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お酒で攻撃的になるのはなぜ?アルコールと怒りの関係を精神科医が解説

「ふだんは穏やかなのに、お酒が入ると人が変わってしまう」。ご家族からこうしたご相談をいただくことは少なくありません。また、ご本人から「酔うと言い過ぎてしまい、翌朝に後悔する」と打ち明けられることもあります。

飲酒後の怒りやすさは、単に「性格」や「本音」の問題として片づけられがちです。しかし精神科の視点で整理すると、そこには脳の働きの変化という説明可能な仕組みがあり、治療や対応の工夫によって変えていける部分があります。

この記事では、お酒(アルコール)と攻撃性の関係について、公的機関の資料や国内外の研究をもとに整理します。あわせて、ご家族が安全を守るための考え方と、相談先についてもご案内します。なお、アルコール依存症そのものの症状・診断・治療の全体像については、解説ページ「アルコール依存症」で詳しくご説明しています。本記事は、そのなかでも「怒り・攻撃性」というテーマに焦点を絞った内容です。

この記事の要点

・お酒は理性のブレーキ役である前頭前野の働きを弱め、怒りや衝動が抑えにくくなります。

・酔って問題を起こすこと(いわゆる酒乱)と、アルコール依存症は別の概念です。両方が重なることもあります。

・攻撃性は酔っている時間だけでなく、お酒が切れてくる時間帯にも現れることがあります。

・ご家族はまず安全の確保を優先してください。説得は、酔いがさめてからです。

目次(タップで移動します)

1. 結論:お酒は「性格」を変えるのではなく、脳のブレーキを弱めます

2. 「酒乱」と「アルコール依存症」は同じではありません

3. 理由① 理性のブレーキ(前頭前野)が弱まる

4. 理由② 視野が狭くなり、目の前の刺激に反応しやすくなる

5. 理由③ お酒が切れてくる時間帯のいらだち(離脱症状)

6. 理由④ もともとの傾向・体質・重なっている不調

7. 酔い方には種類があります(単純酩酊・複雑酩酊・病的酩酊)

8. 飲酒と暴力について、わかっていることと、わかっていないこと

9. ご家族へ:まず安全を確保してください

10. 落ち着いて向き合うための対応のコツ

11. 治療でできること(断酒・飲酒量低減・心理社会的治療)

12. 受診・相談の目安

13. よくあるご質問

1. 結論:お酒は「性格」を変えるのではなく、脳のブレーキを弱めます

飲酒後に怒りっぽくなるのは、隠れていた本性が出るからではなく、アルコールが脳の抑制機能に働きかけた結果と考えられています。私たちの脳では、前頭前野(額のうしろあたりにある領域)が、怒りや衝動にブレーキをかける役割を担っています。アルコールはこの領域の働きを一時的に弱めます。

その結果、しらふであれば飲み込めていた小さないら立ちが、そのまま言葉や態度に出やすくなります。厚生労働省の飲酒ガイドラインでも、過度な飲酒の「行動面のリスク」として、飲酒後に適切ではない行動をとることによる他人とのトラブルや暴力行為などが挙げられています。

ただし、これは「お酒のせいだから仕方がない」という免責を意味しません。むしろ逆で、仕組みがわかっているからこそ、介入できる余地があるという意味になります。飲酒量そのものへの働きかけ、背景にあるつらさへの対応、環境の調整といった具体的な手立てが考えられます。

押さえておきたい点
攻撃性は「意志の弱さ」の証拠ではありません。厚生労働省は、依存症を本人のこころの弱さに起因する現象ではなく、脳の変化によって症状が引き起こされる病気のひとつと位置づけています。

2. 「酒乱」と「アルコール依存症」は同じではありません

ここは誤解が生じやすいところなので、先に整理しておきます。厚生労働省 e-ヘルスネットは、アルコール依存症と、酔ったときに問題を起こすこととは異なるものであり、後者は「酒乱」であって依存症とは違うと明記しています。たまにしか飲まない人が酔って問題を起こしても、それは依存症とは言えません。逆に、酔って周囲に迷惑をかけていなくても、飲酒をコントロールできなければ依存症にあたります。

