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心療内科

心療内科と聞くと、多くの方が「心の病気を診る科」というイメージをお持ちかもしれません。しかし、本来、心療内科は「内科の一分野」です。 その大きな特徴は、身体の症状と心の働きが密接に関連しているという「心身相関」の視点に基づき、患者さんを全人的に理解し治療する点にあります。 

診断の出発点はあくまで身体の症状であり、その発症や経過に、ストレスをはじめとする心理社会的な要因が深く関与する「身体疾患」を主な対象とします。 従来の臓器別の医療では原因が特定しにくかったり、治療が難しかったりする症状に対して、心と身体の両面から包括的にアプローチするのが心療内科の役割です。 

精神科との違い

患者さんから最もよく受ける質問の一つが、精神科との違いです。両者は心の健康に関わる点で共通していますが、アプローチの出発点が異なります。

診療科主な対象アプローチの出発点
心療内科心理社会的要因が関わる身体疾患(心身症など)身体の症状(腹痛、頭痛、動悸など)
精神科脳の機能的な問題による精神疾患(うつ病、統合失調症など)心の症状(気分の落ち込み、不安、幻覚など)

近年、精神科受診への心理的ハードルを下げる目的で「心療内科」を標榜する精神科クリニックが増えたため、両者の区別が曖昧になっています。 当クリニックは精神科・心療内科の両方を標榜し、どちらの視点からも専門的な診療を提供します。

心療内科を理解する上で最も重要な概念が「心身症」です。これは、心理社会的なストレスが、身体の機能や構造に具体的な影響を及ぼす状態を指します。 

心身症の定義

日本心身医学会では、心身症を「身体疾患の中で、その発症や経過に心理社会的な因子が密接に関与し、器質的ないし機能的障害が認められる病態」と定義しています。 

重要な点は以下の通りです。

  1. あくまで身体の病気:
    心身症は精神疾患ではなく、胃潰瘍や気管支喘息のような身体疾患です。 
  2. 心理社会的要因の関与:
    発症や悪化の引き金として、ストレスなどの心理社会的要因が無視できない役割を果たしています。 
  3. 器質的・機能的障害:
    胃潰瘍のように組織の構造的な変化(器質的障害)が認められる場合と、過敏性腸症候群のように検査では異常がないものの機能的な不調(機能的障害)が認められる場合があります。 

ストレスは、自律神経系、内分泌系、免疫系などを介して身体に直接的な影響を及ぼします。 例えば、過度な緊張は血圧を上昇させ、胃酸分泌を過剰にし、免疫機能を低下させることが科学的に証明されています。 心身症は、このようなメカニズムを通じて心理社会的な問題が身体症状として現れた状態なのです。

心療内科では、一人の人間を「生物学的(からだ)」「心理的(こころ)」「社会的(環境)」という3つの側面が相互に影響しあう統一体として捉える「生物・心理・社会モデル」に基づいて診療を行います。 

  • 生物学的要因: 遺伝的素因、体質、身体の状態(既往歴や現在の身体疾患)など 
  • 心理的要因: 認知、感情、行動、パーソナリティ、ストレスなど 
  • 社会的要因: 家庭・学校・職場環境、人間関係、経済状況、社会的支援など 

精神疾患や心身症は、これらの要因が複雑に絡み合って発症・悪化・慢性化すると考えられています。 治療においても、この3つの側面から総合的にアプローチすることが不可欠です。 

心療内科の治療は、単に薬で症状を抑えるだけでなく、症状の根本にある心理社会的な問題に働きかけ、患者さん自身が持つ治癒力を引き出すことを目指します。

治療の真骨頂:「病態仮説」の構築と共有

治療プロセスの中核をなすのが「病態仮説」の構築と共有です。 これは、患者さんの症状、生活背景、心理状態といった情報を統合し、「なぜこのような症状が、今このタイミングで現れているのか」という問いに対して、医師と患者さんが共に納得できる物語(ナラティブ)を創り上げる共同作業です。 

このプロセス自体が、患者さんの不安を和らげ、治療への主体的な参加を促す強力な治療的介入となります。 患者さん自身がご自身の状態を理解し、見通しを持つことで、漠然とした不安が軽減されるのです。 

心療内科医

心理療法の活用

症状の根本原因となっている心理社会的要因に働きかけるため、様々な心理療法を用います。 これは、患者さん自身がストレスへの対処法を身につけ、自己理解を深めることを支援する重要なツールです。 

