぎて検討できません) |
② 気分(%) — 気持ちをひとことで+強さを数字に
「不安」「落ち込み」「恥ずかしさ」「怒り」など気持ちをひとことで表し、強さを0〜100%でつけます(例:不安80%、恥ずかしさ60%)。数字は正確である必要はなく、「だいたい」でOKです。「半分より強い?弱い?」と自問すると決めやすくなります。あとで⑦と比べるための“ものさし”です。
③ 自動思考 — 浮かんだ考えを、整えずそのまま
その瞬間に頭にパッと浮かんだ考えやイメージを、きれいに整えず、浮かんだ言葉のまま書きます(例:「つまらない話だと思われた」)。複数あれば全部書き、いちばん心が動いた考え〈ホットな思考〉に○をつけておくと、あとの検討がしやすくなります。
4自動思考によくある「考え方のクセ」6パターン
ストレスがかかったときの自動思考は、いくつかの決まった「型」をとりがちです。代表的な6パターンにA〜Fのラベルをつけました。自分の考えに「あ、いつものCだ」とラベルを貼れるようになると、考えと距離をとりやすくなります。あとの記入例で、実際にどのクセが出ているかを確かめます。
| クセ | 特徴と例 |
|---|---|
| A 白黒思考 | 完璧か失敗か、0か100かで考える。「ミスした=全部だめ」 |
| B 過度の一般化 | 一度の出来事を「いつも」「みんな」に広げる。「また失敗。私は何をやってもだめ」 |
| C 結論の飛躍 | 根拠がうすいまま、先読み・深読みして決めつける。「きっと嫌われた」「どうせ失敗する」 |
| D べき思考 | 「〜すべき」「〜でなければ」で自分や人を縛る。「母親なら完璧にこなすべき」 |
| E 感情的決めつけ | 感情を根拠に事実を判断する。「不安だから、きっと危険だ」 |
| F 自己関連づけ | 悪いことを何でも自分のせいにする。「空気が悪いのは私のせいだ」 |
クセがあること自体は、誰にでもある自然なことです。なくすことではなく、「気づく」ことが第一歩です。
5STEP 2:④根拠と⑤反証 — 事実を集める
○をつけた自動思考について、「裁判」のように両方の側から事実を集めます。ここがコラム法の心臓部です。
| ④ 根拠 その考えを裏づける事実 |
実際にあった出来事だけを書きます。「〜な気がする」は事実ではないので含めません。 |
|---|---|
| ⑤ 反証 その考えと合わない事実 |
「見落としている事実はない?」「他の説明は考えられない?」「親しい友人なら何と言ってくれそう?」と自分に問いかけて探します。 |
⑤反証が思いつかないときが、いちばんの頑張りどころです。1つでも見つかれば十分。どうしても出てこないときは、③まで書いた状態で持ってきてください。診察で一緒に探しましょう。
6STEP 3:⑥適応的思考と⑦ふり返り
④と⑤の両方の事実をふまえて、現実的でバランスのよい「もう一つの見方」をつくります。
つくり方の型:「たしかに④。でも⑤。だから……」
例:「たしかに返信は遅い。でも上司は出張中で、以前も多忙で遅れたことがあった。だから、低評価とは限らない。気になるなら確認すればよい」
うまく言葉が出ないときは、「同じ状況で悩んでいる親しい友人に、自分なら何と声をかけるか」を想像してみてください(友人テスト)。その言葉が、そのまま⑥のヒントになります。
「不安が消える考え」でなくて大丈夫です。少しでも現実に近く、少しでも楽になる見方であれば合格です。
⑦ 今の気分(%) — 効果をふり返る
最後に、②で書いた気分をもう一度0〜100%で測ります。少しでも下がっていれば成功です。変わらなかったとしても、書くこと自体が観察の練習になっており、無駄にはなりません。
7記入例3つ(考え方のクセ判定つき)
場面の異なる3つの記入例です。各例の③自動思考が、第4章のA〜Fのどのクセに当たるかも示しました。
記入例1:仕事 — メールの返信が来ない
| ① 状況 | 月曜に送った報告メールに、水曜夕方になっても返信がない |
|---|---|
| ② 気分(%) | 不安 80%/落ち込み 60% |
| ③ 自動思考 | 「仕事ぶりに失望されたに違いない」 |
| ▶ どのクセ? | C 結論の飛躍 — 根拠がうすいまま、相手の心を深読みして決めつけている(読心) |
| ④ 根拠 | いつもは翌日までに返信が来る |
| ⑤ 反証 | 上司は今週出張中/以前も多忙で遅れたことがある/問題があれば直接呼ばれるはず |
| ⑥ 適応的思考 | たしかに遅い。でも出張や多忙の可能性が高い。低評価とは限らない。気になるなら確認すればよい |
| ⑦ 今の気分(%) | 不安 40%/落ち込み 25% |
記入例2:対人 — あいさつが返ってこなかった
| ① 状況 | 出勤時に同僚へ「おはよう」と言ったが、返事がなく通り過ぎた |
|---|---|
| ② 気分(%) | 悲しみ 70%/不安 60% |
| ③ 自動思考 | 「私、何か怒らせた?」「どうせ私はいつも人に嫌われる」 |
| ▶ どのクセ? | F 自己関連づけ — 相手の行動の原因を自分に引きつけている B 過度の一般化 — 一度の出来事を「いつも嫌われる」に広げている |
| ④ 根拠 | 返事がなかったのは事実/先週の飲み会に誘われなかった |
| ⑤ 反証 | 同僚はイヤホンをしていた/午後の会議では普通に話しかけてきた/別の友人とは良好な関係が続いている |
| ⑥ 適応的思考 | 聞こえなかった可能性が高い。仮に機嫌が悪くても、原因が私とは限らないし、「いつも嫌われる」は事実に合わない |