同資料は、むしろ多くのアルコール依存症の方は静かに飲んでいるとも述べています。「暴れないから依存症ではない」という判断は成り立たない、ということです。

観点 いわゆる「酒乱」 アルコール依存症
中心となる問題 酔ったときの言動(興奮・暴言・暴力など) 飲酒のコントロールがきかなくなること
飲酒の頻度 ときどきの飲酒でも起こりうる 習慣的な飲酒の積み重ねが背景にある
気づかれ方 周囲が気づきやすい 静かに進むため気づかれにくいことがある
両者の関係 別の概念ですが、重なることもあります。依存症の方に暴力の問題がしばしばみられることも報告されています。

つまり「攻撃的になるかどうか」と「依存症かどうか」は、それぞれ別に評価する必要があります。診察では、この二つを分けて確認していきます。

依存症の側の症状、すなわちコントロール障害・渇望・耐性・離脱症状・問題の否認といった特徴については、解説ページ「アルコール依存症」の「主な症状」で詳しく整理しています。ご自身やご家族に当てはまる点がないか、あわせてご確認ください。

3. 理由① 理性のブレーキ(前頭前野)が弱まる

ここからは、飲酒後に攻撃的になりやすい理由を順に見ていきます。理由はひとつではなく、いくつかの働きが重なって生じると考えられています。

アルコールと攻撃性をつなぐ「実行機能」の低下

アルコールと攻撃性の関係を説明する枠組みとして、実行機能(計画を立てる、注意を配る、衝動を抑える、自分の言動を振り返るといった脳の高次の働き)の低下が両者をつなぐという考え方が知られています。急性のアルコール摂取が前頭前野の機能を妨げ、その結果として攻撃行動が出やすくなるという整理です。

実際、飲酒後には注意の制御、計画、切り替え、反応の抑制といった前頭前野が関わる能力が落ちることが報告されています。また、感情的な表情を見ているときに、扁桃体(恐怖や怒りの反応に関わる部位)と前頭前野の連携が弱まることを示した研究もあります。感情のアクセルは踏まれたまま、ブレーキだけがゆるむというイメージに近い状態です。

同じ量を飲んでも反応に差が出る理由

この枠組みでは、しらふのときの実行機能に個人差があることが、飲酒による影響の出やすさを左右すると考えられています。もともと衝動を抑える力に負担がかかりやすい方では、同じ量の飲酒でも攻撃性が出やすい、という説明になります。

なお、長期にわたる多量飲酒そのものが前頭前野の働きに影響することも指摘されています。この場合、しらふのときの衝動コントロールも下がりやすく、悪循環が生じ得ます。「以前より短気になった」という変化は、こうした背景から生じている可能性があります。

4. 理由② 視野が狭くなり、目の前の刺激に反応しやすくなる

飲酒すると、注意を向けられる範囲が狭くなります。心理学では「アルコール・マイオピア(近視)」と呼ばれる現象で、目の前の際立った手がかりに注意が集中し、そこから離れた情報が視野から抜け落ちる状態を指します。

攻撃性という観点では、これは次のような形で現れます。

起こること 具体的なあらわれ方
挑発的な手がかりが目立つ 相手の何気ない一言や表情に、強く反応してしまいます。
抑制的な手がかりが届かない 「あとで後悔する」「関係が壊れる」といった先の見通しが、その場では考慮されにくくなります。
相手の意図を読み違える 悪気のない言動を、責められた・けなされたと受け取りやすくなります。

この理解は実務的にも役立ちます。1996年に報告された研究の統合分析では、アルコールと攻撃性の関係が、抑制のはたらく手がかりの有無や、きっかけとなる出来事の性質によって変わりうることが示されています。裏を返せば、刺激そのものを減らせば、結果も変わりうるということです。酔っているときに議論を持ち込まない、という後述の対応が意味を持つのは、このためです。