心理療法の種類主な目的とアプローチ
支持的精神療法医師が患者さんに共感的に耳を傾け、安心感を与え、不安や苦痛を和らげることを目的とする基本的なアプローチです。 
患者さんが自身の力で問題解決できるよう「支持」することに重点を置き、あらゆる治療の基盤となります。 
認知行動療法 (CBT)出来事に対する自動的な考え(認知)が感情や行動に影響を与えるというモデルに基づき、不適切な認知パターンを修正し、より適応的な行動を学習します。 
自律訓練法自己暗示を用いて心身のリラックス状態を導き出す技法です。 
ストレスによる自律神経系の乱れを整え、心身の緊張を緩和します。 
交流分析自我状態(親・成人・子)のモデルを用いて自己を分析し、対人関係のパターンを理解・改善することを目指します。 

これらの心理療法は、薬物療法と並行して、あるいは中心的な治療法として用いられます。

心療内科が扱う疾患の範囲は非常に広く、一般的な身体疾患から、検査では異常が見つからない「医学的に説明困難な症状(Medically Unexplained Symptoms: MUS)」まで多岐にわたります。 

消化器系の心身症

消化器は「第二の脳」とも呼ばれ、心理的ストレスの影響を非常に受けやすい臓器です。

  • 過敏性腸症候群 (IBS):
    腹痛や腹部不快感が排便によって変化し、下痢や便秘などを伴う機能性の疾患です。 
  • 機能性ディスペプシア (FD):
    胃潰瘍やがんなどの器質的疾患がないにもかかわらず、みぞおちの痛みや胃もたれが慢性的に続く状態です。 

疼痛および神経系の心身症

痛みやめまいは生活の質(QOL)を著しく損なう一方、検査で異常が見つかりにくく、心理社会的要因と深く結びついていることが多い症状です。

  • 一次性頭痛:
  • 片頭痛や緊張型頭痛など。鎮痛薬の使いすぎによる薬物乱用頭痛(MOH)にも注意が必要です。 
  • 慢性疼痛:
    組織の治癒後も3〜6ヶ月以上痛みが持続する状態。 痛みに対する恐怖や不安が症状を永続させる悪循環(痛みの恐怖回避モデル)を生みます。 
  • 持続性知覚性姿勢誘発めまい (PPPD):
    3ヶ月以上持続する、回転性のない不安定感が主症状のめまいです。 

代謝・内分泌および摂食関連の心身症

日々の生活習慣と密接に関連し、行動変容が治療の鍵となりますが、その背景には複雑な心理社会的要因が存在します。

  • 肥満症:
    なぜ過食に至るのか、運動が続けられないのか、といった行動の背景にある心理的要因(ストレス対処としての食事など)に焦点を当てます。 
  • 2型糖尿病:
    自己管理に伴う大きな心理的負担(合併症への不安、抑うつなど)に対し、治療に前向きに取り組めるよう支援します。 
  • 神経性やせ症:
    極端な食事制限と「やせ願望」を特徴とする摂食障害です。 背景にある自己評価の低さや家族関係の問題など、複雑な要因に取り組むためチーム医療が必須です。 

重篤な身体疾患と心の問題

生命を脅かす疾患に直面した患者さんとご家族の精神的苦痛に対処し、QOLを維持することも心療内科の重要な役割です(リエゾン精神医学)。

  • サイコオンコロジー(精神腫瘍学):
    がん患者さんとその家族が直面する心理社会的な問題に対応します。 
  • サイコネフロロジー:
    慢性腎臓病(CKD)患者さんの心の問題を扱います。 

現代医療が専門化・細分化する中で、患者さんを身体・心理・社会的な側面を持つ一人の人間として全人的に捉え、多職種が連携して支える統合医療の重要性はますます高まっています。 

心療内科は、身体科と精神科の架け橋となり、症状の根本原因に迫ることで、患者さん一人ひとりの物語に寄り添う、より人間的な医療を実現する要となる診療科です。 

身体の不調が続いているのに検査では異常がない、ストレスがかかると症状が悪化する、といったお悩みをお持ちの方は、ぜひ一度、神楽坂メンタルクリニックにご相談ください。院長は総合病院の精神科での臨床経験も豊富なので、身体面からのアプローチも得意とするところです。安心してお任せください。

  • 大武陽一. 『みんなの心療内科』. 中外医学社, 2024.
  • 日本心身医学会教育研修委員会. 「心身医学の新しい診療指針」. 『心身医学』, 1991; 31: 537-73. 
  • 久保千春, 編. 『心身医学標準テキスト』. 医学書院, 2009. 
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