| ⑦ 今の気分(%) | 悲しみ 30%/不安 25% |
記入例3:自分への評価 — 資料に1か所ミス
| ① 状況 | 30ページの資料のうち1か所の誤字を指摘され、修正して再提出した |
|---|---|
| ② 気分(%) | 恥ずかしさ 85%/落ち込み 70% |
| ③ 自動思考 | 「完璧にできなければ意味がない」「こんなミスをする自分は社会人失格だ」 |
| ▶ どのクセ? | A 白黒思考 — 1つのミスで全体を「失格」と判定している D べき思考 — 「完璧にすべき」と自分を縛っている |
| ④ 根拠 | 誤字があったのは事実/確認が不十分だった |
| ⑤ 反証 | 残りの内容は「分かりやすい」と言われた/誰でも誤字はある/過去の資料は問題なく使われている |
| ⑥ 適応的思考 | ミスは1か所で、すぐ直せた。資料全体の価値が消えるわけではない。次はダブルチェックを入れればよい |
| ⑦ 今の気分(%) | 恥ずかしさ 40%/落ち込み 30% |
※3例とも、⑦で気分が「0」にはなっていない点にご注目ください。気分を消すのではなく、強さをやわらげるのがコラム法の現実的なゴールです。効果のあらわれ方には個人差があります。
8うまくいかないときのヒント
| 気分が数字にできない | 「だいたい」で大丈夫です。「半分より強い?弱い?」から始めると決めやすくなります。 |
|---|---|
| 自動思考が思い出せない | つらくなった「その場」でスマホ等に短くメモするか、場面を頭の中でゆっくり再生してみましょう。 |
| 反証がまったく出てこない | 「親しい友人なら何と言う?」と考えるのが近道です。出なければ③までで止めてOK。診察で一緒に探します。 |
| 書いても気分が変わらない | 正常な反応です。コラム法は1回で変える技術ではなく、繰り返して効いてくる「筋トレ」のようなもの。書けたこと自体が前進です。 |
大切な注意:つらさが強いとき、一人で抱えきれないと感じるときは、無理に書こうとせず、まず受診してください。コラム法は治療を補助する道具であり、つらいときに「ひとりで頑張るための課題」ではありません。
9続けるコツ — 無理なく習慣にする
| 週1〜2枚から | 毎日でなくて大丈夫。心が動いた場面があった日に1枚、5〜15分が目安です。 |
|---|---|
| 書く時間を決める | 「夕食後」など、タイミングを決めると続きやすくなります。気持ちが高ぶる場合は、就寝直前は避けるのも一案です。 |
| 診察に持ってくる | 書けたところまでで大丈夫です。一緒にふり返ると、上達がぐっと早くなります。 |
上達のサインは、「書くスピードが上がる → 書く前に頭の中で⑥が浮かぶようになる → 書かなくても気持ちを立て直せる」という流れです。焦らず、ご自身のペースで進みましょう。
10当院でのサポート
当院の院長は、厚生労働省が指定する認知行動療法の研修を修了しています。日常の外来診療では、認知行動療法の考え方を背景とした精神療法(短時間の簡易的な認知行動療法)を中心に、コラム法のワークシートをホームワークとして活用しながら診療を進めることが多くなっています。
「診察でお困りの場面を一緒に整理する → ご自宅でワークシートに取り組む → 次の診察で一緒にふり返る」というサイクル自体が、繰り返すうちにご自身の対処スキルになっていきます。書けたところまでで構いませんので、ぜひ診察にお持ちください。
※どのような進め方が適しているかは、お一人おひとりの状態によって異なります。診察のなかでご相談ください。
11ワークシート(ダウンロード)
この記事の内容にそのまま対応したワークシートです(PDF・A4・印刷してお使いいただけます)。はじめての方は「3つのコラム」からどうぞ。
そのほかのワークシート(活動記録表・睡眠日誌・問題解決シート)は、前回の記事からダウンロードできます。
※これらのシートは治療を補助するツールであり、診断や治療効果を保証するものではありません。
12よくあるご質問(FAQ)
ひとりで考え込んでしまう毎日を、変えていきませんか?
神楽坂メンタルクリニックは、神楽坂駅 1b出口より徒歩1分以内。
コラム法の進め方も、診察のなかで一緒にふり返りながらサポートします。
参考文献・出典
- 厚生労働省「うつ病の認知療法・認知行動療法 治療者用マニュアル」https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/kokoro/dl/01.pdf
- 厚生労働省「うつ病の認知療法・認知行動療法(患者さんのための資料)」https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/kokoro/dl/04.pdf
- 日本認知療法・認知行動療法学会「認知行動療法の共通基盤マニュアル」https://jact.jp/manual/
- 厚生労働省 認知行動療法研修事業(国立精神・神経医療研究センター)https://mhlw-cbt-training.ncnp.go.jp/
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断や個別の治療方針を示すものではありません。症状については医療機関にご相談ください。最終更新:2026年6月
【監修・執筆】永井常高(神楽坂メンタルクリニック院長・精神保健指定医・精神科専門医/指導医)
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