5. 理由③ お酒が切れてくる時間帯のいらだち(離脱症状)

見落とされやすいのがこの点です。攻撃性が現れるのは、酔っている時間帯だけではありません。

習慣的な多量飲酒が続くと、身体依存が形成され、お酒が体から抜けてくるときに離脱症状が現れるようになります。厚生労働省 e-ヘルスネットは、代表的な離脱症状として、不眠・発汗・手のふるえ・血圧の上昇・不安・いらいら感などを挙げており、重症の場合は幻覚やけいれん発作が起こることもあるとしています。

つまり、「飲んでいないのに機嫌が悪い」時間帯こそ、離脱による過敏な状態である可能性があります。早い離脱症状は最後の飲酒から数時間で出はじめることがあり、この不快感から逃れるためにまた飲む、という悪循環が生じます。

注意していただきたいこと
飲酒を中断して2〜3日たってから、幻視や見当識の障害(自分のいる場所や時間がわからなくなること)、強い興奮、発熱などが現れることがあります。こうした状態は身体的に危険を伴うため、自宅で様子を見るのではなく、すぐに医療機関に相談してください。とくに長期にわたり多量に飲んでいた方が急に飲酒をやめる場合は、自己判断ではなく医療者と相談しながら進めることが望まれます。
離脱症状の軽い段階から重い段階までの詳しい説明は、解説ページ「アルコール依存症」の「主な症状」をご覧ください。

6. 理由④ もともとの傾向・体質・重なっている不調

同じ量を飲んでも、攻撃性の出やすさには個人差があります。背景としていくつかの要素が指摘されています。

神経伝達物質のはたらき

衝動的な攻撃性とセロトニン系のはたらきの関連は、以前から研究されてきたテーマです。動物実験では、アルコールに関連した攻撃性が、前頭前野におけるセロトニンの放出の変化と関連することが報告されています。またドパミンD2受容体の量が衝動性に関わることも指摘されています。

ただし、これらはまだ研究の途上にある領域です。「ある物質が足りないから怒りやすい」といった単純な図式で説明できるものではなく、ひとつの要素として理解しておくのが適切です。

重なっている不調・つらさ

不安、抑うつ、不眠、慢性的なストレス、生活上の孤立などは、飲酒量を増やす方向にも、いらだちを強める方向にも働きます。厚生労働省の飲酒ガイドラインは、避けるべき飲酒として不安や不眠を解消するための飲酒を明示的に挙げており、不安を消すための飲酒を続けることが依存症の可能性を高めたり、眠りが浅くなって睡眠リズムを乱すことにつながると説明しています。

診察では、飲酒行動だけを切り離して見るのではなく、その方が何をしのぐために飲んでいるのかを一緒に整理していきます。ここが、単に「やめましょう」と伝えるだけでは動かない部分です。

体質と飲む量

アルコールを分解する酵素のはたらきには、個人差があります。同ガイドラインによれば、東アジアではこの酵素が弱く、飲酒により顔が赤くなるなどの反応(フラッシング反応)を起こす方が一定数存在し、日本では41%程度とされています。体質的に影響を受けやすい方では、より少ない量でも影響が出ます。

また、飲む量そのものが重要です。同ガイドラインは、1回の飲酒機会で純アルコール60g以上の「一時多量飲酒」が外傷の危険性も高めるため避けるべきとしています。純アルコール量は次の式で計算できます。

純アルコール量の計算式

摂取量(ml)× アルコール度数 ÷ 100 × 0.8

例:ビール500ml(5%)→ 500 × 0.05 × 0.8 = 20g

なお同ガイドラインは、生活習慣病のリスクを高める量として1日当たり純アルコール男性40g以上・女性20g以上という数値を示していますが、これは個々人の許容量を示したものではないと明記しています。「この量までなら大丈夫」という読み方はできません。

