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PMSに対する漢方薬の使い分け(前回の続き)

前回のブログでは、PMSの概要や注意点を中心に述べました。
今回は臨床現場では漢方薬を使うことが多いので、漢方薬による治療を詳しく述べてみたいと思います。


月経前(生理の3〜10日ほど前)になると、イライラ・落ち込み・不安・眠気などの“こころの症状”や、むくみ・頭痛・腹部膨満・乳房の張りなどの“からだの症状”が出て、生理が始まると軽くなる——これがPMS(月経前症候群)の典型像です。
気分の症状が特に強く、生活や仕事に大きく支障が出る場合はPMDD(月経前不快気分障害)も鑑別になります。

漢方は「PMSの症状が多彩で、ひとつの薬でまとめて整えたい」というニーズと相性がよく、日本の診療指針でも選択肢として位置づけられています(ただし、臨床効果の検証は十分とは言えない、という注意書きも明記されています)。

漢方薬

まず大前提:PMSの“条件”を満たしているか

漢方の前に、ここがズレていると効きません。

  • 症状が「月経前だけ」強く、月経開始後に軽くなる
  • それが2周期以上繰り返す(目安)
  • 体調不良が「常にある」場合は、PMS以外(うつ病、不安症、甲状腺疾患、貧血、睡眠障害など)も検討

おすすめは、スマホのメモでもいいので「症状日誌」をつけること。診断・治療の精度が上がります。


PMSでよく使う漢方:まずは“4本柱”

産婦人科領域の実態調査でも使用頻度が高く、診療指針でも中心的に挙げられているのは次の4つです。

  • 加味逍遙散(かみしょうようさん)
  • 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
  • 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
  • 抑肝散(よくかんさん)/抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)

ここから先は、「どれを選ぶか」を患者さんが自分でも判断しやすいように、症状タイプ別に整理します。


【タイプ別】漢方の使い分け

1)イライラ・気分の波・不眠が目立つ「ストレス型」

第一候補:加味逍遙散

  • 向いている症状:イライラ、焦燥感、涙もろさ、不眠、緊張、頭痛、のぼせっぽさ
  • 体質イメージ:虚〜中間(体力が極端に強いタイプより、消耗しやすいタイプ)
  • 指針でも「不定愁訴の代表処方」とされ、PMDDへの有効性報告(非盲検)が言及されています。
    PMDDのオープン試験では、加味逍遙散を6周期投与して症状改善が報告されています。
加味逍遙散

2)むくみ・冷え・だるさ・めまいが目立つ「水分・冷え型」

第一候補:当帰芍薬散

  • 向いている症状:むくみ、冷え、倦怠感、頭痛、めまい、肩こり、ふらつき
  • 体質イメージ:やせ型・色白・冷えやすい(指針でも「最も虚証タイプ」と説明)
  • PMSは「眠気・だるさ」が主役の人がいます。このタイプに当帰芍薬散がハマることがあります。
当帰芍薬散

3)下腹部の張り・肩こり・のぼせ(冷えのぼせ)・月経痛が目立つ「巡り停滞型」

第一候補:桂枝茯苓丸

  • 向いている症状:下腹部の張り、肩こり、冷えのぼせ、月経痛、頭重感、肌荒れ(周期で悪化)
  • 体質イメージ:中間〜実(ある程度体力がある)
  • 小規模ながらPMSへの有効性検討が報告されています。
  • 指針でも「より実証タイプ」「腹部膨満感にもよい」と整理されています
桂枝茯苓丸

4)怒りっぽい・攻撃的・神経過敏が突出する「易怒性(いどせい)型」

候補:抑肝散/抑肝散加陳皮半夏

  • 向いている症状:怒りっぽさ、ピリピリ、感情の爆発、不眠、緊張
  • 研究:易怒性のPMSを対象に、抑肝散加陳皮半夏でQOL指標が改善した報告があります(前後比較)。
  • 指針でも使用が「考慮」されています。
抑肝散

“便秘が強い+イライラ”がセットの人へ(重要)

このタイプは、桂枝茯苓丸や加味逍遙散だけではいまいちなことがあります。
産婦人科・漢方の現場では 桃核承気湯 が候補に上がります(ただし排便を促す処方なので、自己判断での使用は避けるべきです)。

桃核承気湯

飲み方と「おすすめの投与期間」

漢方は、痛み止めのように“その場で止める薬”ではありません。目安は次の通りです。

  • まず4〜8週間(1〜2周期):効き始めの判断
  • 3周期:その人に合うかを確かめる(症状日誌があると判定が明確)
  • 効いているなら、生活イベント(繁忙期など)も考慮しつつ継続を検討

補足として、月経関連症状に対する漢方は「4〜12週間で改善を期待」とする記載もあります。
また、抑肝散加陳皮半夏の研究では、精神面は1周期後から、身体面は3周期後で改善が示されています。


安全の話:漢方にも“要注意”がある

1)むくみ・血圧上昇・脱力が出たら中止相談(偽アルドステロン症)

多くの漢方に含まれる甘草(かんぞう)が原因で、偽アルドステロン症(高血圧、むくみ、低カリウムなど)が起こり得ます。症状があれば放置せず医師・薬剤師に連絡してください。

2)「複数の漢方」を同時に飲まない

甘草などの生薬が重なり、副作用リスクが上がります(市販薬も含む)。自己判断で漢方薬をブレンドしないようにしましょう。複数の漢方薬を使いたい場合は、必ず医師や薬剤師に相談しましょう。

3)妊娠・授乳、持病、他の薬がある人は必ず相談

PMS治療では妊娠希望が絡むことも多く、妊娠や胎児への薬剤による影響を考える必要があります。妊娠希望や妊娠の可能性がある方は、漢方薬に限りませんが、薬を処方してもらうときは、必ず医師に申し出てください。


生活面で効きを底上げするコツ(薬とセットで効く)

  • 睡眠の固定(入眠時刻を一定にするだけで波が減る人がいます)
  • カフェイン・アルコールを月経前は控えめに
  • 軽い有酸素運動(週2〜3回で十分)
  • 症状日誌(「何が効いたか」が可視化され、治療の成功率が上がる)

よくある質問(FAQ)

Q. 漢方はいつから飲み始めればいい?
A. 基本は毎日内服でよいです。月経前だけにすると判定がぶれやすいので、まずは1〜2周期は連続で評価するのが実務的です。

Q. どれを選べばいいか分かりません。
A. 迷ったら「一番つらい症状」で決めます。

  • 気分の波・イライラ中心 → 加味逍遙散
  • むくみ・冷え・だるさ中心 → 当帰芍薬散
  • のぼせ+肩こり+下腹部の張り中心 → 桂枝茯苓丸
  • 怒りっぽさが突出 → 抑肝散

Q. 効かなかったらどうする?
A. ①PMSの周期性が本当にあるか、②睡眠不足や過労が上乗せされていないか、③別疾患が混ざっていないか——ここを見直すのが先です。その上で処方を替えます。


まとめ

PMSの漢方は「どれでも同じ」ではなく、症状の出方(タイプ)で処方を分けるのがコツです。日本の診療指針でも、当帰芍薬散・加味逍遙散・桂枝茯苓丸を中心に、抑肝散系を状況に応じて使う整理になっています。
一方で、エビデンスはまだ十分とは言えないため、症状日誌で効果判定しながら、安全面(甘草など)に注意して使うのが現実的です。

永井 常高

永井 常高

熊本大学卒 慶應義塾大学医学部精神神経科教室 精神保健指定医 精神科専門医・指導医

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