7. 酔い方には種類があります(単純酩酊・複雑酩酊・病的酩酊)

精神医学では、酔いの状態(酩酊)を分類して考えます。Binderによる三分法が古くから用いられており、通常の酔いである単純酩酊と、通常とは異なる異常酩酊に分け、異常酩酊をさらに複雑酩酊病的酩酊に分けます。

分類 特徴
単純酩酊 飲んだ量に見合った、通常の酔いです。抑えがきかなくなる程度は、一般的な範囲にとどまります。
複雑酩酊 気分が易刺激的(刺激に対して過敏で怒りやすい状態)になり、著しい興奮が比較的長く続きます。短絡的・暴発的になることがありますが、状況の理解(見当識)は保たれ、行動には一応のまとまりがあるとされます。世間で「酒癖が悪い」と言われる状態の多くがここに含まれます。
病的酩酊 飲酒量が少なく血中濃度が低くても、記憶が失われ、見当識が障害されます。不安や興奮が強く、ときに幻覚妄想状態を伴い、周囲に理解できない突発的な行動に至ることがあります。まれな状態で、そのしくみの多くは明らかになっていません。

依存症対策の公的資料によれば、異常酩酊にはアルコール依存症や脳の器質的な障害などが関連していると考えられており、繰り返して起きることが多く、断酒が必要になるとされています。

「毎回この程度で、この人の場合はこう荒れる」というパターンがある場合、それは偶発的な出来事ではなく、評価すべき臨床的な特徴です。診察でその見極めをすることが、対応方針を決めるうえで重要になります。

8. 飲酒と暴力について、わかっていることと、わかっていないこと

この領域は、慎重に扱う必要があります。厚生労働省 e-ヘルスネットの解説をもとに整理します。

報告されていること

同資料は、飲酒により暴力が増加する背景として、飲酒・酩酊により攻撃性が増すという直接的な影響と、習慣的な飲酒によるアルコール乱用や依存症といった疾病からくる間接的な影響の二つを挙げています。

家庭内暴力については、刑事処分を受けるほどの事件例で犯行時の飲酒が67.2%に達したという報告が紹介されており、激しい暴力においては飲酒との相関がより強いとされています。また同資料は、アルコール依存症の方では一般人口に比べて暴力の問題が頻繁にみられ、断酒後には激減することから、依存症のレベルでは飲酒と暴力の関連が明確といえると述べています。

希望をもてる部分
「断酒後には激減する」という点は、この問題に取り組む意味を示しています。攻撃性は固定した性質ではなく、飲酒への働きかけによって変わりうる部分がある、ということです。ただし、変化の程度や道のりには個人差があります。

まだ明らかでないこと

一方で同資料は、家庭内暴力の原因は飲酒だけではなく、夫婦関係や生活歴などさまざまな要因が関与しており、飲酒と家庭内暴力の因果関係は非常に複雑で、いまだよくわかっていないとも明記しています。

ここは大切な点です。「お酒をやめれば必ず解決する」とも、「お酒が原因のすべてだ」とも言えません。飲酒への対応は重要な一要素ですが、それだけで完結しないケースもあります。同資料は、アルコール問題を抱える方が家族から暴力を受ける場合もあり、とくに女性のアルコール依存症の方は家族からの暴力を受けやすいことにも触れています。暴力の向きは一方向とは限りません。

9. ご家族へ:まず安全を確保してください

ここからは実際の対応です。もっとも大切な原則を先にお伝えします。酔って興奮しているときは、説得よりも安全の確保が先です。

身の危険を感じるときは、我慢しないでください

・その場から離れ、別の部屋や屋外へ移動してください。お子さんがいる場合は、先に安全な場所へ。

・危険が差し迫っているときは、ためらわず110番に通報してかまいません。家族だからと耐える必要はありません。

・けがや意識の変化がある場合は、救急(119番)を利用してください。

相談できる窓口

ご家族だけで抱え込む必要はありません。以下はいずれも公的な窓口です。

窓口 連絡先・内容
こころの健康相談統一ダイヤル
(厚生労働省)
0570-064-556
かけた所在地の公的な相談機関につながります。対応の曜日・時間は自治体により異なります。
DV相談+(内閣府) 0120-279-889
24時間受付。チャットやメールでの相談にも対応しています。
DV相談ナビ(内閣府) #8008
最寄りの配偶者暴力相談支援センターにつながります。
東京都立中部総合精神保健福祉センター 03-3302-7711
新宿区を含む10区を管轄する依存症相談拠点です。ご本人向けプログラムや家族向け講座も行われています。
新宿区 牛込保健センター 03-3260-6231
神楽坂周辺を担当する区の窓口です。地区担当の保健師に相談できます。
アラノン家族グループ 045-642-8777
お酒の問題を抱える方のご家族・身近な方のための自助グループです。

※ 電話番号や受付時間は変更されることがあります。ご利用の際は各機関の案内をご確認ください。

専門的な治療を行っている医療機関

入院を含む集中的な治療や、専門プログラムによる治療が必要な場合には、以下のような医療機関があります。当院からのご紹介も可能です。

医療機関 所在地・特徴
久里浜医療センター 神奈川県横須賀市。国立病院機構の医療機関で、アルコール科を設置し、入院・外来のプログラムを実施しています。アルコール依存外来の初診は完全予約制です。
東京都立松沢病院 東京都世田谷区。アルコール依存症回復プログラムを実施しています。精神科の専門外来に加えてアルコール内科外来があり、身体面の評価にも対応しています。
井之頭病院 東京都三鷹市。東京都から依存症専門医療機関として選定されています。アルコール専門外来、入院プログラム、デイケア、ご家族向けの集まりがあります。
駒木野病院 東京都八王子市。外来・入院からリハビリ、回復期までを担当部門が継続して関わる体制をとっています。デイケアや家族教室、家族相談も行われています。

※ 受診方法・対象・予約の要否は機関ごとに異なります。受診をご検討の際は、各機関の案内をご確認ください。お住まいの地域の医療機関をお探しの場合は、全国の依存症医療機関・回復施設リストや、東京都の依存症専門医療機関の選定情報も参考になります。

10. 落ち着いて向き合うための対応のコツ

安全が確保されている前提で、日常の対応について整理します。前半で述べた「視野が狭くなる」という仕組みを踏まえると、なぜこうした工夫が意味をもつのかが見えてきます。ここでは怒り・攻撃性への対応にしぼってお伝えします。

つい やってしまいがちなこと 試していただきたい対応
酔っているその場で説得しようとする 興奮しているときは反応せず、まず距離をとります
大声で言い返す・にらみ合う 刺激を増やさず、静かな環境を保ちます
過去のことを持ち出して責める 大事な話は、酔いがさめた時間帯にひとつだけ扱います
「今度こそやめて」と約束を迫る 「私は怖かった」と、自分を主語にして伝えます
失敗の後始末をすべて肩代わりする 起きた結果は本人が引き受けられるようにし、相談先につなぎます

ご家族の対応をもっと詳しく:CRAFTというプログラム

上の表でお示しした工夫は、CRAFT(クラフト)と呼ばれる、ご家族向けの科学的根拠にもとづくプログラムの考え方と重なります。CRAFTは、治療を嫌がるご本人を無理に変えようとするのではなく、周囲の関わり方を変えることで、ご本人が自ら動きだすきっかけをつくるアプローチです。

よい関わり方が逆効果になってしまう「手助けのしすぎ(イネーブリング)」の具体例、Iメッセージの言い方、治療を勧めるタイミングの見極め方などを、解説ページ「アルコール依存症」の「患者さんへの接し方(ご家族へ・CRAFT)」で例文つきで詳しくご紹介しています。あわせてお読みください。

ご家族自身を守ることも治療の一部です

ご家族が疲れ切ってしまうと、対応を続けることができません。ご自身のための時間を確保すること、同じ立場の方の集まりや相談窓口を利用すること、必要なときには一時的に距離をとることは、いずれも見捨てることではなく、状況を維持するための現実的な選択です。

また、酔ったときの言動は、ご家族の関わり方が招いたものではありません。防げなかったことについて、ご自身を責める必要はありません。

11. 治療でできること(断酒・飲酒量低減・心理社会的治療)

近年、アルコールの問題に対する治療の考え方は広がっています。以前は「まず断酒」の一択に近い時期もありましたが、現在は状況に応じた選択肢が整理されています。ここでは攻撃性との関わりを中心にご説明します。治療全体の流れ(心理社会的治療・薬物療法・自助グループの3つの柱)については、解説ページ「アルコール依存症」の「主な治療法(断酒・減酒)」をご覧ください。

治療目標の考え方

2018年に作成された「新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン」に基づく手引きでは、アルコール依存症の治療目標として継続した断酒が最も安定かつ完全な目標とされています。そのうえで、軽症で明確な合併症がない場合などには、飲酒量低減(減酒)も目標になりうると整理されています。

重要なのは、この選択が「どちらでもよい」という意味ではないことです。同手引きでは、重篤な合併症や深刻な家族・社会的問題がある場合、あるいは緊急の治療を要する離脱症状がある場合などには、治療目標は断酒とすべきとされています。

攻撃性・暴力がある場合の位置づけ
飲酒に伴う暴力は、ご家族の安全に直結する深刻な問題です。減酒か断酒かという判断は、こうした問題の重さを含めて個別に検討する必要があり、一律に決められるものではありません。診察のなかで、ご本人とご家族の状況をうかがいながら方針を決めていきます。

治療の中心は心理社会的な取り組みです

同手引きは、断酒であれ飲酒量低減であれ、治療の主体は心理社会的治療であり、薬物治療は補助的な役割を担うとしています。具体的には、ご本人が依存症という病気について学び、治療の意義を理解し、ご自身のペースでお酒に対する考え方や飲み方を見直していく過程を、医療者が支えていく形になります。

攻撃性という観点からは、次のような取り組みが関わってきます。

取り組み ねらい
飲酒行動の見直し 飲みたくなる引き金や場面を把握し、量・場面・タイミングを調整していきます。飲む量が下がれば、脳の抑制機能への影響も小さくなります。
背景にあるつらさへの対応 不安・抑うつ・不眠などが重なっている場合、そこに対応することで飲酒の必要性そのものが下がることがあります。
感情への対処の練習 いら立ちが高まる場面での距離のとり方や、考え方の切り替えを一緒に整理していきます。
環境と関係の調整 ご家族の安全確保、相談先や自助グループとのつながりづくり、必要に応じた専門医療機関との連携を行います。
薬物療法(補助的) 飲酒欲求や飲酒量に働きかける薬などがあり、状態に応じて医師が適応を判断します。効果や適否には個人差があり、単独で完結する治療ではありません。薬の種類と特徴は「精神科の薬物療法」で解説しています。

なお、重い離脱症状の管理や、入院による集中的な治療が必要な状態では、依存症の専門医療機関での対応が適切です。当院では、まず状態を評価し、必要に応じてそうした医療機関へのご紹介を行います。

12. 受診・相談の目安

以下は診断ではなく、相談を考えていただくきっかけとしてお読みください。あてはまる項目があれば、一度ご相談いただくことをおすすめします。

・お酒が入ると人が変わったようになり、ご家族が怖いと感じることがある

・翌朝、酔っていたときのことを思い出せないことがある

・減らそう・やめようと思っても、うまくいかない

・飲んでいない時間帯に、手のふるえ・寝汗・いらいら・不眠がある

・不安や不眠をしのぐために飲むことが習慣になっている

・お酒が原因で、家庭や職場でトラブルが生じている

・ご家族が、我慢や後始末で疲れ切っている

なお、飲酒習慣を把握する方法として、世界保健機関(WHO)が作成したスクリーニングテストであるAUDITが知られています。厚生労働省の飲酒ガイドラインでも、自らの飲酒の習慣を把握する方法のひとつとして挙げられています。ただし、こうしたテストの結果は診断ではありません。受診を考える目安としてご活用ください。当院での問診・スクリーニング・血液検査の流れは、解説ページ「アルコール依存症」の「診断の流れ」でご確認いただけます。

つらい気持ちが強いときは
お酒の問題は、気分の落ち込みや「消えてしまいたい」という気持ちと重なることがあります。おひとりで抱えず、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)などの窓口もご利用ください。緊急のときは119番をご利用ください。

当院での対応について

当院は新宿区神楽坂の精神科・心療内科です。飲酒に関するご相談では、飲酒の状況、離脱症状の有無、酔い方のパターン、背景にある不安や不眠、ご家族の安全といった点を順に確認し、方針を一緒に整理していきます。必要な場合は血液検査による身体面の確認や、専門医療機関・地域の相談機関との連携も行います。

当院で行っている診断・治療の具体的な内容は、解説ページ「アルコール依存症」の「当院でできること」にまとめています。ご本人だけでなく、ご家族からのご相談も承っています。なお当院は無床診療所のため、重い離脱症状や入院が必要な場合は、適切な専門医療機関と連携・ご紹介します。

はじめて受診される方は「初めての方へ」、ご予約の方法は「Web予約のご案内」をご覧ください。

ご予約はこちら(オンライン予約)

お電話でのお問い合わせ:03-5579-8290(電話対応:診療時間内)
神楽坂駅 1b出口より徒歩1分以内/精神科・心療内科

13. よくあるご質問

Q1. 酔ったときの暴言は、本音なのでしょうか?

「隠していた本心が出た」と受け取られがちですが、飲酒時の言動は、脳の抑制機能が一時的に弱まった状態で生じたものです。ふだんは言葉になる前に整理されている断片が、そのまま出てしまうことがあります。したがって、その内容をそのまま本心として受け取る必要はありません。ただし、傷ついたという事実は変わりません。その点は、さめてから伝えていただいてよいことです。

Q2. 飲むと怒りっぽくなりますが、量は多くありません。それでも受診の対象になりますか?

はい、ご相談の対象になります。酔って問題が生じることと、アルコール依存症は別の概念です。量が多くない場合でも、酔い方のパターンに評価すべき特徴があることや、背景に不安・不眠などが隠れていることがあります。「依存症ではないから相談できない」ということはありません。

Q3. 本人が受診したがりません。家族はどうすればよいでしょうか?

よくあるご相談です。まずはご家族だけで相談先につながることをおすすめします。地域の精神保健福祉センターや保健センターでは家族向けの相談を受け付けており、ご家族の自助グループもあります。受診をめぐるやりとりは、酔っていない落ち着いた時間帯に、責める形ではなく心配を伝える形で行うほうが届きやすい傾向があります。あわせて、ご家族自身の安全確保を優先してください。なお、治療を嫌がる段階でご家族にできる具体的な関わり方としてCRAFTというプログラムがあり、解説ページ「アルコール依存症」で例文つきでご紹介しています。

Q4. お酒をやめれば、怒りやすさは落ち着きますか?

厚生労働省の資料では、アルコール依存症の方において暴力の問題が断酒後に激減することが述べられており、飲酒への働きかけには意味があると考えられます。一方で同資料は、家庭内暴力の背景には夫婦関係や生活歴などさまざまな要因が関与し、因果関係は複雑でいまだよくわかっていないとも述べています。変化の程度や道のりには個人差があり、飲酒以外の要因への対応が必要な場合もあります。

Q5. 減酒でもよいと聞きましたが、暴力がある場合も減酒から始められますか?

飲酒量低減という選択肢はありますが、誰にでも当てはまるものではありません。ガイドラインに基づく手引きでは、深刻な家族・社会的問題がある場合などには治療目標を断酒とすべきとされています。飲酒に伴う暴力はご家族の安全に直結するため、この点を含めて個別に検討する必要があります。診察でご状況をうかがったうえで、方針をご相談させてください。

あわせてお読みいただきたいページ

アルコール依存症(アルコール使用障害)
症状・原因・診断の流れ・断酒と減酒・自助グループ・ご家族の対応(CRAFT)まで、全体像をまとめた解説ページです。

アルコール依存症(専門編)
診断基準や病態、最新の研究動向など、より専門的な内容をお読みになりたい方へ。

精神科の薬物療法(アルコール依存症治療薬)
飲酒欲求を抑える薬、飲酒量を減らす薬などの種類と特徴を解説しています。

こころの病い(病名から探す)
うつ病・不安症・睡眠障害など、背景として重なりやすい疾患の解説ページはこちらから。

おわりに

「お酒が入ると人が変わる」という現象には、脳の抑制機能、注意の狭まり、離脱による過敏さ、もともとの傾向や重なっている不調といった、複数の説明可能な要素が関わっています。性格の問題として片づけてしまうと、対応の糸口が見えなくなります。

一方で、飲酒と暴力の関係についてはまだ明らかでない部分も残されており、「お酒をやめれば必ずすべて解決する」と申し上げることはできません。だからこそ、状況を分けて評価し、優先順位をつけて取り組んでいくことが大切になります。まずはご家族の安全を守ること、そして早めにご相談いただくことが、その第一歩になります。

あわせて読みたい当院の解説ページ

アルコール依存症(アルコール使用障害) 症状・診断・治療・ご家族の対応(CRAFT)まで

アルコール依存症[専門編] 診断基準・病態・最新の研究動向

精神科の薬物療法:アルコール依存症治療薬

こころの病い(病名から探す)

参考文献・出典

1. 厚生労働省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」(2024年2月)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_38541.html

2. 厚生労働省 e-ヘルスネット「飲酒と暴力」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-06-005.html

3. 厚生労働省 e-ヘルスネット「アルコールと依存」(木村充・久里浜医療センター)
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/alcohol/a-05-001.html

4. 新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン作成委員会監修「新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドラインに基づいたアルコール依存症の診断治療の手引き 第1版」(2018年12月、日本アルコール関連問題学会・日本アルコール・アディクション医学会)
https://www.j-arukanren.com/

5. 依存症対策全国センター(国立病院機構久里浜医療センター)「アルコールの基礎知識」
https://www.japan-addiction.jp/

6. Heinz AJ, Beck A, Meyer-Lindenberg A, Sterzer P, Heinz A. Cognitive and neurobiological mechanisms of alcohol-related aggression. Nat Rev Neurosci. 2011;12(7):400-413.

7. Giancola PR. Executive functioning: a conceptual framework for alcohol-related aggression. Exp Clin Psychopharmacol. 2000;8(4):576-597.

8. Ito TA, Miller N, Pollock VE. Alcohol and aggression: a meta-analysis on the moderating effects of inhibitory cues, triggering events, and self-focused attention. Psychol Bull. 1996;120(1):60-82.

9. 内閣府男女共同参画局「DV相談について」
https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/dv_navi/index.html

10. 東京都福祉局「東京都立中部総合精神保健福祉センター」
https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/shisetsu/jigyosyo/chusou

※ 本記事は一般的な医学情報の提供を目的としたものであり、個別の診断や治療方針を示すものではありません。症状のあらわれ方や治療の経過には個人差があります。ご自身やご家族の状態については、医師にご相談ください。

【監修・執筆】永井常高(神楽坂メンタルクリニック院長・精神保健指定医・精神科専門医/指導医)

永井 常高

永井 常高

熊本大学卒 慶應義塾大学医学部精神神経科教室 精神保健指定医(第21030号) 精神科専門医・指導医

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